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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第107話―ミサキと話し込む―

 しばらく、ミサキとお互いのことを話していると時間が気になり、窓の外を見てみた。月がかなり高い位置まで上がっていて、街の灯りも減り、窓の外は暗くなっている。。


「……おっと。少し話過ぎたか」

「え……あ、本当だ。楽しい時間ってすぐ過ぎちゃうよね~」


 本当にあっという間だった。ミサキの世界は面白いもので溢れているようだからな。更に言えば、こういう時のミサキは、聞き上手なようだ。俺も、つい話過ぎてしまった。

 ずっと同じ姿勢で話していたので、お互いに体が固まっていて、軽く伸びをする。


「あ、そうだ。ムソウさん、三つ目のお願いは?」

「ん? ああ……」


 ミサキの言葉に少し黙り込んだ。正直、考えていない。何にしよう……と思っていたが、思い出したことがあった。俺は異界の袋から呪殺封の薬を取り出す。薬は今も淡く光っていて、ミサキは不思議そうにそれを眺めていた。


「なに、それ?」

「ああ。俺が神人化したときに作ったものだ。ちょっと鑑定スキルを使って視てみろ」


 俺が薬を渡すと、ミサキは頷いて、薬をまじまじと見た。すると、段々と目が見開かれていく。


「え、すご~い! こんな薬が出来るなんて!」


 楽しそうにはしゃいでいるミサキを見て、やはりこの薬は珍しいもの……というか、ほとんど新薬に近いものだということに気付く。


「まあ、俺が神人化した時のみに発することが出来る天界の波動が無いとできないみたいだがな」

「こんな薬見たことないよ~! 呪いを解いたり、予防できるなんて、すごいよ! やっぱりムソウさんって“規格外”だね!」

「ハハッ! ありがとうよ……。でよ、ミサキ、これを俺無しでも作れるかどうか試してくれないか?」


 俺がそう言うと、ミサキはう~ん、と頭を抱えている。


「どうだろう……できるかどうかわからないなあ~」

「スキルでもか?」

「私の力は人界のもの限定みたいだからね。魔法でも厳しいかな~……」


 ミサキは頭をひねりながら、どうやったら薬が出来るか考え込んでいる。魔法はもちろん、何でも生み出すことが出来る、EXスキルでも、やはり再現は難しいようだ。

 そんなミサキを俺は励ましてやった。


「しっかりしろよ、“魔法帝”。俺はよくわからんが、龍言語魔法や、おおよそ人の手では禁忌とされていた、時空間魔法を解明できたお前なら何とかなるだろ」


 ミサキはハッとする。つまり、ミサキも俺と同じく、この世界で言うところの、“規格外”な人間の一人である。やってやれないことはないと言うと、ミサキは俺を見てニコッと笑った。


「簡単に言ってくれるね……わかった! 私も頑張ってみる!」

「よ~し! その意気だ」


 俺はミサキの頭を撫でてやった。ミサキはありがとう、と言いながら、薬をしまう。


「……で、これが三つ目のお願い?」


 ミサキはそう言って、俺の顔を覗き込んでくる。俺が頷くとどこか、不満げな表情になった。


「どうかしたか?」

「いや……えっとね、一つ目と二つ目がすごかったから、何か、物足りないな~って……」


 ああ、なるほど。確かに先の二つと比べると、地味かな……。と言ってもやはりすぐには思いつかないなあ……。


「う~ん……もう少しだけ考えさせてくれないか?」


 結局何も思い浮かばす、俺はミサキにそう頼んでみた。するとミサキはニッコリと笑った。


「りょ~か~い! ……あ、でも私達、明々後日にはこの街を離れるよ?」

「ん? そうだったな……結局どこに行くんだ?」


 確か、王都から何も連絡が無かったら、ミサキの故郷のリヨクって所か、若しくはハクビの目的地である、オウキって所だったな。そのどちらかに行くのか?

