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主人と従者と来訪者Ⅳ ご主人踏まれたり蹴ったり之巻

「ご主人、今回からここは楽屋ネタとか裏話のコーナーになるらしいでさ」

「いや待て、そんな簡単に第四の壁をぶち破っていいのか!?」

「ではご主人、この作品のコンセプトがどう決まったか聞かせてくだせえ」

「え、作者じゃなくて私が話すのか!?」

「主人公特権でさ。作者になったつもりでどうぞ」

「あ、えっと……作者が『コナン・ザ・グレート』とブルース・リーが好きでな。蛮人コナンのような剣と魔法の世界にブルース・リーを一人放り込んだらどうなるだろう、というところから始まったらしい」

「想像したら画面がめっさ濃いでさ」

「そう。だから逆に華やかな女性キャラクターをいっぱい出してバランスを取ろうってなってな。結局、あっちもこっちもゴリラ女ばかりでどこが華やかなのかサッパリ分からんが……」

「まぁそこは読者の皆さんの脳内補正にお願いして」

「身も蓋もない言い方をするな」

「だいいち、女がこんだけいて、一番華やかなのってご主人じゃねぇですかい」

「ふっ」

「そんなご主人に湧く悪いメス虫はオイラがパンチ!」

「やめんかッ!」

「そうは言っても-、なんだかんだで一番女をパンチするヤバい役回りが…」

「ああ……主人公であるこの私だ……解せん」

「悪人にゃぁ男も女も関係ねぇぜ。女だから~なんて甘い顔してる間に、あっちがこっちをバッサリよ。ほいじゃ、なんでご主人が女傑恐怖症なんて設定になったかってぇ話は次回にお願いして、オイラがご主人と踏んだり蹴られたりする本編をどうぞー」

(踏んだり〝蹴られたり〟が洒落になってない……)

 天使だ──シアンにはそう見えた。

 二人目の予期せぬ来客は、紅顔の乙女だった。

 だが幼げな面立ちとは対称的に、まっすぐこちらを見つめてくる視線からは強い意志の力が感じられる。

 裾の長い上下衣(カートル)と、ユニコーンの刺繍が施された外套(クローク)。鮮やかな金髪が胸元に垂れ下がる。

 庶民的な服装であるにもかかわらず、並みの人間にはない気品が、その佇まいから溢れていた。

(美しい……)

 シアンはそう思った自分に驚いた。

 少女と呼べる年頃の女性に対して、素直に〝美しい〟という形容を用いたのは初めてだった。

 シアンにとって異性に対する好印象といえば〝可憐〟か、あるいは〝かわいい〟に限られてきた。

 〝美しさ〟は〝気高さ〟に、そして〝気の強さ〟に連結してゆくという悲しい方程式が脳細胞に定着してしまっているからだ。女性本人にその気がなくても、シアンの中でそうなってしまうのだ。

 しかし目の前の少女を「美しい」と思っても、とくに拒絶反応は起きない。

 彼女は、今まで見たことのないタイプだった。

「きみは?」

「無礼者! この御方を、どなたと心得るか!」

 何気ないシアンの問いに、少女の背後に控えていた女が声を荒らげた。

 少女に眼を奪われていたおかげで、シアンは今までその女の存在に気づかなかった。

 一瞥(いちべつ)して、即座に眼を()らす。

 燃えるような赤毛を短髪にした女だった。

 服装と雰囲気、そして腰の剣──イリーズと同種の人間だ。おそらくは部下の親衛隊員だろう。

「ウィリアミナ、およしなさい。なんのために変装までしたのです」

「はッ、申し訳ありません」

 少女に諭され、ウィリアミナは憮然とした表情で脇に退いた。

 そのときになって、シアンは赤毛以外にもう一人の従卒がいるのこと気づいた。

 先頭の少女に少し似た、幼げな女だった。

 長い金髪をポニーテールにしている。鼻梁の周りにソバカスが浮いているが、人によってはチャーミングに見える。

 少なくともシアンは、純朴そうでかわいいと思った──ただし、剣さえなければ!

