79 ちゃんちゃんこ
雪がしんしん降る日のことでした。
囲炉裏の火が、爺さまと孫の顔を赤々と照らしています。
「昔話でもしてやろうかのう」
爺さまは焚き木で炭火をつついてから、やおら語り始めたのでした。
昔のことじゃ。
山のてっぺんに一本の大きな木があってな。
根もとにはタヌキ、幹にはキツネと、それぞれがすみかを作って住んでおった。
ある大雪の日。
タヌキの家が雪で埋まってしまってのう。そこでこまったタヌキはな、キツネの家を自分のものにしようと考えたんじゃ。
「おい、キツネさん」
「なんだい?」
キツネが幹の穴から顔をのぞかせた。
「さっきから腹が痛くてしょうがねえんだ。村まで行って、薬をもらってきてくれねえか」
「村って、人間にかい?」
「そうだとも」
「でも人間は、たいそう恐ろしいそうじゃないか」
「なにも知らないヤツが、そんなことを言ってるだけさ。あいたたた……」
タヌキは腹を押え、おおげさに痛がってみせた。
「すぐにもらってきてやるからな」
キツネはだまされているとも知らず、いそいでふもとの村へと向かった。
それを見て、
――アイツ、きっと人間に捕まって……。
タヌキはしめしめとほくそえんだのだった。
さて、村に着いたキツネ。
灯かりのともった一軒の家を見つけた。
窓からそっとのぞくと、爺さまが囲炉裏のそばに座っている。
トン、トン。
キツネはおもいきって戸をたたいた。
――だれじゃろう?
爺さまが戸を開けると、キツネが一匹、体をふるわせて立っていた。
「おや、キツネではないか。この大雪のなか、なんの用じゃな?」
「友だちが腹痛でこまってるんです。それで薬がほしくて……」
「そうか、ちょっと待っておれ」
爺さまはさっそく薬を取ってきた。
そして、
「この雪で、山には食うもんがなかろう。これも持って帰るがいい」
薬といっしょにイモをキツネに渡した。
山のすみかに帰ったキツネ。
「人間って、やさしいんだね。薬をくれたうえに、これもくれたんだ」
タヌキに薬を渡すと、爺さまにイモをもらったことを話した。
「そんな人間がいたとはなあ」
タヌキは自分もイモをもらおうとな、爺さまのところへと向かったそうじゃよ。
囲炉裏の火が小さくなっています。
「ところがな、タヌキは二度と、山へは帰ってこんかったそうじゃ」
ここまで話すと、爺さまは囲炉裏の火に焚き木をつぎたしました。
囲炉裏の火で顔を赤く染めた孫が聞きます。
「ねえ、タヌキはどうなったの?」
「爺さまがな、タヌキ汁にして食ったそうな」
「その爺さま、恐い人間だったんだね」
「それだけじゃねえぞ。残った毛皮で、孫にちゃんちゃんこをこしらえてやったんだとよ」
「ちゃんちゃんこ?」
「ほれ、そいつじゃよ」
爺さまは孫の胸元を指さしました。
「じゃあ、これって!」
孫はあわてて見ました。
自分が着ている毛皮のちゃんちゃんこを……。
外では雪がしんしん降っていました。