 俺がそう考えていると、ミサキは真剣な顔になる。


「あのね、連絡なくても、王都には戻って、こないだの事件のことを報告しようと思っているの」

「呪いの一件か?」

「うん。一般の冒険者たちはまだしも、ロウガンさんのような実力のある人でさえもかかる呪いなんて聞いたことないし、「転界教」・・・だっけ? そんな奴らが他にも居る可能性もあるからね。他の十二星天の皆にも伝えとかないとって、思ったの」


 ミサキは俺に真剣な目でそう言ってきた。いつもの明るいミサキはどこへやらというような感じに、俺は少し驚いた。

 こいつはこいつなりに自分のやるべきことを見出してるな。


「なるほどな……確かにその方が良いのかもしれない。

 だが、俺は初めて見たが、やっぱりあの呪いって珍しいものだったのか?」

「うん。途中から呪い自体の力も上がったでしょ? 気絶させても目を覚まさせたり、とか・・・そんなの聞いたことないし、結構やばいのかも知れない」

「そうか……確か、ミリアンは憤怒の呪いとか言っていたよな」

「そう……そして、憤怒の呪いってことは、同じようなものが、たぶん他にもある」

「……どういうことだ?」


 ミサキの言葉に首を傾げていると、ミサキは口を開く。


 憤怒という言葉はミサキの世界にある、「七つの大罪」と呼ばれるもののひとつであるという。

 それは人が犯す罪の元となるモノという考えで、憤怒の他に、高慢、色欲、嫉妬、怠惰、暴食、強欲とあるらしい。

 今回使われた呪いが憤怒ならば、後の六つの呪いもあると、ミサキは踏んでいるようだ。


「確かに、あの時の皆からは、リンスやマリーさんに対する、異様なまでの怒りに燃えていたよな。……最終的には俺に向けられていたけど……」

「そうなのね。それを見てね、これが、それぞれの大罪にそった呪いだとしたら、たぶん他の呪いもあると思うんだ

「なるほど……そう考えた方が良いな……で、「転界教」については?」

「私の時は何も思わなかったけど、ムソウさんも、リンスさんも、ツバキさんも、それぞれ幹部っぽい人たちを倒したじゃない? その時、何か思わなかった?」


 俺はそう言われて、少し思い返してみる。幹部って言っても大したことなかったよな……。それこそ、ミサキが倒した二人も瞬殺だと聞いたし。

 ただ、武器だけは凄そうだったんだよな……って……あっ……。


「……そう言えば、奴らの使っていた武具は俺でも何となく、やばいものだって分かるようなものだった。俺の相手だったカリヴの持っていたやつもそうだし、後でリンスから聞いたら、リンスの相手の得物も、やばい付与効果があるって聞いたな」


 カリヴの持っていた刀は、斬りつける、ぶつけると同時に、爆発を起こすもの、リンスの相手が持っていたものは、斬ったものを腐らせるという効果をもつものだったらしく、どちらも、強力で凶悪な力を宿すものだった。

 俺達の相手はそこまで手練れと言うわけではなかったが、使う者が使えば、やばいものだという認識はある。


「そう……それから、ツバキさんの相手が持っていたっていう魔道具もね。こちらの攻撃は通して、ムソウさんの一撃を防ぐ結界をうみだすなんて私くらいじゃないとできないのに……」


 ミサキもよく使う結界魔法は、相手の攻撃は弾くが、こちらからも何も出来ないという欠点がある。だから、俺はミリアンにとどめを刺す時に外に出て、直接戦った。

 敵の攻撃から身を守り、なおかつ、こちらの攻撃は通すという魔法は、ミサキも出来るものはあるというが、その場合、結界の強度が落ちるという。

 どの程度、落ちるのかは分からないが、ミサキ曰く、EXスキルを使って強化された俺の一撃を止めるのがやっととのこと。ミサキでやっとの魔法を、一般の人間が使えるわけがない。そんな魔法を宿していた魔道具を、アイツ等は使っていたということである。


「ああ……確かに今考えれば、アイツらの身に余るようなものばかりだったな」

「私が報告したいのはそれなの。「転界教」というのが、他にもあって、なおかつそいつらが、ああいった魔道具や魔刀を備えているのなら、結構危険なことだからね」

「そうだな……」

「それから、ミリアンの正体も実はすごいことだったの。ミリアンが最後の闘いで変化した姿。あれは人間の魔法使いが、さらなる力を手にしようとして、ゼブルのような災害級以上の魔物と一体化した姿だったの」


