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71/132

71 父さんのカメラ

 母さんに頼まれて、カメラからフィルムを取り出そうとしたとき、未撮影のフィルムが一枚残っていることに気がついた。

「母さん、あと一枚写せるけど」

「じゃあ、それであなたを撮ってあげる」

 母さんが私を写すと言う。

「ううん、私が母さんを写してあげる」

 私は母さんを雨上がりの庭に誘い出した。


 庭にはアジサイの花が咲いていた。

「きれいね、アジサイ」

「それ、お父さんが植えたのよ」

「そうなんだ」

「じゃあ、このアジサイの花の前に立って。天国にいるお父さんも、きっと喜ぶと思うわ」

 私はアジサイをバックにして母さんを撮った。


 母さんはとても古いカメラを使っている。

 父さんが遺したカメラだ。

 母さんの話では、結婚したときにはすでに父さんが持っていたもので、新婚旅行のときもそれを持っていったという。ただ古いカメラのせいか、母さんが写すとピントが合っていないことが多い。

「母さん、デジタルカメラにしたら? 私が買ってあげるから」

「ううん、これで十分よ」

「最近のカメラって、すごくよくできてるの。ほとんどブレないし、明るさも調整してくれるので、写りがとってもいいの。それにパソコンを使ったら、いろんな補正もできて、顔のシミだって消せるんだから」

「でも、私はこれでいいわ」

 母さんは使い慣れた父さんのカメラがいいという。


 翌週。

 私は写真館で仕上がった写真を受け取った。

 そのほとんどは春先に、母さんが友人と旅行に行ったときに写したのものであった。

 何気なく写真をめくっていて、私は心臓が飛び出すくらい驚いた。

 最後の一枚。

 それにはアジサイを背景にした母さん、そしてその隣には笑顔の父さんが立っていた。

 こんな素敵なこと。

 デジタルカメラは補正してくれないだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] このお話好き♡
2024/05/27 12:59 退会済み
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