第195話―トロルの群れを斬る―
バサッ!
「……寒ッ!」
突然寒気が襲ってきて、起き上がる。何事かと周りを見ると、ぼやけていた視界がどんどん晴れてくる。
よく見えるようになって、ふと横を見ると、ニッコリと笑ったリンネが、両手で布団を持っている様子が目に映った。
どうやら寝ていた俺を、リンネが布団を剥ぐって起こしたらしい。もう少し普通に起こしてくれと、リンネを小突く。
「……!」
「はあ……おはよ、リンネ。よく眠れたか?」
「……!」
リンネは何度も頷いている。たまとジゲンには良くしてもらったようだ。
……同じ家なのに、友達の家に泊まりに行く子供を見送ったような思いになってしまった。
さてその後は、一緒に布団をたたみ、俺は着替えた。
リンネは先に部屋を出る。飯の用意を手伝うようだ。ちなみにツバキも居ないところを見ると、皆と一緒にツバキも家の手伝いをしているみたいだな。
女中というわけでもないのだから、ゆっくりしていれば良いのに……。
ふと見ると、俺以外の冒険者たちの姿がすでに無かった。庭の掃除をしている女中を捕まえて聞いてみると、今朝の明け方に、既に依頼に発ったとのことだった。何人かは距離が遠いということもあるが、その他の者たちは、早々に終わらせて、早く帰っておきたいということらしい。
たまのこともあるし、今はもう日が短い。夜というのはあっという間にやってくる。日が出ている間にどれだけ依頼をこなすのかが問題となってくる。
明るいうちに全てを済ませたいと思っての行動のようだ。なるほどと、頷き、俺も明日からはそうしようかなと考えていた。
「あ、ムソウ様。おはようございます」
ぼんやりと縁側で考え事をしていると、ツバキが声をかけてくる。ツバキは着物の上に、何やら綿入りの羽織のようなものを纏い、温かそうにしている。
「ああ、おはよう」
「朝食のご用意が出来ましたので、お呼びしようかと思っていましたが、丁度良かったですね」
「そうか。なら、行くとしよう……」
ツバキに連れられ、飯を食いに行く。食事の部屋へ着くと、今日は汁物と、昨日の晩飯の残った肉と、野菜の炒めものだった。味噌を解いて、野菜などと一緒に煮ただけの汁物が、冷えた朝にはじんわりとしみ込んで美味い。
「ああ~……美味いなあ~」
「おじちゃん、おいしいって、いってくれるのはうれしいけど、それじゃあ、おじいちゃんみたいだよ」
汁を口にしては、ふう、と力が抜け、また一口飲めば、力が抜けて、うっとりしていると、たまが横から呆れたように喋ってくる。
ふとジゲンの方を見ると、俺と同じように食べては、一息ついているようだった。ああ、ホントだ。爺さんみたくなっている。周りで見ていた皆がクスクスと笑い出し、恥ずかしくなる。
リンネは食器を上手く使いこなせないためか、獣の姿になって、料理を食っている……と、思っていたが、ツバキによれば、高天ヶ原では普通に箸を使っていたらしい。多分、あの方が食べやすいんだろうな……。
依頼に出るので力を付けとけと言うと、リンネはニッコリと笑って、更に料理を食べていた。
「美味しい? リンネちゃん」
「キュウッ!」
たまの問いかけにリンネはにっこりと笑って、頷く。たまは汚れたリンネの口周りを拭いて、頭を撫でていた。
「かわいいなあ~……でも、リンネちゃんと私たちがおなじもの、たべれるってふしぎだよね~」
「ん? ……ああ、そういえばそうだよな」
たまの言葉に頷く一同。あまり気にしたことは無かったのだが、動物の中には、食べさせてはいけない食べ物というのがある。昔、アキラに聞いたのだが、例えば、猫に玉ねぎを食べさせるのは駄目らしい。
ただ、リンネにはそういうものは無いらしく、俺と同じものを何度も食べていた。
「まあ、そうは言っても、魔物だからな。そこらへんは、人間や他の動物たちよりも強いのかも知れない」
「じゃあ、辛いものとかもだいじょうぶかな~? さいきん、さむくなってきたから作ろうと思って……」
