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第3章 主人と従者と大乱闘Ⅰ ご主人女になる之巻

「はいはーい、『ご主人は女傑恐怖症』の裏話コーナー第3回でさ!」

「今度はどんな話をさせられるのやら……」

「ご主人、早くもお疲れでさぁ。でも大丈夫。今回はご主人にまつわる話じゃござんせん」

「ほんとか!?」

「オイラ、マオ・ニャンニャンの話でさ!」

「なんか回り回って私に関わってくる気しかしなーい!」

「そもそも、ご主人一人でも話が成立しそうなのに、なんでオイラっていうキャラが必要だったんでさ?」

「そもそもと訊かれると、まず作者がダブルヒーロータイプというか、主人公が二・三人いる話が好きでな」

「そうじゃなくって」

「なんだ?」

「なんで魔族で-、ちっちゃくて-、可愛くてー、ご主人LOVEになったのかなーって」

「あいだ二つ、自分で言うか…」

「知ーりーたーいー! ジタバタ!」

「作者が凸凹コンビが好きだったんだ」

「へいへい。でもなんでロリっ子とかじゃ駄目だったんでさ?」

「お前が人間の女だったら私が嫁探しで一喜一憂する必要がなくなるだろ?」

「えー、男同士でもいいじゃねぇですかい」

「やめろ私はいやだ」

「ちぇー、これじゃ報われねぇのはオイラの方じゃん」

「あと、私たち二人のキャラクターには明確なモデル、というかキャラ創作の起点がある」

「なんでさ?」

「それは次回のこのコーナーで」

「ええー」

「それでは、いよいよ《メガロニア次期王妃決定武術……」

「……ご主人?」

「大会名を言うだけで気持ち悪くなってきた…」

「てなわけでご主人がオイラに対してちょっとデレる《メガロニア次期王妃決定武術大会》開始編、いってみっしょー!」

「語弊がある語弊が!」


     Ⅲ   主人と従者と大乱闘



 メガロニア王宮の中心に、王国のシンボルである円形闘技場はある。

 雲ひとつない快晴に恵まれたこの日、王宮の門は解放され、闘技場は一万人を超える観衆で埋め尽くされた。

 《次期王妃決定武術大会》──それは、強兵国家メガロニアが誇る数多(あまた)の闘技会のなかでも、数十年に一度あるかないかの大イベントである。

 新たな王妃が誕生する瞬間を見ようと、王都民や近隣の村民のみならず、同盟国の貴族、商人や旅人、見学目的の戦士達までもが駆けつけていた。

 そして客席から見下ろされるアリーナにはすでに、我こそはと名乗りを上げた勇ましき女たちが勢揃いしている。

 その数、およそ三〇〇人。

 誰もが思い思いの位置と姿勢で、今や遅しとそのときを待っていた。

 アリーナが広大なおかげでそれほど窮屈ではないのだが、これだけの女戦士が集うとさすがに壮観である。

 大会は三日間の予定で開催される。この初日にあるのは開会式と、大会本戦への出場者を決する予戦である。

 だが、この予戦こそが《次期王妃決定武術大会》最大の目玉と言う者もいる。

 出場者全員による大乱闘(バトル・ロイヤル)である。

 試合開始の合図が鳴るや、大会参加者三〇〇人が手にした得物を(ふる)って、本戦出場枠の人数になるまで闘い抜くのだ。

 そう。昨夜、イリーズがシアンに告げた八人になるまで、である。

「冗談じゃない……」

 出場選手が一人、吐き捨てるように呟き、よろめいてアリーナの内壁により掛かった。

 開会式も始まらぬうちから満身創痍といった様子である。

 戦士、というには軽過ぎる装いだった。

 上下衣(カートル)とズボン。それだけである。

 上下衣の長い裾の両脇には腰まで届く長いスリットが入っており、両脚の動きを妨げない作りになっている。

 全体的にゆったりとしているが、きつく締めた帯が腰の細さを強調し、胸の膨らみを際立たせている。

 顔の半分を長い髪で隠しているものの、(ひら)けたもう半分を見ただけで誰もが「美女」と評する容姿である。

 化粧は薄めに留めたアイシャドウにルージュのみだが、それらがかえって素材である秀麗な目鼻立ちを一層引き立てることに成功している。

 さらに憂えげな表情がそこに加わって、なおさら艶然とした魅力を醸し出しているではないか。

 だが、女ではない。

 シアンである。

 憂えげに見えるのも、気分が悪いだけだ。

(なんで私が女装など……しかも、こんな本格的な……)