 彼女もイリーズの部下なのだろうが、剣士にしてはやや迫力に欠ける。

 シアンと眼が合うや、幼げな剣士は頬を紅く染め、はにかんでうつむいた。

(ほんと……剣さえ持ってなかったらなぁ)

 脈がありそうなだけに、少し、惜しいものを感じる。

(とも)のものが失礼をいたしました」

 先頭の美少女が丁寧に頭を下げた。

「いえ、こちらも礼を欠いたようで。よければ、お名前をお聞かせ願えますか」

 改めてシアンは名を訊ねた。

 今度は丁寧に。ウィリアミナだかウィルヘルムだかいう赤毛に睨まれるのはもうごめんだ。

 その赤毛に、少女が頷いて見せた。

 バタン──部屋の扉が閉ざされた。

「申し遅れました」

 シアンに向けて少女がお辞儀をする。

 その仕草だけで、シアンはバクンッと心臓を殴られたようになる。

 だが、次に少女の口から発せられた言葉が、うわついた気分をはじき飛ばした。

(わたくし)の名はフルレラ・ヴァン・メガロ。メガロニア国王、ラルフ・ヴァン・メガロの娘にございます」

 シアンは即座にひざまずき、頭を下げていた。

 雰囲気や従者の様子から宮中の貴人であろうと予想はしていたが、よもや王族の筆頭格などとは思ってもみなかった。

「これは……王女様と存ぜぬこととはいえ、ご無礼をいたしました。私はシアン・ルーン。諸国を旅し、己の武芸を磨いている身です」

 頭を垂れたまま、王女に向けてうやうやしく掌を差し出す。

 そこに乗せられた白い手に、そっと唇を寄せ、きめ細やかな甲に口づけた。

(ん? なんか、汗臭い。それにこの手の形、見覚えが…………)

 含み笑いが聞こえてくる。赤毛と、幼顔の隊員のものだろうか。

「それで……シアン・ルーン殿。こちらの魔族は、あなた様のご従者で?」

 王女の声が遠い。間に誰か一人いるような不自然な響きがある。

 手の根元を追って顔を上げた。

「いひっ」

 マオが微笑んでいた。

「おま──あぶッ!」

 立ち上がろうとした瞬間、シアンは頭から床に倒れ込んだ。

 主人の足をマオが払ったのだ。

「お(ひけ)ぇなすって!」

 間髪入れずに主人の背を踏みつけ、王女に対して見得を切る。

「え? あ、はぁ……?」

 突然なにが始まったのか理解出来ず、王女一行は姿勢を正した。

(こいつ、本当に契約者か? 使い魔に転ばされて踏みつけられる奴なぞ、初めて見た)

 イリーズでさえ、眼を丸くしてことの成り行きを見守った。

「どうも、お控ぇなすって下すってありがとうござんす。あっし、族はネコムスコ、性はニャンニャン、名はマオと申す、ちっぽけな魔の物にござんす。生国と発しやすは魔界のなかでも辺獄のそのまたド田舎にござんすれば、名を出すにゃぁこっ恥ずかしき次第にて、ちとご勘弁。わけあって今はこの地上界にてシアン・ルーンの旦那をご主人と仰ぎ、陰に日向(ひなた)に布団のなかに付き随い、旅と修行と夜の供を────」

「やかましいぃぃぃ!!」

「ぶみゃあぁぁッ!」

 怒号とともにシアンが立ち上がった。

 腕立て伏せをするように、背中にいたマオを腕のバネだけで天井近くにまで吹き飛ばす。

 さらには電光石火の旋風脚(トルネードキック)

 バフンッと音を立てて、マオはベッドに激突した。

 まさに稲妻が駆け抜けたかのごとき神速。衝撃でベッドマットがうねり、木枠がたわみ、部屋が揺れた。

 落ちたのが床であれば、下の階まで突き抜けていたかもしれない。

 生意気な従者はマットの上で三回バウンドして、ピクリとも動かなくなった。

「……見ての通り、素行にやや難はありますが、腕は申し分ありません」

 決着がついたと見て取り、イリーズは王女に言った。

「我々の状況を鑑みれば、魔族との契約もこの際、眼を瞑るべきかと存じます」

 親衛隊隊長とは思えぬ、危うげな提案である。

 王女は顔を巡らせ、幼顔の隊員を見た。

「あ……私は、いいと思います。いい人たちだと」

 この部屋に入って、初めて彼女が発した言葉だった。

 王女は少し考えるような素振りを見せたあと、フッと短い溜息をついた。

「よしなに。もとより私も危険は承知の上。あなたがたの見立てを信じましょう」

「はっ!」

 力強く敬礼をするイリーズだったが、改まって言われると若干の不安を抱かざるを得ない。

(私の見立て……か。大丈夫だよな?)

 その視線の先では……

「よしっ」

 マオが起き上がってこないことを確認したシアンが、小さくガッツポーズを決めていた。

 邪魔な従者はベッドに消えて、

 話聞きます王女の憂い。

 王座の転覆謀反の気あり、

 なんとか止めたい王女様。

 ここで立たなきゃ男がすたると、

 頷くシアンは無思案さん。

 開けてびっくりパンドラボックス、

 聞いて轟沈、大作戦。

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