「それは構わないと思うが、リンネの分はそこまで辛くしないでくれ。食えないことは無いと思うが、苦手なものではあると思うからな」
リンネは基本的に、甘いものが好きだからな。辛いものは苦手かもしれん。たまは俺の言葉に分かったと頷いて、リンネの世話をしながら、飯を食い始めた。
「時に、ムソウ殿たちは、今日はどのくらいに戻るのかの?」
ジゲンが茶をすすりながら、聞いてくる。帰ってくる時間を知ることが出来れば、飯の準備だったり、風呂の準備だったりが、計画的に出来るとのことだ。
「う~ん……シンムの里近くの森らしいからな。そこから少し用事を片付けて、ここに帰ってきて、天宝館に行って……夕方は過ぎるよな?」
「ですね。まあ、私の用事も早く済ませるようにしますし、ムソウ様が昨晩仰っていたように、急ぎの場合はリンネちゃんに頑張っていただきましょう」
ツバキはそう言うと、リンネを撫でる。リンネは任せてくれと言わんばかりに、胸を張って、頷いた。
「というわけで、そのくらいまでには帰る。美味い晩飯を楽しみにしているからな、たま、それに皆も」
「は~い!」
俺の言葉にたまは頷き、女中たちもお任せくださいと頷いた。よしよし、今日の晩飯も楽しみにしておこう。
さて、朝飯を食い終えた後は、準備を整え、トロル討伐に出る。街を出るまではリンネはいつも通り、俺の肩の上だ。寒くないかと聞いたが、リンネは大丈夫だと笑った。
ツバキの方は、古龍ワイバーンと壊蛇の鱗で出来た新しい胴当てに、こないだ買ってやった冬物の袴と衣を纏い、その上に羽織を着ている。そして、細長い襟巻を首に巻き、寒さ対策は万全だ。準備が整うと俺の顔を見て頷く。
「では、行ってくるよ」
「行ってきます」
「キュウッ!」
俺達はたまたちに見送られながら、屋敷を出る。後ろから、たま達の、行ってらっしゃいという元気な言葉が聞こえてきた。
その後、門を出て、リンネは大きくなる。旅をしていた時のように、ツバキの後ろに俺がまたがり、地図を広げた。
「よし。じゃあ、リンネ。出発だ」
「クワン!」
元気な返事と共に、リンネは駆け出す。いつもは自分で飛んでいたからな。それよりは早くないのだが、俺もこの間に色々と作戦を立てたりできる。魔物も襲ってこないし、こちらの方が楽だ。
それにリンネの体は温かい。絶対こっちの方が良いと、リンネに揺られながら頷いていた。
ツバキの方は寒そうにしながらも辺りを警戒しているようだった。ただ、周りに魔物は見えない。
時々、休憩を挟みながら、また、辺りを見渡したりしている。闘いもあるのだし、今くらいは休んでおけと言うと、ツバキは頷き、俺の体にもたれてくる。
「こちらでも……よろしいですか?」
「はあ……まあ……良いよ」
ニコリと笑うツバキに頷くと、満足したのか、そのまま体を休ませていた。
リンネの方は出発してから、速度を落とすことなく警戒に街道を進んでいく。どちらかというと活発な子だからな。妓楼に居る時よりも、思いっきり体を動かせるのが良いようだ。
魔物本来の姿で、伸び伸びと動くリンネを撫でながら、旅を続けた。
そして、昼前にはシンムの里を通り過ぎた。ジゲンとたまとゆっくり馬車で旅をしていた時には半日かかった道程だが、急いで来たら、こんなにも早くなるのかと思いながら、なおも進んでいく。
途中、俺がオオイナゴを倒した辺りにたどり着いた。闘いの後はほとんど残っていない。
あの時も、資料と数が違い過ぎて、困ったんだよなあと思いながら、今日の依頼場所へと急ぐ。今日は流石に資料通りであってくれ……。
……だが、やはりというか、何と言うか、俺の期待というのは、簡単に裏切られる。
◇◇◇
「……多くないか?」
「……はい」
「……キュウ」
俺達は茂みに隠れ、辺りを見渡しながら言葉を失っていた。リンネは俺の肩の上で、器用に前足で鼻をふさいでいた。
……匂いが凄いからな。一体だけでも凄そうなのに、これだけ居るとなあ……。
