表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
マシロを旅立つ
109/534

第108話―初めての依頼に挑戦する―

 翌朝、いつも通り、ギルドの食堂で飯を食っていた。すると、やはりいつも通り、マリーたちがやってきた。いつもの光景に戻ったなあと思ったが、マリーとエリーの顔色は悪いようだ。


「あ……ムソウさん……おはようございますぅ……」

「おはよーございますぅ……むそうさ~ん……」


 マリーとエリーは、椅子に座ると、ガクッと机に突っ伏した。リリーはいつも通りだ。俺を見て、軽く挨拶をしながら、飯を食べ始める。机に突っ伏したままの2人を指差して、


「おい、リリー、こいつらどうしたんだ?」


 と、聞いてみた。すると、リリーははあ、とため息をして、


「二日酔いです」


 と言った。ああ、なるほど。昨晩はかなり酔っていたからな。エリーはいつにも増して子供のようになっていたし、マリーも顔を赤くしながら、俺にどうでも良いことを教えてきたりして。

 確か、父親似のリリーと違って、こいつらとホリーは母親似だったよな。だが、ホリーは酒を呑んだ次の日はケロッとしていたが、こいつらは本当に弱いみたいだな……。

 ……ふと、気になったことがあったので、二人に聞いてみる。


「なあ、マリーさん、昨日のことは覚えているか?」

「えぇ? ムソウさんのお話ですか? それはもう……きちんと覚えていますよ……」


 お、ホリーと違って、酔っていた時に聞いた話というのは覚えているらしい。

 だが、その隣で、エリーはキョトンとしていた。


「え? ムソウさんのお話? 何々? 何の話? お姉ちゃん」


 そうか……反対にエリーはホリーと同じで、酔っているときのことは覚えていないらしい。……これは、ホリーの奴、俺があの時してやった、おとぎ話のこと、本当に忘れている可能性があるな……押しかけてきたホリーを追い出さずにしてやったのにな。もう二度としてやらねえ、と心に誓った。


「え、何の話? ……あの……何の話ですか?」


 エリーはずっと、何の話? と言っていたが、最終的に、俺の方を向いて聞いてきた。俺は一つ、ため息をつき、エリーの頭を撫でた。


「また今度、お姉さんたちに聞いてくれ」


 俺がそう言うと、エリーはわかりました、と嬉しそうにして、頷いた。


「お、ま~た、エリーの頭を撫でてやがる」


 ふいに、背後からロウガンとリンスがやってくる。ロウガンは昨晩、そこまで酒を呑んでいないし、リンスは酒に強いらしいので、二人とも顔色はいつも通りだ。ロウガンはニヤニヤしながら、椅子に座る。


「昨日はあれから、ミサキ様と何してたんだ?」


 ロウガンは椅子に座るや否や、俺にそのままニヤニヤとしながら聞いてきた。マリー、リリー、リンスは、頭を抱えている。

 俺も正直、ロウガンに呆れて、ため息をつく。こいつら、まだ俺がミサキをあの後、襲ったものだと思っているな……。

 俺は少し、からかってやろうと思い、口を開く。


「ああ……言った通り、お互いの秘密で、大事なものを見せ合ったりしたよ。

 本当に、良い体験をしたもんだ……」


 ……嘘は言っていない。俺が見せた仲間たちのことも、ミサキが見せてくれた、故郷の世界のことも、どちらも素晴らしいものには違いないからな。そういう意味で俺は皆に笑ってそう言った。

 しかし、皆は目を見開き、変なものを見るような目で俺を見てきた。すると、ロウガンと、隣に居たリリーが、スッと、俺から離れていく。


「そ、そうか……ムソウ……それは良かったな……」


 ロウガンがそう言うと、他の皆も、パッと俺から視線をずらし、飯を食い始めた。俺は心の中で、お前ら一生勘違いしとけ、と思っていた。


 だが、そんなやり取りをした後に、ふと思った。やはり、こういうやり取りもずいぶん久しぶりな感じがすると。

 呪いの事件からそんなに経っていないが、ようやく前通りの皆に戻ったな、と改めて実感した。


 さて、そう思いながらも飯を食い終えた俺は席を離れようとした。すると、ロウガンに声をかけられる。


「あー……ムソウ」

「ん? 何だ?」

「明日の夕方、悪いが支部長室に来てくれ」


 ん? 何の用だろうか。ひとまず、ロウガンの言うことにわかった、と頷いて、取りあえず、ギルドの依頼票を眺めてみた。今日はもう、普通に依頼をこなそう。

 どういったものがあるかな?


