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主人と従者と大乱闘Ⅲ 隊長いきなりピンチ之巻

「あいあーい! 『ご主人は女傑恐怖症』裏話コーナー第五回だぜぇぇぇえい!」

「今回の質問は何だ?」

「今回はズバリ、オイラが着ぐるみを着てる理由!」

「作者が面白いと思ったから」

「ノー! ノォー! そんなバッサリ言ったらこのコーナーの意味がねぇー!」

「初期案ではお前がメイド服を着てくる予定だったんだ」

「にゃ、にゃんですと!? それはもちろん、女中って意味のメイド!?」

「そう。それであんまりにも似合うから、私がドキッときてしまう」

「ふぇぇぇマジで……! なんで? なんでそんなスンバラしいシーン没っちゃったの!?」

「ありきたりな感じがしたから」

「ずこー! 出たー、作者の《ちょっと人と違うことをしたい天邪鬼性分》-!」

「それでだ、代わりに着せるものを色々考えたあげく」

「ふんふん」

「ネコがネコ被ったら面白いんじゃないか、というところに落ち着いた」

「可愛いメイド服を捨てて、よくわからんネコの着ぐるみを取る作者、許すまじ……!」

「作者、いわゆるケモ系も好きだからな。それに私がお前にトキメいてしまったら、今後のギャグシーンに支障が出ると判断したらしい」

「うわーん。ご主人がオイラの愛を受け入れてくれるのはいつなんでさぁー!」

「知らんわ。というところで今回はここまで。引き続き、ゴリラ女達が暴れ回る本編をどうぞ」

「ご主人がいつになく冷てぇー!」

「それでは……ッ! 《次期メガロニア王妃決定武術大・予戦》、はじめぇッ!!」

 アリーナに充満していた闘志が爆発した。

 三〇〇人の戦士たちが一斉に、手近な相手と武器を交え始める。

 試合開始の気勢に乗り遅れたイリーズにも、二人の女が別方向から同時に襲いかかった。

 ──一人は(ランス)。もう一人は棍棒(メイス)