 確か、リッチとか言ったか? 下級の魔物を召喚したり、ミサキと魔法を撃ち合ったりと、確かに人間離れしてんな、とは思っていたが、そういうことだったのか。まあ、俺には通用しなかったがな。

 しかし、確かにそんな奴が他にも居て、この世界のあちこちに居るとすればかなりやばいと見た方が良いな。今回は運が良かっただけかも知れない。


「てことは、今回の事件で幸運だったのは俺とお前がマシロに居たということか?」

「結果的にはそうだけど、ひょっとしたら、ムソウさんが居たことが幸運かもね」

「ん? 何でだ?」

「ムソウさんが皆をまとめたからっていうのもあるし、ムソウさんのEXスキルを持っていない私が呪いに掛かっていたらって考えたら、そうなるね」

「俺のスキル? 状態異常完全耐性のことか?」

「そう。ロウガンさんほどの人でもかかる呪い。私も危なかったかも知れない」


 あ、そうか。このスキルって俺しか持ってないんだよな。てことは、仮にミサキが呪いにかけられていたとしたら……それは、結構しんどかったかも知れないな。流石の俺もそうなったらやばかったかも知れない……。

 仮に、ミサキもかかるような呪いだとしたら、他の十二星天もかかるかも知れないということ。そうなったら、この世界は終わりだ。サネマサがロウガンみたいになったらと思うとゾッとする……。


「……なるほど。それは……きちんと報告しとけよ」


 俺の言葉に、ミサキはすぐさま頷いた。……にしても、ミサキ、そこまで思慮深いのに、何で普段はあんななんだろうか。

 デーモンの時も、今回の原因が呪いって突き止めた時も、俺はかなり驚いたのにな……。まあ、そこがこいつの良いところでもある。

 そういや、俺に会いに来た理由も、一緒に十二星天に入って欲しいとかだったな。こいつはこいつなりに、色々と考えているのかも……一応聞いておこっと。


「なあ、ミサキ。なんで、お前は俺をレインに連れて行こうって思ったんだ?」


 俺の質問に、ミサキは少し困ったような、照れているようなそんな反応をした。

 そして、これまた、興味が沸くことを口にする。


「えっとね~……実はね、最近、十二星天の皆とうまくいってないんだあ~……」


 ミサキは俺と向き合って、気まずそうにそう言ってきた。俺は少々、疑問を感じる。ミサキほどの人柄だったら、誰とでも上手くいきそうなものなのにな。

 それに、ミサキはよく他の十二星天の者の名前を口にしている。サネマサだったり、先ほど話に出てきた、レオパルドって奴だったり。それほど皆のことを信頼していると思っていたのだがな。


「上手くいってないってのは、どういう意味なんだ?」

「えーとね……壊蛇を倒すまでは、皆とも仲良くできていたんだけど、それから十年後くらいかな……急に十二星天内でも何と言うか、微妙な空気になっていったの……」


 ミサキはぽつりとそう言って、残念そうな顔をしている。確か、壊蛇が倒されたのは三十年ほど前だから、二十年くらい前から、悪いということか……。


「だが、お前の話を聞く限り……それから、サネマサと話した感じだと、そこまで仲が悪いような感じでは無かったように思うぞ?」

「うん。サネマサさんとはそれまで通りの同じ世界出身ということで良い仲だと思うし、ジェシカさんっていってね、すごく優しいお姉さんとも仲が良いんだ~。

 さっきのレオさんとも契約獣の話で盛り上がる時もあるし……

 それから、“冒険王”のジーンさんともよくお話したりするの。あと、コモン君っていってね、すごくモノづくりが上手い子とも色々作ったりして楽しいんだ~」


 ミサキは楽しそうに他の十二星天のことを話しだす。……うん。結構仲が良いように感じるな。


「意外と、上手くいっているように聞こえるが……」

「あ、うん……この人たちとはね……問題は、セイン君たちと、ちょっとね……」


 ミサキは笑顔から、少し曇った顔になった。セインって奴はよく耳にするギルドの創設者だったか。


「そいつらがどうかしたのか?」

「うん……。セイン君ってね、十二星天の中でも、最初にこの世界に降り立った子で、責任感の強い子だったんだけど、壊蛇を倒して、ギルドを創設して、少ししたくらいから、様子が変わっていったの」