 ……


 氷冷鉱石の採集 報酬一個につき銀貨100枚 魔鉱塊ならば銀貨500枚 要採集スキル、鑑定スキル

 ナオリグサの採集 報酬一本につき銀貨50枚 実がついていれば銀貨100枚 要採集スキル、鑑定スキル

 クーマの討伐 報酬銀貨20枚 素材売却金銀貨200枚 ただし、素材は全て依頼主のもの また、報酬は討伐数により変動


 ・

 ・

 ・


 ……


 う~む……どれもピンと来ねえな。唯一ある討伐依頼もこないだ、ツバキの家で食ったクーマって魔獣だ。普通に食えるということは、そこまで価値の高いものじゃないと思っている。ということは、クーマ自体は弱いはずだ。ミニデーモンよりも安い報酬ということは、単に食材集めの意味合いが強いのかも知れないな。

 そう言えば、呪いの事件の前に、精霊人の森から出てきた魔物たちについて、俺がベヒモスを倒した荒野の調査もしていたが、これを見る限り、だいぶ魔物も減っているようだな。少なくとも、中級以上の魔物は確認できない。良いことなのだが、何となくつまらないなあと感じた。


 仕方ない。今回は採集依頼でもしてみるか。何気に初めてだしな。俺は氷冷鉱石採集の依頼票を手に取り、マリーの方に向かった。


「よう、マリーさん。今日はこれを受ける」

「あ、はい、ムソウさん。え~と……氷冷鉱石の採集ですか……採集の依頼は初めてですよね?」

「ああ」


 俺が頷くと、マリーは採集依頼についての説明を始めた。二日酔いにも関わらず、このあたりの説明はてきぱきとしている。仕事に入ると、きちんとはするらしい。


 さて、採集依頼は基本的に手に入れた素材や植物、鉱石などは、依頼主の所にそのまま行くことになる。ゆえになるべく、傷つけずに持ち帰って欲しいとのことだ。俺はわかった、と頷くと、マリーはさらに付け加える。


「あ、そう言えば……氷冷鉱石は、冷たすぎて、素手で持つことは困難なものですが大丈夫ですか?」


 精霊人の森で一回見たな。長老は普通に持っていたようだが、あの時は魔法か何か使っていたのかも知れない。

 まあ、大丈夫だろうと思い、ギリアンから貰った小手をマリーに見せた。


「たぶん、問題ないはずだ。一応、火炎鉱石はつかめたが、大丈夫か?」


 俺の問いに、マリーは大丈夫です、と頷き、支援品を渡してきた。


 回復薬 10個


 活力剤 10個


 耐寒袋 10個


 今回は、討伐依頼ではないので、万が一怪我をした時のための薬と、氷冷鉱石のあると思われる場所を示した地図、さらに、氷冷鉱石を収納する袋だけだ。

 ツバキの家にあった火炎鉱石を入れていた袋みたいなものだな。ちなみに場所は、以前シロンと白露の花を採りに行った山の頂上付近らしい。俺はそれらを受け取り、ギルドを出ようとした。すると、マリーに声をかけられる。


「あら? そう言えば、ムソウさん。今日は、リンネちゃんは一緒じゃないんですか?」


 マリーの一言に、あ、と思った。そうか、まずはワイツ卿の家に行って、リンネを迎えに行かないといけないな。


「ありがとう、マリーさん」

「いえいえ、では、ムソウさん、行ってらっしゃいませ」


 俺はマリーの言葉に頷き、ギルドを出た。そして、ワイツ卿の家を目指していく。


 街を歩きながら、辺りを見ていると、だいぶ街の修繕は終わっているようだった。まあ、この世界には魔法もあるし、スキルもあるからな。そんな能力がない俺の世界は本当に苦労していたな、と改めて実感する。

 ちなみに、ここからでもミサキの作ったリンゴの木は良く見える。凄いな……町中からみえるなんてな。これだったら、皆今回の事件を忘れるということはないだろう。


 そんなことを思って街を歩き、ワイツ卿の家にたどり着いた。家の前には門番が居るが、俺の顔を見ると、すぐに開けてくれた。中は、やはりまだ、療養所のようになっているみたいだ。俺は皆の邪魔をしないように進んでいき、リンネを探していく。


