73 ウンコ占い
サラリーマンの猪瀬は、四十を過ぎてもカノジョのいない淋しい独身男だった。
その猪瀬。
会社に着くと、まず一番にトイレに行ってウンコをする。食ったものをただ出すだけでなく、長年の趣味である朝のウンコ占いをするのだ。
今朝はひさしぶりにウンコが水に浮いた。
運勢の見方は、ウンコが浮いていれば運気は上昇で沈んでいれば運気は下降である。色、臭い、形、量は関係ない。だれかに教えてもらったわけではなく、猪瀬自身が勝手に決めていたことだった。
「やったー」
猪瀬はおもわずガッツポーズをしていた。
とそのとき。
「やったー」
隣の個室から雄たけびが聞こえる。
――舛添だな。
声で同期入社の舛添だとすぐにわかった。それに朝のこの時間、トイレで舛添とよく顔を合わせていたのだ。
――まさか……。
舛添もウンコ占いをしているのだろうか。でなければ、あの雄たけびはなんだったのだろう?
猪瀬はズボンを引きあげながら、そんなことを考えていた。
個室のドアが開くのは同時だった。
「おはようございます」
舛添が朝の挨拶をしてくる。
猪瀬は笑顔で頭を下げ、それからおそるおそるたずねてみた。
「舛添さん、もしかしてウンコ占いを?」
「じゃあ、猪瀬さんもですか。実はさっき、猪瀬さんの声を聞いてもしかしたらと思ったんですよ」
「はい、もう長いことやってます」
「私もなんですよ」
「そうでしたか」
話を聞くに……。
ウンコ占いを始めたのは同じ頃、しかも運勢の見方もまったく同じだった。
猪瀬はこれまで、この趣味を他人に話したことはない。自分だけの楽しみだと思っていた。それが身近に同じ趣味を持つ者がいた。
さらに舛添も四十過ぎの独身である。
このとき。
猪瀬は運命のようなものを感じた。
それからの二人。
すっかり意気投合し、毎日のようにウンコを見せ合う仲になった。
一カ月後。
飲みに行くのも、遊びに出かけるのも、二人は常に行動を共にするようになった。
三カ月後。
二人の同棲生活が始まった。




