表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/41

主人と従者と大乱闘Ⅱ 王子現る之巻

「へいへいへーい、『ご主人は女傑恐怖症』の裏話コーナー第四回だぜイェイ!」

「えらくテンション高いなお前」

「なんてったって、前回おあずけにされたオイラとご主人のキャラの元ネタが分かるってんですからね!」

「魔夜峰央先生の『パタリロ』だ」

「うひょー、そんなコーナー開始六行目でサラッと言っちまっていいんですかい!? もっと気を持たせねぇと!」

「まぁ、私の容姿でピンと来てる人もいるだろうからな。今さらという感もあろう」

「むしろ、この話読んでくだすってる人たちは全員分かってる可能性すらありやすよね」

「作者も当初はもっとバイオレンスなギャグを想定していて、私がお前の頭を砕いたり、イリーズにぶった斬られる場面も考えられてたらしい」

「それは……ボケに対するツッコミで……?」

「うむ。それでお前は何食わぬ顔で再生復活する」

「やべぇ。初期案のオイラ超やべぇ」

「魔族という要素を取り入れたのも最初はそのためだったらしい。再生出来るのは人間じゃないからだと」

「なんで没ったんでさ?」

「話の進行がいちいち止まる。それから街中で従者の頭を砕いてたら警察を呼ばれかねん。子供の目もある」

「作者、変なところリアリストでさね」

「そもそもギャグ要素はあってもシュールギャグ小説ではないからな」

「てなわけで今回のコーナーはここまで! そんじゃ、とある重要キャラが初登場する本編、いってみよーぜ!」

(作者がキャラ立てに凝りすぎて、この話、重要キャラばっかりだな……)


「ど……動物虐待反対……ッ」

 見た目だけでも充分な冗談に、さらに冗談を重ねるマオである。

 地面に転がったその着ぐるみの胸ぐらを掴んで、シアンはグッと引き上げる。

「お前ぇ、なぜ来た!? 危険だということはわかっているだろ! いや百歩……いやいや千歩譲って、出場するのはよしとしよう! それがなんで着ぐるみだ!? どこから手に入れた!? もうちょっと色々あるだろうが! 鎧でなくとも女中服とか女給服とか看護服とか巫女服とか、もっと可愛いやつが────!」

「ご主人、ご主人。周り、周り」

 ハッと我に返り、シアンは辺りを見渡そうとして……

 ……出来なかった。

 ゾワッと、背筋に寒気が走る。

 見ずとも気配でわかる。ざっと二〇は下らぬ数の訝しげな視線が自分を刺している。

 そのすべてが闘技場に集った女傑のものであることは疑いようもない。

「あ……あはははは、ごめんなさいね。妹が勝手について来ちゃったもので……ッ!」

 笑っているように見えるよう目を瞑って振り向き、苦しまぎれに誤魔化す。

 そして、マオを小脇に抱えてそそくさと場所を移動した。

「……で、それ、どこで手に入れたんだ?」

「さっき朝市で。昨日の祭りで使われたのを買い叩きやした。メガロニャンっていうこの国のマスコットキャラクターらしいでさ」

「マスコットなんてのがいたのか、この国……」

「似合いやすか、お姉様?」

 片足を上げて、手首を曲げ、マオはネコのポーズを取ってみせる。

「着ぐるみに似合うもなにもないだろう。お姉様はやめろ」

「んじゃ、お嬢様」

「……お姉様でいい。そもそも、お前、どうやって縄を?」

「ああ、あれ。朝飯を持ってきてくれた宿の娘さんが解いてくれやした」

 ガーン、と野太い鐘の音がシアンの脳裏に響いた。

 少し考えれば充分に予想出来た事態だった。詰めが甘いなどという次元ですらない。

「詳しくは言いやせんが、あの娘のなかで、お姉様の株、さらに下がりやしたぜ」

 シアンは顔を手で覆い、押し黙った。

 これであの娘との脈は完全に絶たれた。宿に戻るのが恐い。

「だいたい、おいらを置いてこうたって、そうは問屋が卸しやせん。おいらの居場所はお姉様の隣。たとえ火のなか、水のなか、女のなか、そして布団のなか。生まれは違えど死するは一緒と誓った身。仁義、通させてもらいやすぜ」