 すると、後ろの方から、


「キュ~~~~~!!!」


 元気なリンネの声が聞こえて来た。振り返ると、リンネが走って俺の方に来ている。その後ろから、シロンとワイツ卿、さらにシーロが歩いていた。俺が走ってくるリンネに向けて腕を開くと、リンネは俺の胸に跳びついてきた。リンネを抱きしめるとぺろぺろと俺の顔を舐めてくる。


「キュウッ! キュウッ! キュウッ!」

「ハハハッ! くすぐったいぞ! リンネ」


 俺はリンネを抱え、頭を撫でてやった。すると、シロンが俺の前に来て、


「おじちゃん……楽しかった……ありがとう……」


 と俺に頭を下げた。俺はシロンの頭を撫でて、ワイツ卿に目を向ける。


「すまなかったな、リンネの面倒を見てもらって」


 そう言うと、ワイツ卿とシーロは笑って、


「いやいや、礼を言うのは私の方だ。あんなにも無邪気に喜ぶ娘を見たのは久しぶりだったらな」

「それに、リンネちゃんも可愛らしくて、私達も癒されましたわ」


 と言った。聞けば、昨晩は帰った後、シロンと一緒に風呂に入ったり、寝るまで一緒に、おとぎ話の本を読んだりしていたらしい。まるで姉妹のようなやり取りに、ワイツ卿とシーロは穏やかな気持ちになっていったという。俺は、そうか、と頷き、リンネの頭を撫でてやった。


「ところで、今日はどこへ行くのだ?」

「ああ。普通に依頼をこなしにな」

「ふむ……ムソウ殿は冒険者だったものな」


 ワイツ卿は笑ってそう言った。ここ最近は冒険者のようなことをしていないからな。ワイツ卿の言葉に俺も少し、笑ってしまう。


 すると、横に居たシーロが思い出したように、口を開いた。


「あ、そういえば、ムソウ様。昨日あの後――」

「ミサキとは何もないぞ。お互いに思い出を見せ合っただけだ。アンタらが変な解釈してただけだぞ。まあ、紛らわしい言い方をした俺にも責はあるがな」


 と、シーロの言葉を遮って、俺はワイツ卿たちには本当のことをそのまま言った。何せ、横には幼いシロンが居るからな。この子にああいう冗談とか悪戯はまだ早い。

 俺の言葉を聞いた、ワイツ卿、シーロ夫婦は目を見開き、はあ~~~と長く、深いため息をついた。


「そうだったか……いや、早合点してしまったな」

「まさか、ムソウ様にからかわれるとは……」


 などと、二人は言っている。目を見開くとき、ため息をするとき、そして、落ち込むときが二人で一致したのを見て、俺とシロンは顔を見合わせ、笑った。


 その後、手を振る三人に別れを言って、俺はリンネと山に向かった。


 今回はリンネにエンテイの姿になってもらい、街から飛んで、そのまま山頂へと向かおうとした。だが、流石、山の頂上というべきか、少し風が強まってくる。なので、頂上より少し下にリンネに下りてもらい、そこからは歩いて頂上を目指すことにした。


 頂上付近は、雪が積もっている。下は結構暖かったのにな。やはり、山の上と下とでは、季節が違う。

 幸い、リンネは毛で、俺は外套でそこまで寒さを感じていないが、風が強く、俺達の行く手を阻んでいる。


「クウウウゥゥゥ……」

「……リンネ、しっかり歩いていけよ。急がなくていいからな……」


 こういった場合、急いで走っていくよりも、落ち着いてしっかりと歩いていった方が良いからな。リンネにそう注意しておいて、俺達はゆっくりと進んでいく。幸い、急ぎの依頼でもないしな……。


 だが、山を登っていくと段々と風も強くなり、天気も悪くなってきた。気が付くと、雪も降り始め、辺りは猛吹雪となっていく。今の季節は……夏だよな? どれだけ高い山なんだよ……。


「クゥ……クゥ……クゥ……」


 リンネもだいぶ弱ってきているみたいだ。正直、俺も少ししんどい。少し、休憩をしようと、俺は登ってきた道に沿うように切り立っていた崖に無間を振るって、横穴を作っていく。それを見たリンネも爪を使って、穴を掘った。

