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95 思い出せない夜
妻が寝ようと、部屋の明かりを消したときだった。
そこへ夫がやってくる。
「悪いが、ちょっと教えて欲しいんだ」
「どうしたのよ、急に?」
妻は驚いたような顔で夫を見た。
「いや、どうしても思い出せないことがあってな。それを思い出さないと、なんだか眠れそうになくて」
「それで、どんなことを思い出せないの?」
「それが困ったことに、何を思い出そうとしていたのか、それさえ思い出せなくて……」
「それでは答えようがないじゃない」
「でもおまえなら、たぶんわかってくれるんじゃないかと思って」
「そんなこと言われても、あなたが思い出せないことが、私にわかるわけないじゃないの」
「そうか……」
「思い出すの、もうあきらめたら?」
「それがいったん気になり始めたら、どうしても気になってな」
「それよりあなた……」
「何だ?」
「もっと大切なことを思い出さないと」
「何だ、大切なことって?」
「だから、ほら三年前」
「三年前?」
「三年前、あなたは死んだのよ」
「うん?」
「ねえ、思い出した」
「ああ、思い出したよ。さすがオレの女房だ。さっきから、それを思い出したかったんだ」
夫はにっこりすると、それから光の粒となって消えていった。