シンムの里を通り過ぎ、しばらく走ると、地鳴りのようなものが起こった。急いでリンネを止めて、周囲の気配を伺う。
すると、その地鳴りというのは足音のようなものに感じた。討伐対象のトロルというのは大きな魔物だ。そして、今回はそんな奴らが群れを成している。
恐らく、この地鳴りは、そいつらのものだろうと思った俺達は、地鳴りが強くなる方に向けて歩いて行った。
そこは街道から少し外れた森の中。草や枝をかき分けながら前へと進んでいく。
だが、進むたびに異変に気付く。森の周囲がとてつもなく臭い。デスニアの時までとはいかないが、何と言うか、ずっと放置した糞尿の臭いを何倍もきつくしたようなものだった。
そして、それが、俺達が進むにつれて強くなっていく。俺達は手ぬぐいを取り出し、口元を覆った。これで、幾分かマシだ。だが、リンネは辛そうである。獣だからか、感覚というのは人間の何倍も強い。
リンネの嗅覚の良さには助けられることもあるが、今回はその強すぎる嗅覚というのがあだになったようだ。
俺の肩の上で、辛そうな顔をして、鼻を抑えるリンネ。少しはマシになるだろうと思い、リンネを懐に入れた。
そして、草木をかき分けて進むと……そいつらは居た。トロルで間違いないだろう。腰巻だけを付けた、でっぷり太ったオッサン、という表現が正しいのか。皆の話通り、デカい。
そこらの木と同じくらいの大きさだ。トロルたちはそれぞれ森のあちこちに座っていたり、何かの魔物の死骸を食ったりしている。
ツバキと共に驚いたのはその数だ。十、二十ならまだしも、五十体はそこらに居る。流石に、オウガの群れよりはだいぶ少ないが、デカい分多く感じる。
そして、中には他のトロルたちよりも、一回りデカい個体も居る。そいつは他の奴らよりも少し小高い場所で胡坐をかき、けだるそうにしていた。
ツバキに確認すると、あれがトロルキングだという。やっぱり居るじゃねえか、上位個体、と頭を抱えた。
だが、装備しているものから考えると、それ以上の個体は居そうにないので、安心する。
そうやって、群れを観察していると、この悪臭の理由も分かった。トロルというのはどうもずぼらな生態らしい。地べたに座ってはトロル同士で、何か話していたり、腹を書掻きながら寝ころんだりしている。
そして、そのまま……何と言うか、雉を撃ったりしている。嫌な音が響くと共に、リンネは更に嫌そうな顔をし、ツバキは目を背けたりしている。流石の俺も顔を顰める光景だ。
それで、図体がデカいから量も多い。しかも決まった場所で、とかではなくそのままいろんなところでやっている。恐らく縄張りを維持するための行動だろうが、それにしたって、気持ちの悪くなる光景だ。
そして、どうやって拭くのかと思っていると、素手で尻を拭き……というか撫でて、手の方は体にこすりつけて、綺麗に(?)しているようだ。
……なるほど。ジゲンの言いたいことが分かった。確かにあれじゃあ、素材を持って帰って、着物を作っても着たいとは思えない。今回は諦めよう。
しかし、見た感じだとおとなしそうである。確かにこの悪臭の被害はひどいものだが、倒すべき奴らなのかと疑問に思っていると、ツバキが俺の肩を叩いた。
「ムソウ様……あちらを」
「ん? あ……」
ツバキの指差した方向を見てみる。そこには資料に書いてあったように、そこらの村から攫われたのだろうか、若い女たちが、牢のようなものの中に閉じ込められていた。
時折、トロルたちが寄って行っては、裸同然のその者たちを嘗め回すように眺め、舌先で弄んでいるのが見える。
む……少し、嫌なものを見た気になり、憤る。あの女たちがこれからどうなるかなど、すぐに予想が出来る。
一刻も早く助けようと思い、リンネとツバキと作戦を立てる。まずはこの悪臭をどうにかしなければならない。リンネが上手いこと戦えないからな。
だが、トロル自体の動きは聞いていたように鈍重そうだ。リンネが動けるようになれば、ツバキと共に何とかなる……よし。