 ある程度の広さを確保した後に、俺達はそこに入って、身を休めた。流石に大きくなったリンネが入れるような広さではなかったので、リンネは小さくなり、俺に抱きかかえられる形になる。


「さて……これで、大丈夫だな。にしてもお前、暖かいな~。

 お前はどうだ? 寒くないか?」

「キュウッ!」


 俺の言葉にリンネは大きく頷いた。そして、ある程度、体が温まった後、俺は異界の袋から数本の木を出して、それに火をつける。

 こうしておけば、なお、温かいからな。しばらく、そうやって、俺達は吹雪をやり過ごすことにした。


「……にしても、意外ときついな、採集の依頼って。今までで一番辛いかも知れないな」


 普段は漏らさない弱気な言葉を不思議に思ったのか、リンネは俺の顔を見上げ、ジッと見ている。

 今までは、倒すだけだったからな。今回は目的のものを探さないといけない。さらにそれが過酷な環境であればあるほど、報酬に関わらず、きついものになっていく。

 少し、侮っていたかもしれないな。俺は笑って、リンネの頭を撫でた。


 さて……吹雪は……まだ止みそうにはないか。


 そう言えば、この穴には氷冷鉱石は無いのかな。そう思って、鑑定スキルを使い、辺りを見わたしてみたが、特に反応は無かった。俺はため息をつき、焚火を眺めた。……うん、まだ、消えそうにはないな。


 さて、どうしたものか、と考えていると、リンネが俺の懐から飛び出た。


「……キュウ?」

「ん? どうしたんだ?」


 リンネは何か、辺りをきょろきょろとしている。何だろうと思い、俺も周りに意識を集中させた。


 ズン……ズン……


 ……ん? 何だ? 何やら地響きのようなものを感じる。何か大きな生き物が歩いているような感じだ。穴の中も音が聞こえる度に揺れている。外へ出て、確認したいがこの吹雪じゃ、どうしようもないな……。


 と、ここで気づく。地響き……そして……外は吹雪……まずい!

 俺は立ち上がり、手に気を集める。それに驚いた様子のリンネは、硬直しているみたいだ。


「リンネ! すぐに俺の傍まで来い!」


 俺はそう言うも、リンネは動かない。


「キュ……キュ……」


 俺の気迫に圧されたか、怯えているようだった。それくらい、俺は必死だった。


「チッ! リンネ! ぼさっとすんじゃねえ!」


 俺はリンネを掴んで、懐に入れた。その直後……


 ゴゴゴゴゴゴ……


 大きな地鳴りの音が聞こえる。……来たか!


 俺はその時まで出来るだけ多くの気を集めようと、集中していた。そして……


 ゴオオオオオオオ!