「どんな風にだ?」

「えっとね……口ではうまく言えないんだけど、最初の召喚者である自分が一番って感じの考え方になって、それを阻害されるのは絶対許さないって感じになってるんだ」

「つまり、アレか? 自己中心的というか、なんと言うか……」

「そうなの……十二星天内でも序列を作ろうとして、自分が一番になろうとしたり、酷かったのはオウエン様……人界王様を蚊帳の外にして、政治をしようとしたりでね……」


 つまりは、この世界の人間じゃない、力を持った人間が、この世界を統治するという考え方である。


「あ、それは酷いな……。だが、他の十二星天の奴らが、黙っていないだろう?」


 話を聞く限りでは十二星天は、この世界で異質な力を持った者達の集まりに過ぎない。いくら、最初の迷い人だとしても、そこまでの権限は出来ないはずだ。

 それぞれの力が拮抗している以上、そんなことをしようとしたら、他の十二星天が黙っていないと思った。だが、ミサキは首を横に振る。


「それが、今話している、十二星天内が微妙な空気っていうのにつながってくるの」

「どういうことだ?」

「今の人界王様には私達のような力はないの。だったら、私達十二星天がこの世界を引っ張っていこうっていう考え方が、星天内で起こっているの。

 それはセイン君を筆頭に、騎士団創設者のカイハク君、王都守護者のジーナちゃんとミーナちゃん、龍族との調停者であるエレナさん……そして、王様の次に偉いシンジさんがそういう考えになっているの」

「ん? 結構多いな。……というか……」

「うん。要は私がさっき言った人たち以外の十二星天はそういう考えを持っているってこと」


 あ……なるほどな。ミサキが仲が良いって言っていた奴らはたぶん、その考えを持っていないのか。ミサキも含めて。

 で、お互いに反発し合って、十二星天内が微妙な空気になっていると。まあ、全員のことはよくわからないが、ミサキもサネマサも前の世界でやり残した、自分のやりたいことをやっていこうという生き方だからな。わざわざ、国の指導者に立とうとは思っていないだろう。

 さらに言えば、国の指導者になりたいと言っている奴らの筆頭が、自己中心的な奴だったとしたら、ますます、その考えには反対になる。俺だって賛同したくないからな。


 ……だが、一つ気がかりなことがある。


「だが……確か、シンジって奴は“王の右腕”と呼ばれる奴で、自分のEXスキルは王との絆の証だって言っている奴だろ? そんな奴が、そういう考えを持っているのなら、王も納得しているんじゃないか?」


 俺はミサキに聞いてみた。シンジって奴のスキルは他のと比べ、少し異質だったからよく覚えている。確か、人界王の力を極限まで上げる代わりに、どちらかが死ねばもう一方も死ぬというものだったな。

 それを、自らは絆の証だって言っているくらいだから、二名の仲は良いはずだ。ということは、セインと同じ考えを持つ、シンジの考えも王は納得しているんじゃないかと思う。そう思っていると、ミサキは首を横に振った。


「前にも言ったと思うけど、私達のことが書かれたものってすごく多く、間違いのものも結構あるの。

 ムソウさんがその中でどれを読んだか知らないけど、それ……間違っているやつだよ」

「え!? そうなのか……このギルドで読んだんだが……」


 ミサキの言葉に思わず声をあげて、驚いた。あの時の時間を返してくれとは言わないが、確かに、今考えると、ミサキのEXスキルについて自然の摂理のことに関しては何も書いてなかったし、サネマサの所には武王會館についての記載は一切なかったな……。俺は少し頭を抱えて、ミサキに尋ねる。


