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95/134

95 思い出せない夜

 妻が寝ようと、部屋の明かりを消したときだった。

 そこへ夫がやってくる。

「悪いが、ちょっと教えて欲しいんだ」

「どうしたのよ、急に?」

 妻は驚いたような顔で夫を見た。

「いや、どうしても思い出せないことがあってな。それを思い出さないと、なんだか眠れそうになくて」

「それで、どんなことを思い出せないの?」

「それが困ったことに、何を思い出そうとしていたのか、それさえ思い出せなくて……」

「それでは答えようがないじゃない」

「でもおまえなら、たぶんわかってくれるんじゃないかと思って」

「そんなこと言われても、あなたが思い出せないことが、私にわかるわけないじゃないの」

「そうか……」

「思い出すの、もうあきらめたら?」

「それがいったん気になり始めたら、どうしても気になってな」

「それよりあなた……」

「何だ?」

「もっと大切なことを思い出さないと」

「何だ、大切なことって?」

「だから、ほら三年前」

「三年前?」

「三年前、あなたは死んだのよ」

「うん?」

「ねえ、思い出した」

「ああ、思い出したよ。さすがオレの女房だ。さっきから、それを思い出したかったんだ」

 夫はにっこりすると、それから光の粒となって消えていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲の良い夫婦♪ 妻、肝がすわっていますね。肝っ玉母ちゃん……。きっと夫は無事に成仏できましたね。ほっこりするお話でした。読ませていただき有り難うございました。
[良い点] 年を取ると色々と思い出せないでもどかしいことが増えました。 この話もそんな、あるあるな話と思ったのですが・・・。 思い出せないと眠れないと言っていた夫、思い出せて永眠ですね。
[一言] ミルクボーイ風にやるともっと面白いかも オチがだいたい読めてしまうのは いつもの事でw 逆パターンやどちらも、、、 だったらまた別な楽しみ方も いろいろ試行錯誤を繰り返しながら 読者の反…
感想一覧
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