「では、まず俺が神人化し、この辺りの空気を浄化する。少しでもこの匂いは薄まるかも知れない。だが、それだとトロルたちに気付かれる。だから、俺の合図で二人は飛び出し、俺の援護を頼む」
「かしこまりました」
「キュウッ!」
「よしよし。俺は周りのトロルを倒しながら、あのデカ物、トロルキングを目指す。そうすると、トロル共は俺を奴に近づかせまいとこの場を離れていくだろう。その隙に、女たちを救い出せ。良いな?」
俺の立てた作戦に二人は頷く。牢の前には二体ほどのトロルが大きなこん棒、というか丸太を持って守護しているようだが、ツバキとリンネでも大丈夫だろう。
そして、各々やるべきことを理解したことを確認し、俺は茂みから飛び出た。がさっと音を立てたものだから、そこらに居たトロルたちはこちらを振り向く。
俺は無間を抜き、スキルを発動させた。
―おにごろし発動―
無間が輝きだし、俺の神人化が完了する。無間の光を浴び、俺の姿を見たトロルたちは、驚き、嫌悪感を顔いっぱいにあらわにした。
俺から出ている天界の波動は、魔物にとって嫌なものだからな。トロルたちは武器を構えて、こちらに向かおうとする。
「ブオオオオオッッッ!!!」
「邪魔だッ! 光極波ッッッ!!!」
真っ先にこちらに向かってくる一体のトロルに向けて、天界の波動で出来た剛掌波を討ち込む。トロルは俺の攻撃に当てられ、そのまま消滅した。そして、俺の技は大きな木に当たり、はじけ飛ぶ。
そして、辺りを包んでいた悪臭が少し収まった。浄化の方が出来たらしい。
その瞬間、俺の背後から大きくなったリンネと、刀を抜いたツバキが飛び出してくる。
「はあッッッ!」
「クワンッッッ!」
ツバキは斬波を、リンネは狐火をトロルの群れに撃ち込む。それに当たったトロルは斬られたり、燃やされたりしていた。
この場は二人に任せ、俺はトロルキングの方に向けて駆けだす。
トロルたちは、ツバキたちに倒されながらも、俺が自分たちの主の元へ行くことを阻止するために、俺の前へと次々と立ちふさがった。
「どけええええッッッ!!!」
俺は無間をふるい、一体、また一体、とトロルを斬りつける。流石は無間だ。ジゲンから聞いていたような、物理攻撃に強い、というのは今のところ感じない。
だが、こいつら、やはり不衛生な生活を送っているためか、斬ったところから噴き出るこいつらの血肉、臓物は、他の魔物たちに比べて、凄い悪臭を放つ。
これだと、斬る度に、また最初のようになると思った俺は、無間に天界の波動を纏わせ、斬りながら死骸を浄化していくと、悪臭は止まった。
これならリンネも大丈夫だろうと振り返ると、俺達の作戦通り、ツバキたちの周りは手薄となっていた。ツバキと視線を交わし、合図を送ると、ツバキは頷き、女たちの解放に向かう。
背後の心配は要らなくなった。俺は奥義を発動させ、トロルキングに迫っていく。
「行くぞッ! 奥義・無斬ッッッ!」
俺は向かってくる三十ばかりのトロルたちに天界の波動を纏わせた無間を振っていく。一撃、一撃、というよりは、一体ずつ斬っていくたびに、大きく、強くなっていく俺の斬撃。
そのまま走りながら、トロルたちで出来た壁を突破する。そして、進む先にトロルキングしか見えなくなると、俺は跳躍し、一気にトロルキングに迫る。
「ブルオオオオッッッ!!!」
「これで……終わりだ、糞野郎ッッッ!!!」
大きなこん棒を振り上げ、俺を叩きつけようとするトロルキングを、袈裟切りに、無間をふるった。肩口から斬られたトロルはそのままドシンッと大きな音を立てて、息絶えた。
俺は無間の血を払い、背中に収める。
「……さて、一応倒したが、素材はどうしようか……浄化して、持って帰るか……」
持って帰ったところで、こんな臭いもの、どうすれば良いのかと悩む。ただ、これが無いと、依頼達成の報告も面倒なので、一応、死骸が無くならないように、これでもかというくらいに浄化して、臭いをとり、全て異界の袋に収納した。
