96 居酒屋での風景
会社帰り。
麻生と二階堂は駅前のいつもの居酒屋に入った。
麻生がカウンターに向かって声をかける。
「焼酎のロック二つね」
二階堂も続けた。
「それと焼き鳥のセットを二人分」
この店には週二度ほどきている。
二人とも独身で一人住まい。夕食のかわりに、今日はここで食べて帰るのである。
焼酎と焼き鳥が二人の前に運ばれてきた。
麻生が苦笑いまじりに話を切り出す。
「いやあ、今日はほんとに参ったね」
「ええ、ちょっと意見をしただけで、あの子、みんなの前でメソメソ泣き始めるんですからね」
「まったく今の若い子にはこまってしまうよ」
「ちょっと見かけがかわいいからって、泣けばまわりが許してくれると思ってるんですかね」
「そうに決まってるよ」
「ですが課長、あの百合子って女は気をつけた方がいいですよ。パワハラだって、すぐに人事に駆け込むタイプのようですから」
「どうもそのようだな」
麻生は大きくうなずいてみせた。
それから二人はもくもくと焼酎を飲み、焼き鳥の串を口に運んでいた。
麻生がおもむろに口を開く。
「しかし、若いっていうのはいいもんだな」
「ええ、若いってだけで、みんなからチヤホヤされますからね。その点、私らはまったく残念で」
「しょうがないよ。私もあんたもいい歳なんだから」
「課長はおいくつに?」
「もうじき五十だよ。で、二階堂係長はいくつになった?」
「私も四十を超えました」
「もういいオバサンだな」
「それをいうなら課長だって」
焼酎を飲み、そして焼き鳥を食べ、二人の女は大きな腹をゆすって豪快に笑ったのだった。