 大きな音があたりに響く。……雪崩だ。そう確信した俺は、穴の入り口の方に手を向けて、なおも、気を集めていた。

 そして、大きな音がすぐそばまで来た途端、穴の入り口から大量の雪が俺達に襲い掛かってくる。


「豪錬掌波!!!」


 その刹那、俺は手に集めた気を放った。俺の技により、入ってくる雪はどんどん破壊されていく。だが、量が多い。気が持つかな、と思いながら、俺は技を放ち続ける。


「ウオオオオオオオッッッ!!!」


 雪崩は威力こそ大きいが発生の時間は短いはずだ。そろそろ終わってくれと思いながら、俺は力を込めて、技を撃つ。


 ……しばらくすると、穴の中に入ってくる雪が収まってきた。俺は技を止めて、一息つく。


「ふう……ようやく収まってくれたか……リンネ、大丈夫だったか?」


 一先ずその場に座り込み、懐に入っている、リンネの様子を見てみた。どこも、怪我をしている様子はない。だが、未だに少し怯えているように見えた。


「キュウ……」

「ああ。自然ってのは恐ろしいな……だが、今回のはまた、別の理由みたいだがな」


 怯えているリンネの頭を撫でながら、俺はなおも吹雪いている、外の様子をうかがった。雪崩の直前の地響きのような足音のようなものが気になっていたからだ。

 すでにあの音は聞こえない。吹雪で周りが見えないが、その足音の主は近くにはもう居ないようだ。ひとまず、吹雪が止むのを待とう。

 俺は先ほどの雪崩の影響で消えていた、焚火にもう一度火を起こし、休息を取り始めた。


 ◇◇◇


 しばらくすると、吹雪は止み、少しだが、晴れ間も見えるようになった。俺は外の様子を見てみる。ふむ……やはり、雪崩の影響か、道がよくわからなくなっているな。

 だが、天候は良いみたいだ。俺はリンネを呼び、外に出た。雪は俺の膝が埋まるくらい、積もっている。


「これじゃあ、歩きづらい……か。リンネ、ここからは大きくなって、俺を乗せてくれないか?」

「キュウッ!」


 俺がそう頼むと、リンネは頷き、大きくなった。俺はその背中に跨り、リンネを歩かせる。問題はなさそうだ。その後、周囲を警戒しながら、俺達は山頂を目指した。


 俺達が山を登っていくうちに、空を覆っていた雲は無くなり、晴れてきた。本当に山の天候は目まぐるしく変わっていくな、と実感する。


「ん? 何だ、これ……」


 ふと、進む先を見ると、雪道に大きな穴が開いていた。それも一つじゃない。俺達の進む先に一定の間隔で、何個も続いている。

 一体何だろうと思い、リンネから下りて、穴の傍まで来てみた。


「お? この穴……やけに冷たいな……」


 穴の近くに行くと、周囲の気温がぐっと下がっていることに気付く。よく見てみると、穴の付近の雪も凍っているみたいだ。俺は進む方向へと続いている、穴を見て、ハッとした。


「ひょっとして、さっきの地響き……やはり、足音だったのかも知れないな。これは、そいつの足跡かも」


 俺がそう言うと、リンネは顔を下ろし、その穴の臭いを嗅ぎ始めた。だが、首を傾げている。何の匂いなのかわからないみたいだ。

 まあ、分かったところで、リンネの言葉が分かるわけではないので、どうしようもできないがな。

 とりあえず、先に進むことにし、再びリンネに跨り、山頂を目指した。


 その後、しばらく進んでいると、山頂にたどり着いた。……厳密に言えば頂上ではないみたいだ。辺りはまだ岩肌がむき出しになった崖が切り立っている様子で、ここは人が歩いて登れる最高地点ということになっている。

 なるほど、この岩肌のどこかに氷冷鉱石があるんだな。普通はここで、鉱石を探すために作業を開始する、ということらしいが、今日は勝手が違うみたいだ。


「……」


 ……俺の目の前には、青い、岩で出来た巨大な人型のようなモノが立っている。前に見た、ゴーレムに似ているな。先ほどから続いていた足跡はこいつのものだったか……。


 そいつは、ただただ、そこにジッと立ち尽くしていた。


「クウウウゥゥゥ!」


 リンネは臨戦態勢に入ろうとしている。俺は取りあえず、そいつが何もしてこないので、どうしていいか悩んだ挙句、様子を見ることにした。ついでに鑑定スキルを使い、相手の正体を探る。


 ……


 アイスゴーレム

 氷冷鉱石で出来たゴーレム。普通のゴーレムが長い間、極寒の土地で過ごすことによって生まれる


 ……


 鑑定を使うと、このように出た。なるほど……普通のゴーレムは岩石で出来ていたが、こいつの場合は、氷冷鉱石で出来ているってことか。なら、外皮を剥がすだけで何とかなるかも知れないな。


 俺はそんなことを思っていた。目の前のゴーレムは俺達には何もしてこない。闘わなくても良いかな……。


「クウッ!」


 そんなことを思っていると、リンネが飛び出していく。


「あ、おい! 待て、リンネ!」


 俺は闘わなくても良いと、指示を出そうとするが、リンネは、俺の声を無視し、ゴーレムに向かって行く。そして、跳躍し、爪を振り上げた。


「……」

「クワンッ!!!」


 リンネは振り上げた爪を思いっきり、振り下ろした。だが、その瞬間、ゴーレムは大きな腕を思いっきり振り回し、その風圧で、リンネを吹っ飛ばした。ゴーレムから、強い冷気の風がここまで吹いてくる。凄い力だな、アイツ……。