 実際のところ、昨夜フルレラ王女から要請された時点で不可避の事態ではあった。

 だが、こと女装に関して言えば、その必要はなかったのだ。

 王女の見立てどおり、着るものさえ選んでしまえばほとんど女と区別が付かなくなるのがシアンである。

 まして並の男を凌駕する高身長と筋骨隆々を誇る女戦士たちが数多集う大会予選の渦中にあっては、少女にすら見えてしまう。

 それが化粧をして胸に詰めものまですることになったのは、決して王女や親衛隊隊長の提案でも、シアンの意志でもない。

 目が覚めたら、こうなっていたのだ。

 「いやぁ、さすがご主人。美妖(ニンフ)もハンカチ噛み噛み地団駄もんでさぁ」

 起きがけ一番の挨拶代わりにマオにそう言われ、最初はなんのことかさっぱりわからなかった。

 そして鏡を覗き込んだシアン背筋を撫でたのは、美の神の寵手ではなく凍妖(ウェンディゴ)の息吹だった。

 寝ている間に、マオによって化粧を施されていたのだ。

 昨夜はしっかり気絶させたと思っていたはずが、じつはマオは早々に覚醒して、王女たちの話に耳をそばだてていたのだ。

 「化粧道具など、どこから盗んだ!?」

 「盗んじゃいやせん! いっぺんご主人にお化粧してみたくって、前々から少しずつ、余った食材やら薬草から作ってたんでさ!」

 「んな暇があったら修行しろ!」

 手刀を首の後ろに叩き込んで気絶させると、報復とばかりに服を剥いで風呂場で洗ってやった。無論、石鹸も使って丹念に。

 さらにそれが終わると、覚醒はさせぬまま拘魔縄で縛ってベッドに転がしておいた。

 そして自分も手早く武闘服に着替えたのだが、胸の裏地に詰めものが縫いつけられていると気づいたのは、朝焼けの町に飛び出してからだった。


 マオを置いてきたのは出場させないためだ。

 闘技場ともなれば大勢の眼がある。マオの正体が露見すれば大騒ぎとなりかねない。

 だが正直なところ、今ほど隣にいて欲しいと思ったことはない。

 あまりにも心細かった。

 もしなにかの手違いでこの場に現れたなら、泣いて抱きしめてしまうかも知れない。

 皮肉も悪戯も許すだろう。

 この女傑地獄に一人でいることに比べれば、あの生意気従者のそばでさえ天国も同然だ。

 その時だった。

 誰が背後から、シアンの服の裾を引っ張った。

「ご主人、ご主人ッ」

「──ッ!! その声は────!」

 感激がシアンを貫いた。

 頭のなかで、天界からのラッパと鐘の音が聞こえる。

 振り向き、この地獄に舞い降りた天使を抱きしめようとして────

「マ──おおおッ!?」

 引っ繰り返らんばかりに仰け反った。

 巨大なネコが二本脚で直立しているではないか。

「大変だ! バカでかい猫妖精(ケット・シー)がいるぞ!」

 と叫んだのも束の間、ネコの大口から見慣れた顔が覗いているのに気づいた。

「にゃん」

 その瞬間、シアンは着ぐるみの頭に後方回転脚(バックスピンキック)を炸裂させていた。

 怒りの鉄脚炸裂すれど、

 内心シアンはホッとして、

 啖呵を切ります従者と二人、

 予選突破を決意する!

 合流してきたイリーズの、

 苦言小言も聞き流し、

 仰ぎて見つめるロイヤルシートに、

 ニギエラ王子の開会宣言、

 いざここに始まらん武術大会、

 嗚呼、誰がために鐘は鳴る!

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