……っと、ツバキたちはきちんと女たちを助けたのだろうか。そう思いながら、牢の所に向かう。
すると、既にツバキたちは、牢番のトロルを倒し、牢を斬って、女たちを解放させていた。
「おう、上手くいったみたいだな」
「あ、ムソウ様。こちらは全員ご無事ですよ」
「クワンッ!」
ツバキたちに手を振ると、二人はニコッと笑う。ただ、倒した死骸の所為で、臭いはきつそうだった。俺がすぐさま浄化し、異界の袋へ入れると、リンネは嬉しそうに尻尾を振った。
そして、解放した女たちの方はというと、牢から出てきて、ツバキに頭を下げている。だが、俺が神人化しているからか、近づいていくと、女たちは振り向き、驚いたように目を見開く。
「な、なに、この人!?」
「人なの!? 魔物なの!?」
などと言われ、少々傷ついた。
その後、トロルの血で汚れていたツバキとリンネ、そして、この環境にずっといて、悪臭が染みついてしまっていた女たちに光葬雨を降らせ、浄化する。
自らの髪や体の臭いを嗅ぎながら驚く女たち。何が起こったのか、ツバキが説明すると深々と頭を下げてきた。
「あ、ありがとうございます!」
「いや、いいって。それよりも、これからどうするんだ?」
女たちにそう尋ねると、少し困ったような顔をする。話を聞くと、自分たちはそれぞれ別の場所から攫われてきたのだそうだ。だからこのまま、自分たちの街に帰ろうにも、少し距離がある者も、居るし、中には故郷がすでにトロルたちの攻撃を受けたという者達も居るようで、今はそこがどうなっているのかわからないという。
俺は女たちの話を聞いて、どうしようかと悩む。このまま森に置いていくわけにもいかないし、どうしたものだろうか……。
「なあ、ツバキ。どうにかならないか?」
「そうですね……では、このまま皆さんで、シンムの里に行きましょう。騎士団の駐屯地に行けば、そのまま皆さんを保護という形で、一時身柄を預かることが出来ます」
なるほど。それはいい考えだ。騎士団に行けば、情報も入るだろうし、大丈夫だろう。
というわけで、助けた女たちをシンムの里に連れていくことにした。女たちにそう言うと、皆、喜んで頷く。
「ですが、このまま連れて行くわけにはいきませんよね……」
と、ツバキは女たちを眺めながら呟く。そう、女たちは布一枚を羽織っているだけの裸同然の格好をしている。このまま街に連れていけば、俺達が……特に俺が変な目で見られる。まるで人攫いの様相だ。
それじゃあ、昔のエンヤのようである。それだけは嫌だと思い、どうするか考えた。
「……あ、そうだ」
着物をどうしようか考えていると、一つ思い出したことがあり、異界の袋を取り出す。前に、サキュバス達を殲滅した時に、奴らが根城にしていた洞窟から色々と盗み出した。その中には、女物の上等な着物もあったはずだ。
異界の袋から、それを取り出してみる。……うん。数は揃っている。だが、少し甘ったるいような匂いがする。これは……媚薬か。
これをそのまま着せるわけにはいかないと思い、着物を浄化する作業に入った。
着物をひとまとめにして、天界の波動を浴びせる。ついでに、トロルたちの血や臓物、それから糞尿で汚れているそこらの土壌を浄化していく。このままにしておくとグリドリの森みたいになってしまいそうだからな。
そうやって、浄化していると、女たちがひそひそとツバキに話しかけている声が聞こえた。
「……ねえ、あの人って、本当に人?」
「何か、凄いことしている様子ですが……大丈夫なのですか?」
「私達、お金とか持ってないわよ?」
ツバキは少し、笑いながら、女たちに大丈夫です、と対応している。これじゃあ、本当に、昔の闘鬼神みたいだな。エンヤや俺達に怯える民衆たちの今後を、必死で説明していくサヤと他の奴らの姿が、克明に思い出された。
俺は少しため息をつきながらも、作業を続けていった。