「クウッ! ……クア~~~!」


 吹っ飛ばされたリンネは態勢を立て直し、再度、ゴーレムに突っかかっていくが、ゴーレムはまた、腕を振り回して風を起こし、リンネを吹っ飛ばした。


「クウゥゥゥ!!!」


 リンネはまた、地面に倒れる。そして、起き上がるとともに、ゴーレムを睨んでいた。


 先ほどから思っていたのだが、ゴーレムは俺達に攻撃を仕掛けてこない。リンネが吹っ飛ばされても、特に何をするでもなく、その場に立ちすくんでいた。


 闘いの意思はやはりないのか? 俺はそう思い、リンネを止めるため、声を上げる。


「待てッ! リンネ!」


 俺はなおもゴーレムを睨み続けているリンネの声をかけた。だが、リンネは睨むのを辞めず、尻尾に狐火を集中させている。前に俺にやった技だ。リンネはゴーレムに攻撃する気か。敵に集中し、俺の声は届いていないのか……仕方ない。


「待てっつってんだろ! リンネッ!」


 ―死神の鬼迫―


 リンネはピクッとして、狐火をしまって俺の方を怯えるような目で見てきた。俺はリンネに近づき、頭を撫でる。


「向こうは俺達に危害を加える気はないみたいだ。そんな奴に攻撃しても俺はお前を褒めないぞ? 前みたいに、話をしてみよう。わかったな?」

「クウゥ……」


 リンネは俺の言葉に頷き従った。そして、俺はゴーレムの前に立つ。やはり、何もしてこないな。少し、安心し、話しかけてみた。


「先ほどはリンネが悪かった。すまない。

 ……俺達は闘いに来たわけじゃない。氷冷鉱石というものを採集しに来ただけだ。もしよかったら少し、それを分けてくれないか?」


 俺はゴーレムの外皮を指差した。しばらくすると、ゴーレムは俺の横に居たリンネに手を出してきた。


「クワッ!?」


 リンネはゴーレムから発せられる冷気に驚き、少し後ずさる。ゴーレムは何か落ち込んでいる様だった。何だろうな、こいつ。


「どうしたんだ?」

「……」


 ゴーレムは俺を指差してきた。そして、自らの頭部となっている部分を指差す。その後、自らの頭を撫でた。


「ん? もしかして……リンネを撫でたいのか?」

「……」


 ゴーレムはコクっと頷く。なるほど……先ほど俺がリンネの頭を撫でたのを見て真似したくなったっていうところか。見た目に反して、なかなか生き物らしいというか、人間味があるというか、面白い奴だな。

 しかし、困った。こいつは氷冷鉱石で出来ている。ということで、常時凄まじい冷気を体から放っている。流石のリンネも撫でさせてはくれないだろうな。


「……」


 目の前で、ゴーレムが、見てわかるくらい落ち込んでいる。……そんなことされても、どうしようも出来ないよな……。

 しばらく、どうしたものかと考えている。別にコイツから氷冷鉱石を貰わなくても、そこらの岩山から採集できれば俺達の目的は達成されることになる。

 ……だが、ここまで来てゴーレムに何かをしないわけにもいかない。何せ、先にリンネが攻撃を仕掛けたからな。お詫びついでに、こいつの願いを叶えてやりたい気もするが……。


 何かできることはないかと、俺は異界の袋の中を見てみる。薬や保存食の他に、毛布代わりの獣の皮、着替えの服、調味料、前の依頼の際に拾った給水石、無間の手入れ道具、裁縫道具……どれも、この状況では役に立たなさそうだな。