「はあ~……そうか。で、スキルの本当の効果って?」

「うん。私も一度だけしか見たことないけど、シンジさんのEXスキルの名前は絶対強者っていって、闘う相手の苦手なものになることが出来るの」

「え、俺のひとごろしとか、おにごろしみたいなモノか?」

「それよりも上かなあ。例えば、魔物と闘うんだったら、神人じゃなくて、神そのものになったり、あと、生き物って得手、不得手があるでしょ? シンジさんの場合はそれぞれの相手が一番苦手とする属性、生物になったりするんだ」


 ほう……意外と馬鹿にできないスキルだな。というか、本の内容と全く違うじゃねえか!あの本、何だったんだよ、と天を仰ぐ。


「へえ……すごいな。……あ、てことは、仮に王とシンジが闘う場合になると……」

「うん。王にとっては不利な相手になるってこと。実質、この世界で1番強いのはシンジさんかも……」

「なるほど……。つまり、いざとなればシンジは王よりも発言権が上になる可能性もあるってことだな?」


 俺の言葉にミサキは頷く。そうとなれば話は別だな。人界王がどれだけ偉い存在でも、戦闘になれば、シンジの方が有利だ。

 そして、そんな奴が自分とは反対側の考え方を持っているとなれば、王の方も現状を静観するしかない。

 正直、この際、王の考えなどどうでも良いからな。言い方は悪いが、力ある者が正義ということである。となれば、周りの十二星天も現状を維持するためにはただただ、黙っているしかないということか。


 だが、仮にセインが自分の意見を通そうとし、強硬手段に出たら、反逆者として民にみられるから、セイン達も今のところは何もしない方が良いみたいだが。


「あ、ちなみにね……」


 ふと、ミサキが口を開く。なんだ? と返すと、ミサキは少し気まずそうな顔をした。


「言うかどうか悩んだんだけどね、精霊人の集落の一件で、真っ先にムソウさんに兵を差し向けようとしたのは、セイン君とシンジさんなの」

「はあ!?」


 ミサキの言葉に再び驚く。何せ、会ったこともない人間に命を奪われそうになったってことだからな。一体どういうことだと聞くと、ミサキは続ける。


「セイン君ってさっきも言ったように自己中心的なところがあるの。

 だから、ムソウさんの行動が気に入らなかったみたいで、伝令魔法を受け取ると、すぐにカイハク君に報せて、騎士団をムソウさんに差し向けようと動いたの」

「……本当か」

「うん。それに賛同したのがシンジさんで、シンジさんの方は、反逆に疑いのある者は即刻処断すべしって言って、セイン君にすぐに同調したんだ」

「は、反逆って……」


 あの一件は、まだこの世界に来てから、一週間も経っていない時だった。俺がそんなことするわけないだろう、とミサキに当たってしまったが、ミサキは首を横に振って、続けた。


「ムソウさん、ギルドに登録するときに、自分の情報をギルドに伝えたでしょ? あれってさ、その後、レインのギルドと騎士団の総本部に集まるようになっているの」

「へえ~……ってまあ、それはそうだよな」

「何のためだと思う?」

「そりゃ、冒険者たちのことを知るためだろう? ……で、それが分かっていれば……あ……そういや……」


 ここで、俺はギルドに登録した時のことを思いだした。確か、マリーさんは言っていた。ギルドで、自分のスキルを確実に把握しておかないといけない理由の一つに、反逆の防止というのがあった。反逆する奴のことが分かっていれば、対策は練やすいからな。その時は若干ではあるが、違和感を抱いたが、黙って従った。

 ミサキにそう言うと、ミサキはコクっと頷く。


「その仕組みを作ったのがシンジさんなの。いざとなれば、シンジさんのスキルで対応できるし、なおかつ、冒険者が増えれば増えるほど、この世界で生きる人たちの把握につながってくるからね」


 俺があの時、感じたきな臭い思いはどうやら当たっていたようだ。例え、全ての冒険者が王都に侵攻したとしても、そいつらのことを把握している者が王都に居る限り、圧倒的に不利になるからな。