 無茶苦茶な啖呵(たんか)を切るマオに、シアンは溜息を吐くしかなかった。

 マオが参加することが危険だというのは百も承知の上である。

 それでも追い返す気にはなれなかった。

 叩き出しても必ず舞い戻って来ることが眼に見えている。

 従者を自称しながら、これと決めたら(てこ)でも動かぬ利かん坊なのだ。

 それにシアン自身、口に出せぬ本心では「助かった」と思っていた。

「だが、無茶はするなよ。お前は────」

 その言葉を、第三の声が(さえぎ)った。

「ここにいたか」

 顔を向けたシアンは思わず後退り、マオは話の邪魔をされて膨れっ面になった。

 イリーズだった。

 昨夜とは打って変わった戦装束である。

 身体の線にぴったり沿った造りの鎧はオーダーメイドのものだろう。スリムながら重厚なもので、上半身にはほぼ隙がない。

 下半身の防具は中装といったところ。丈の短い腰当(フォールド)と膝から下を守る足具(グリーヴ)はあるもの、腿は(インナーに覆われてはいるものの)無防備同然だ。

 剣は左右の腰に二本。昨夜と同系統の長剣と、刀身の細く短い細剣(タウンソード)を提げている。

 これらが本来の得物のというわけだ。

「いや待て、何だ貴様……」

 シアンの格好を見て取った猛禽の眼に、驚きと怒りが浮いた。

胸当(ブレスト)もなしとは、真面目に闘う気があるのか?」

 相変わらずの横柄な態度に、シアンはムッとして腕を組み、泰然(たいぜん)として答えた。

「……私の戦着(いくさぎ)だ」

「昨日の服と何が違う? 布きれで刃を防げるものか」

「防ぐ必要はない。最大の防御は避けること。最良は闘わぬことだ」

「馬鹿馬鹿しい。それで、どうやって勝つ?」

「負けずに残るだけだ」

「話にならん……ッ」

 イリーズは顔を背けた。

 昨夜も奇妙な理屈を振り回す男だとは思っていたが、それでも身近なものを武器として応用する臨機応変さには、眼を開かされるものがあった。

 しかし、今度ばかりは意味がわからない。

 ふと、その眼がふて腐れて背中を向けているマオに向き、大きく見開かれた。

「大変だ! バカでかい猫妖精(ケット・シー)がいるぞ!」

 反射的に腰の剣に手をかけた。

「隊長、待て! 猫妖精(ケット・シー)じゃない! ていうか私と同じこと言うな!」

 奇しくも一言半句違わぬどころか、言葉を発するリズムまで同じであった。

「知るか! 貴様と一緒にするな! 猫妖精(ケット・シー)でなければ、なんだというんだ!?」

「……おいらの戦着でい」

「嘘つけッ!」

 シアンが頭を小突いたその瞬間、イリーズも巨大な二足歩行ネコの正体に気づいた。

「────ッ! 貴様、つかぃ……従者か!」

 使い魔、という言葉を辛うじて呑み込んだ。

「なおさら退場しろ! なにを考えている!?」

()でい」

「このチビ……ッ、力ずくで叩き出されたいか!」

「てやんでぇ。やってみやがれ、この野人(ヤフー)女」

 イリーズがこめかみに青筋を浮かせて、もう一度剣を握る。

 マオも眼を逆三角形にし、ファイティングポーズを取る。

「やめろ二人とも。時間切れだ」

 シアンが両手を広げて両者を制した。

 その眼は観客席の最上段に向けられている。

 王室席(ロイヤル・シート)である。箱のような部屋に、アリーナを一望出来る広い窓が空けられている。

 その四角い枠の中に、二人の人間の姿があった。

 長身の青年と、小柄な少女である。

 二人とも立派な甲冑に身を包んでいる。この国は正装すら鎧のようだ。

 出で立ちは変わっても、少女がフルレラであるとシアンにはわかった。

 王女は国のアイドルとも言われるが、純白の甲冑に包まれた彼女は犯しがたい神聖さに溢れている。

 少々、化粧気が濃い気もするが、そこは公女としてのたしなみだろう。

 とすれば、隣の青年がニギエラ王子なのだろう。

 一九〇センチはあろう立派な体躯を包む漆黒の甲冑の上に、人の良さそうな優男顔が乗っている。

 歳は二五というが少年のような容貌だ。

 いかにも人徳のありそうな印象で、逆に勇猛という噂が嘘に聞こえる。

 客席の上に設けられた鐘が、ガァン、と打ち鳴らされ、場内が水を打ったように静まりかえった。

 アリーナにいる出場者たちも皆、背筋を伸ばして王子たちを見上げた。

「マオ、私から離れるなよ」

 着ぐるみに隠れたマオの耳に、シアンがそっと囁く。

「もとより、そのつもりでさ。しっかり守っておくんなせぇ」

「お前な……」

 楽隊のファンファーレが響き渡った。

「メガロニアの内外から集まってくれた戦士諸君!」

 十秒ほどの短い演奏が終わると、窓際に立った王子が、よく通る滑舌のいい声で高らかに叫んだ。

「今日からの大会に参加してくれたことを、私は心より嬉しく思う。本来ならば我が父、ラルフ王が開会の宣言を行うべきであるが、諸君らも知っての通り、父は病床の身であるがゆえ、私が代理を務めさせていただく。願わくは貴女がたが大会規定を遵守し、相手への礼儀と尊敬を持って闘い、優勝者がつつがなく、メガロニアの新たな王妃として迎えられんことを!」

 王子の言葉には、偽りのない真心が()められているようにシアンには聞こえる。

 だが同時に、このような「いい人」が王位に就く難しさを思わずにはいられない。

 フルレラの話では王代理として国事の主導を担っているというが、軍事を乗っ取られているのも、公爵の権威だけではなく、王子の人の良さが裏目に出ているからだろう。

(これでは、忠実な臣下ほど苦労が絶えぬだろうに…………)

 イリーズを一瞥する。

 親衛隊隊長は皮肉な視線を向けられているのにも気づかず、熱の籠もった眼差しを王子たちに注いでいた。

「戦士ならび観覧の諸君! 私、ニギエラ・ヴァン・メガロはここに、《メガロニア次期王妃決定武術大会》の開会を宣言する!」

 喚声の嵐が天に昇った。

 観衆は国と王の栄光を叫び、選手たちは(とき)の声を上げる。

「戦士たちよ! 今より私が発する号令をもって本大会予選開始の合図とする! 己の武と、この国の女王の座を競う覚悟はよいか!?」

 イリーズが長剣の柄を握り、シアンたちに眼を向けた。

「いよいよだッ! 貴様ら準備は────えッ!?」

 二人ともいなかった。

 烈風怒濤の大乱闘!

 女三〇〇人が入り乱れ、

 刃を交える修羅場の中で、

 シアンの策とはいかなるものか!

 

 取り残されたイリーズも、

 本領発揮と剣を抜き、

 迎え撃ちます有象無象!

 しかしそいつが敵の罠!

 孤軍奮闘四面楚歌!


 さぁ女傑恐怖症のシアン・ルーン、

 強面女の坩堝を抜けて、

 仲間の危機に走れるか!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