 ……と、思っているとあるものが目につく。今回の依頼の際にマリーがくれた氷冷鉱石を入れるための袋だ。


 確か、ツバキの家にあった火炎鉱石の袋は熱を一切漏らさずに、石を中に入れることが出来たよな。ひょっとしたら、と思い、俺はそれを取り出し、ゴーレムの体に置いた。


「悪ぃ、ちょっと失礼するぜ」

「……?」


 俺の行動を不思議そうに見るゴーレム。俺はゴーレムの体に置いた袋に手を当てた。すると、冷たくない。やはりこの袋はそういう効果があるのか……。


 ならば、と思い、俺は貰った袋を一つだけ残し、全て口の所を破り一枚の布にした。それらを全てつなぎ合わせ、一枚の大きな風呂敷のようにした。

 それをゴーレムの手に巻きつける。少し大きさに不安があったが、大丈夫だった。俺がつくったものはゴーレムの手を包むくらいの大きさはあるみたいだ。


「……よしっ! これなら良いな。リンネ、こっちに来い」


 俺が呼ぶと、リンネは恐る恐る、ゴーレムに近づいてくる。ゴーレムも恐る恐る、リンネに手を伸ばした。

 すると、リンネは異変に気付いたのか、ゴーレムの手を見て、ジッとしていた。そして、布越しではあるが、ゴーレムの手はリンネの頭に接した。


「……」

「クウゥゥゥ~~~」


 ゴーレムはそのままリンネの頭を撫で始める。リンネは嬉しそうに笑っていた。俺はそばでそれを見ながら、本当に良かったと思っていた。


 しばらくすると、ゴーレムはリンネから手を放し、自らの手についていた布を外そうとした。だが、俺はそれを止める。


「ああ、いいって。袋じゃない以上、もう、それは使えないからな。それにお前のために作ったんだ。やるよ」


 俺はそう言って、笑った。手袋というのは、寒さから手を守るのだが、コイツの場合は逆だなと可笑しな気持ちになっていく。しかし、これで良かったと納得しているので、問題はない。


「……」


 ゴーレムは黙って俺を見ていたが、手にした布をはめなおした。すると、突然自分の体についていた外皮の一部を掴んで、剥がした、俺に渡してくる。


「お、くれるのか?」

「……」


 俺の言葉にゴーレムは頷いた。ならば、ありがたく受け取ろう。

 しかし……でかいな。ゴーレムにとっては小さいみたいだが、俺にとっては一抱えするくらいある。伝わってくる冷気もすごいものだな。早速鑑定スキルを使う。


 ……


 氷冷鉱塊

 いくつもの氷冷鉱石が集まって固まったもの


 ……


 と、出た。ふむ……これが魔鉱塊というものか。これなら多少、報酬が上乗せされるな。俺は、ゴーレムに礼を言って、氷冷鉱塊を残った袋に入れて、異界の袋にしまった。


 よし、これで採集は達成されたな。後は帰るだけだ。俺はゴーレムに頭を下げて、山頂を後にした。リンネもゴーレムに挨拶をする。


「クワンッ!」

「……」


 俺とリンネがその場を後にしていると、背後からゴーレムが手を振っていた。荒野で遭遇したゴーレムは、俺に襲ってきたが、アイツは優しい性分なのかも知れない。帰ったら、手を出させないようにロウガンに一言言っておこうかな。

 俺はそう思い、山を下りていく。


 山を下りている道中、やはり日が暮れてきた。山頂から飛び立つにしては風もあったので、来るときにリンネが降り立った場所までは歩いていこうと思っている。夜までには間に合えばいいがなと、リンネの上で思っていた。

 そして、しばらく歩いていくと、山の上から、辺りを見渡せる場所にたどり着いた。よし、ここから飛んで下りようかと思い、俺はリンネから降りて、辺りを見渡す。


「おお……」


 眼下にはマシロ領の景色が良く見える。街を囲うように荒野が続いていた。その先には緑色のものが見える。あれは、方角的に精霊人の森だな。

 そして、反対側には少しだけだが、ゼブルたちと闘い、リンネの故郷となる山が見えた。それらは夕日に照らされ、綺麗に朱く染まっている。


 しばらく、リンネの共に景色を楽しんだ。リンネはやはり自分が生まれた山の方をジッと眺めていた。俺は周囲を見渡しながら、この世界に来て、色々あったな、と思いつつ、それでもそんなに時間が経ってないのとこうやって見ると案外狭い世界だな、と気づいて、可笑しなったた。

 今度からクレナって所に行くわけだが、次はどんなことを俺はやるのだろうかと、思っていた。正直、面倒ごとは好きじゃないが、嫌いでもない。

 もうこの歳になると、大概のことでは驚かないからな。何かあった方が良いんじゃないかと、これからの冒険に若干ワクワクしている部分もある。

 ま、揉め事は嫌だから、それは避けたいがな……。


 ……さて、こうして景色を眺めていても、段々と、日が暮れてくる。ある程度は楽しめたから、そろそろ帰るか。


「じゃあ、リンネ、来たときみたいにエンテイに変化してくれ」

「クワンッ!」


 俺の言葉にリンネは頷き、エンテイに変化した。俺が背中に乗ると、リンネは大きく翼を広げて、街を目指して飛び始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