 さらに言えば、シンジの持つスキルについても、この世界の奴らは本当のことは知らない。そうなれば、シンジの有利性は揺るがない。


 つまり、まとめると、精霊人の森の管理を王都から任されたロイドを斬る、ということは事実上、王都への反逆行為につながる。

 王都への反逆行為というのは、セインが気に入らないことになる。ゆえにセインとシンジは兵を出したということか。なんとなく、腑に落ちないが、納得できた。

 そして、先ほども感じた、迷い人について書かれた本の件も分かってくる。恐らく、当人である、シンジや、セイン、それから、騎士団のカイハクあたりが、自分たちの固有のスキルがどういったものなのかわからなくするために、内容を改ざんしたのではないかという考えも出てきた。

 そうなれば、反逆者たちにとって相手の能力が未知数という中で闘うということになる。つまりは、そういった狙いもあったのかもしれない。

 ギルドに資料室がある理由、それはセインの、情報は大いなる武器という考え方に基づいたものという言葉通りで、思わず天を仰いでしまった。


「はあ……そんなことになっていたか。だが確か、あの時はサネマサが説得してくれたって言っていたな」


 俺は精霊人の森でサネマサが言った一言を思い出した。討伐軍を止めるのは大変だったって愚痴っていたよな、アイツ。すると、ミサキは少し、穏やかな表情になる。


「説得……で済ませたんだね、サネマサさん。……本当にあの人はいい人だな~」

「ん? どういうことだ?」


 俺がミサキの言葉に聞き返すと、ミサキは少し笑って、口を開いた。


「あのね、あの時のサネマサさん、説得というか、セイン君とシンジさんに喧嘩を売るぞ!って感じで、本気で怒っていたの。

「そいつを見たこともない癖に、単純に悪いと決めつけて兵を動かしてんじゃねえ!」

 って言ってね。その気迫とか、すごくてね、流石の二人も少し怖気づいた感じになって、じゃあ、サネマサさんが一人で解決しろ~! って、顔を真っ赤にして言って、結局、その事件はサネマサさんが単独で行くことになったの」


 ミサキは楽しそうにそう言って、笑っていた。俺はそんなミサキの話を聞いて、目を見開く。

 ……あの時、サネマサがそう言ってくれなかったら、俺は……というか、精霊人の村は大変なことになっていたかもしれない。俺自身もここには居なかったかも知れないからな。


「そうか……サネマサの奴……」


 俺はサネマサのことを思い出して、少し、嬉しくなった。俺が一人、笑っていると、ミサキはパッと笑って口を開く。


「でね、サネマサさんが帰ってきて、無事に精霊人のことを解決したって聞いたときに、サネマサさん、ムソウさんのことをすごく楽しそうに教えてくれたんだ~!

 同じ迷い人で親近感沸いた、とか、俺より強かったけど、すごくいい奴だった、とか。

 それを聞いてね、私、すごくムソウさんに会いたくなったの!」


 ミサキは嬉しそうにそう言ってきた。サネマサ、そんなこと言っていたのか。ミサキと初めて会った時、サネマサの奴は俺について、どんなこと言ったんだよ、と思っていたが、結構嬉しくなるようなことを言っていたみたいだな。


「そうか……それは、ありがたい話だ……だが、俺を十二星天に入れようと思っていたのは結局、何だったんだ?」


 と、最初の疑問に帰って聞いてみた。すると、ミサキは頷いて、


「……最初はね、サネマサさんと互角以上の力を持つ人が、私達の側に居てくれれば、セイン君たちへのけん制になれるな~って思っていたんだけど、実際会って、その考えは無くなったの。

 ムソウさん、初めて会った時、私が喚んだ魔龍から、身を挺して子供を護っていたでしょ? もちろん、あれは私達の芝居だったけど、その時に、ムソウさんって、強いだけじゃなくて、本当に優しい人なんだ、って思ったの。

 あとね、その後、私を叱ったでしょ? ……ああいう風に私のことを本気で怒ってくれるのって、本当に久しぶりで、この人が皆をああやってちゃんと叱ったり、いさめたりしてくれたら、十二星天もまた纏まって、皆で仲良くできるかもって思ったの」