 イリーズの反応は速かった。

 冷静に状況を見て取るや、一人目が放ってきた(ランス)の突きをかわしながら長剣を抜く。

 さらに抜刀するその動きを利用し、棍棒を振り下ろしてきた二人目の腕を籠手(ガントレット)で払った。

 最後に流れるような動きで剣を一閃させ、二人の手から武器を叩き落とした。

「うぐっ」

「しま……ッ!」

 得物を失った戦士たち口から短い悲鳴が上がり、続いて奇妙な現象が起こった。

 その身体と、地面に転がった武器が、七色の光に包まれたのだ。

 そして瞬きするほどの間に、光と化した者たちは地面に吸い込まれて消え去った。

「なるほど。ああなるのか……」

 アリーナの内壁に背を預け、シアンはイリーズが一瞬にして二人の戦士を倒す様子を眺めていた。

 その腕には、マオがご機嫌な表情で自分の腕を絡めている。

 消えた女たちは死んだわけではない。

 舞台から降ろされたのだ。

 すべての選手はエントリーに際し、大会運営委員会の魔道師たちによって、自身と武器にとある呪術を施されていた。

 武器が所有者から離れて地に落ちると、両方をアリーナ地下の休息室へ強制的に空間転移させるというものだ。

 [武器を失った戦士は死んだも同然]という戦士の規範をルールに応用したものである。

 ともすれば血の海、死屍累々(ししるいるい)の惨状を招きかねない大会予戦を極力安全に取り運ぶための、安全措置というわけだ。

「そういや、お姉様。得物はなにを持ってきたんで?」

 マオに訊ねられ、シアンは懐に隠し持っていた武器を出して見せた。

 短剣(ダガー)──というにもお粗末な、刃渡り五センチ程度の小さなナイフである。

「それ、ご主人がいざというときに投げてるやつじゃねぇですかい。いつもの得物はどしたんで?」

「宿に忘れて……懐にこれしかなかった」

「てきとうに誰かのをパチりゃいいのに」

「出来るかそんな真似! それに忘れなかったとしても、こんな阿呆くさい私闘で使う気などないわ!」

「ご主人、ご主人、声がでかいでさ。しっかし、よくエントリーに通りやしたね」

「正直、周囲の視線がかなり痛かった」

「いや武器じゃなくて。登録会場だって女戦士でごった返してたじゃねぇですかい……」

「舐めるな。私を誰だと思っている。少し覚悟を決めれば、女戦士の十人や百人──」

「案内係の人、美少女でやしたね」

「ふふ、そうだな……いや待て、それがどう関係あるんだ?」

「べーつにー」

 ふてくされたようにそっぽを向きながらも、主人の腕をより強く抱きしめるマオである。

「そう言うお前こそ、どんな武器で登録したんだ? まさか尻尾とか言わんだろうな」

「これでさ。ぱぱらぱーん、朝市の掘り出し物パート・ツー。ネコの御飯ー」

 マオがどこからか取り出したそれを見て、シアンは一瞬ギョッとなった。

 忌み嫌われる灰色の生物、ネズミ────の一見本物と見紛う精巧な玩具であった。

「……よく、エントリーに通ったな」

「審査員が動物好きかロリコンだったんじゃないでやすか?」

 二人とも単なる賑やかしと見なされ、面白がられていたというのが真相である。

 のんびりと話し込む主従の周囲では、いまだ激戦が繰り広げられている。

 しかし、二人に襲いかかってくる選手は一人もいなかった。

 何人かはそちらに目を向けているのだが、シアン達に気付いた様子もなく、視線を別の場所に移している。

 まるで、そこには誰も存在していないかのように。

 事実このとき、あらゆる人間が主従の姿を認識出来ていなかった。

 魔術ではない。

 気配を完全に断っているのだ。

 今や二人はアリーナの壁であり、空気だった。

 闘って勝つのではなく、負けずに、そして闘わずに生き残る。

 忌まわしき女傑地獄を突破するため、シアンの選んだ最上の策だった。

「それにしてもこの光景は……吐き気がする」

 (たま)らず眼を覆った。

 直接闘っていないとはいえ、女戦士三〇〇人による修羅場は見ているだけでもシアンの精神にダメージを及ぼす。

「あ、ご主人、あれ……!」

「やめろその手には引っかからない」

「そういうイタズラじゃねぇですって! 隊長さんの周りがおかしいんでさ!」

 シアンはハッとしてマオの指す方を見た。

 たしかにおかしい。

 イリーズを中心に、まるで人の渦が出来ているようだ。

「あいつ……囲まれている!」

 大勢の選手がイリーズ一人を狙っているのだ。

 公爵の策略であろう。大混戦に乗じて王子派――正確には王女派か──の急先鋒たる親衛隊長を集団で襲い、表舞台から引きずり下ろす気なのだ。

 そして当のイリーズも、自らの置かれた状況に気が付いていた。

 完全に包囲されぬよう絶えず動き回りつつ、一人ずつ冷静に返り討ちにしてゆく。

 しかし、さすがは今大会のために用意された手駒というべきか。そこいらのゴロツキや野盗を相手にするのとはワケが違う。

 殺し屋、用心棒、賞金稼ぎ、モンスター専門の狩人……剣を交えた手応えから推し量れるだけでも、錚々(そうそう)たる強戦士の混成部隊である。

 単独行動が常の連中であるおかげで連携力はそれほどでもないが、とにかく個々の腕前が達人の域に達しているのだ。

 一人倒すのに、最低でも三合は要している。

 これでは剣が折れるが先か、スタミナが切れるが先か。

 いずれにせよ、押し負けるのは必定────

(くそっ、イチかバチかだ──!)