 ……ミサキの言葉を聞いて、俺は少し、可笑しい気持ちになった。最初の出会い、俺にとっては最悪のものだったが、ミサキは最高のものと受け取っているようだからな。

 さらに、やや悪化している関係の中、他の十二星天を想うミサキがすごいな、と感じた。意見が変わっても、仲間たちを最後まで信じている、ミサキは本当に偉いと思う。そう感じ、俺はミサキの頭を撫でた。ミサキは嬉しそうにしている。


「えへへ……撫でてもらえた~」

「……ミサキ、俺はお前についていく気などは無いが、たぶん大丈夫だと感じるぞ。

 何せ、お前が居るんだからな。他の皆のことを最後まで想っている奴が集団の中に一人でも居れば、きっと大丈夫さ」


 嬉しそうにしている、ミサキにそう言った。だが、ミサキは、不安そうに、そうかなあ~とか言っている。俺はそれを見て、


「不安ならよ、俺から一つ提案だ」


 と言って笑った。


「え、何?」

「もしも、本当に困ったことがあれば、必ず俺を呼べ。その時は絶対に助けてやる」


 俺がそう言うと、ミサキは段々と、笑顔になっていき、


「うん! 絶対だよ!」


 と、元気よく返事した。そんなミサキを撫でてやって、話を終えた。


 王都に関してはよくわからないことも多いが、まあ、ミサキも居るし、サネマサも居るから大丈夫だろう。そう思うことにした。


 さて、聞きたいことも全て聞けたことだし、そろそろ、ミサキが家に帰ることになった。送っていこうか、と聞いたら、転移魔法を使うからだいじょーぶ!と言っていた。

 そういや、前々から聞くが転移魔法って何だ? と聞くと、どうやら、行きたいところにすぐ行けるという魔法らしい。この魔法はかなり難しいもので、現状、この世界で十二星天の者達しか使える者が居ないほどである。

 ただ、使えるようになれば、一瞬で、世界の裏側まで移動できるという、大変便利なものらしい。それなら安心だな、と思い、ミサキは魔法の準備を始める。


「あ、そうだ。一応言っておくけど、ムソウさんが迷い人っていうことはレインも把握しているけど、EXスキルについてはたぶん誰も知らないと思うよ~」


 ミサキは最後にそう付け加えた。どうやら、サネマサは俺のことについてはレインに黙っているらしい。俺も、余計な混乱は防ぎたいとして、EXスキルだけはギルドに登録していない。それが功を成したらしいな。


「わかった。できれば、お前も喋らないでくれ。呪殺封の薬について聞かれたら、おにごろしだけにしておいてくれよ」

「うん! ……と言っても、薬のことはセイン君じゃなくて、ジェシカさんに相談するからだいじょーぶだよ!」


 ジェシカ……ああ、ミサキと仲が良い十二星天の一人で、優しいお姉さんとか言っていたっけか。現状、俺以外の世界でただ一人、呪いを解くことが出来る女だと聞く。ならば、問題ないかな。俺はミサキの言葉に頷いた。

 それを見たミサキは、転移魔法を発動させる。すると、ミサキの周りが輝きだした。


「……じゃあ、もう帰るね!」

「ああ……またな」


 そう言葉を交わすと、シュンっと音を立てて、ミサキは一瞬で居なくなった。

 ……これで、もう、あの家に行ったということなのか? 本当に魔法って便利だな。

 しかし、これが出来るなら、デーモンの山に行くときや、帰る時にも使えば良かったのに、と思ってしまう。

 ただまあ、そうなっていたら、家を持ち歩く旅に首を傾げている俺が、更に悩むことになるからな。一応、あの時、転移魔法の存在を、一切仄めかさなかったミサキに感謝した。


 さて、俺は一人になった部屋から、窓の外の月をみながら、また酒を呑み始め、先ほどまでミサキと話していたことを思い返している。


 今の所、この人界の頂点である十二星天は二つの派閥に分かれている。ミサキたち、自由に生きていたい者達と、セインたち、王の代わりに人界を統治しようとする者達。

 ミサキの話を聞く限りでは、そんな状態が十年も続いている。ということは、王はどちらかと言えば、セインたちの意見には反対だ。賛成ならば、もうすでにそうなっているからな。