 隙を突いて、イリーズは二本目の剣──細剣(タウンソード)──を抜いた。

 その鋒が虚空に文字を描くように軽やかに舞う。

 たちまち二人の選手が光の中に消え、敵の群にザワッと動揺が走った。

 二刀流──それがイリーズの真の闘法だった。

 それも攻防を両立させるだけではない。

 長剣では堅実な剣法ボルトを、そして細剣では翻弄と奇襲に長けた剣法スウェッソンを、つまり名実ともに異なる二つの剣を同時に操るのだ。

 メガロニア親衛隊のなかでも、イリーズのみが体得した絶技である。

 だが、その技をもってしても敵集団の殲滅にはまだ相当な時間が必要と見えた。

 自分か敵か、どちらが先に限界を迎えるか。

 それはイリーズにもわからない。

「マオ、ここを動くな!」

 有無を言わせず従者に命ずるや、シアンは走ろうとして……

「う……! おぅぇ……!」

 猛烈な吐き気に襲われて膝を突いた。

 図々しく融通の効かない(そして出来れば視界にも入れたくない)野人(ヤフー)女でも、仲間である以上は助けねばならない。

 だが、そのためには、あの女傑の渦中に飛び込まねばならない。

 そう考えた瞬間、身体が激烈な拒否反応を示したのだ。

 せめて眼を瞑って相手の姿さえ見なければ、不快感も緩和はされよう。

 しかし一対一ならいざしらず、この乱戦の中、何人もの敵を相手に巧く立ち回るのはシアンの腕を持っても至難の業である。

「ご主人、これ!」

 すると、大きなネコの手がスッと前に差し出された、

 そこに握られているのは、蝶の形を模した仮面──貴族の舞踏会などで使用されるバタフライマスクだ。

「お前……こんなときに──」

「おふざけじゃありやせん! はい着けて!」

 着ぐるみの手を器用に使って、マオは仮面を主人の顔に被せた。

「こ……れは……!」

 そして、たちまちシアンはその秘密を知った。

 目の前で大暴れする女傑達が全員、ぼんやりとした影に見えるのだ。

 眼の部分に、色眼鏡を応用したレンズが嵌め込まれているのだろう。

 絶妙な光の押さえ具合である。これなら相手の姿形は分かっても、容姿までは判別が突かない。

「マオ、助かる!」

「いってらっしゃい!」

 今度こそシアンは走った。

 仮面のおかげで戦場を見渡すのにほとんど嫌悪寒はない。

 曖昧な視界だが、他の感覚を総動員すればやれないことはない。

 残る問題は……武器。 

 持参したものなら懐にあるが、所詮は投擲用ナイフ。リーチを考えると絶望的な気分になる。

 仮面の恩恵があってなお、相手が女傑と分かっている以上なるべく近づきたくないシアンである。

 走りながら、地面から砂を掴み取った。

 イリーズの包囲網が近づく。

 外周を固めていた何人かが、自分達の方に一直線に突っ込んでくる不審な仮面の女に気付き、身構えた。

 その瞬間、シアンは砂を投げた。

「な──!」

「うわッ!?」

 予想だにしなかった卑怯とも言える奇襲に、全員が目を瞑って怯む。

 その隙を突いてシアンは戦士の一人の懐へと飛び込み、その手に握られていた全長二メートルほどの戦棍(スタッフ)を蹴り上げた。

 主の手から離れた得物が宙に舞う。

 同時に、シアンが跳んだ。

 相手の肩を踏み台にして、さらに高く舞い上がる。

 空中で戦棍を掴み、着地点を見据えた。

 影のような世界の中でもはっきりと分かる、渦の中心を。

 ピンチに陥るイリーズに、

 呼ばれたわけではないけれど、

 空より参上シアン仮面!

 嵐巻き起こす武芸の腕に、

 親衛隊長も舌を巻く!


 ところでどうした従者の方は?

 主人の言いつけソッチノケ!

 ネズミ引き連れ大暴れ!

 そこに迫ったひとつの影は、

 新たな刺客か優勝候補!?

 謎の少女も現れて、

 誰が残った予選会!?

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