 だが相手に、強力なスキルを持ち、なおかつ、王の次に権力を持つシンジが居るので、王も強くは発言できないでいる。

 しかしながら、セイン派にはギルドと、騎士団がつくことになる。セイン派に騎士団長のカイハクが居るからな。すると、どうだろうか。民衆の意見はこのままいくと、セイン派に吞まれそうな雰囲気になる。

 この人界において、人に危害を与える魔物の討伐を主な目的とするギルドと、人を護ることが目的の騎士団の存在はやはり大きいだろう。


 ……あれ? ひょっとして、二人がそういった組織を設立したのはそれが目的か? ……いや、それは違うか。現に魔物の被害は大きいみたいだしな。それに重要なことがもう一つ。ミサキによると、セインって奴が変わったのはギルドや騎士団創設よりも後だ。ならば、その二つの組織の創設は今回の目的とは別と考えるべきだな。


 どちらにしろ、今の人界王はほとんど立場が無いか、良く言っても、危ないものと言ってもいいだろう。シンジって奴が居るからな。あいつのスキルはなかなか侮れないものだ。

 まあ、本気で怒ったサネマサに怖気るくらいだから、個人の能力としてはサネマサと互角かもしれない。セイン派が実力行使に出ないのはその辺りも起因しているのかも知れない。……あいつ、本当にすげえ奴だったんだな。


 そして、そのすげえ奴に恐らく本気じゃなかったとはいえ、勝ってしまった俺に対する、奴らの評価が少し気がかりだ。今の所、ミサキたちには良い評価っぽいが、会ったことないミサキ派閥の他の十二星天はどう思っているのか気になるな。

 セインたちからは恐らく、良く思われていないだろう。何せ、いきなり殺しにかかってこようとしたくらいだからな。

 恐らく、また何か揉め事を起こしたら、間違いなく、次は本気で兵を挙げそうだ。一応、ミサキもサネマサも俺の能力については黙ってくれているみたいだから、安心なのは安心なんだが、それでも、やはり注意はしておこう。

 仮に、ミサキ派閥の奴らも俺に対していい印象では無かったら、俺も流石にやばいかも知れない。今後は本当に気を付けていこう。

 出来れば、会わないようにした方が良いかも知れないな……。


 さて、もう一つの気になったこと。俺が読んだ本が本当に出鱈目だったということ。これに関しては、自分たちの能力、つまり、自分たちに不利になることを隠そうと、セインたちが改ざんしたのではないか、という結果に落ち着いた。

 ただ、これも「情報は時として大きな武器」というセインの言葉によって設置された資料室で、読んだ本だ。ひょっとしたら、それから後にセインたちが改ざんしたのではないかと感じる。じゃないと、不信感だけがつのっていくからな……。


 ……気になるな。セインに何が起こったのか。何故、自分の言うことを反故にすることばかり行うんだ? ギルドを創設するまではそんなんじゃなかったと、ミサキは言っていたが……。

 俺はセインが変わったのではなく、セインに何かが起こって変わった、と考えるようになっていた。しかし、色々考えてはみたが、何も思い浮かばずに、少々落胆する。


 ……まあ、ほとんど今の所、王政に関りもなく、ミサキの話を聞いて、関わる気さえ無い俺が考えるようなことでもないか。

 俺はここで、ミサキとの会話を反芻するのを辞めた。


「……さて、そろそろ寝るか」


 酒を仕舞って、俺は布団をかぶり、眠りについた。今、考えても仕方のないことは、もう、考えないようにしよう。さて、明日は何しようかな……。


 ……久しぶりに、リンネが居ない夜は寂しいな……ワイツ卿に迷惑をかけていないだろうか……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミサキの頭を撫でたシーンから後の、サネマサの事だと思われる会話等が 全てハルマサになっています。 [一言] 楽しんで見てます。がんばってください
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