53 いわくつきの部屋
とある、いわくつきの部屋を借りた。
不動産屋の説明では、同じマンションの部屋の五分の一と破格の賃貸料。ただし女の幽霊が出るという。
これまでも……。
格安賃貸料の魅力につられて、何人もの野郎どもが入居したようだが、この女の幽霊を見て、みながスゴスゴと逃げ出したらしい。
だが、オレはちがう。
そこいらのいくじなし野郎とはちがって、筋金入りのクソ度胸があるのだ。それになにより、女の幽霊なら楽しみもあるじゃないか。
オレはすぐに引っ越した。
部屋は最上階の十階。間取りは3LDKと、独身には十分過ぎるほど広いうえ、窓から見える眺めもなかなかのものである。
オレは想像した。
夜な夜な。
窓ガラスをコンコンとたたく音がして、カーテンのすきまから白い手がのぞく。
オレがカーテンを引く。
するとだ。
顔の前に長い髪を垂らした女が、地上十階の宙に浮いており、窓ガラス越しに「入ってもいい?」と、かわいいくちびるを動かす。
――どうぞ、どうぞ、入っちゃって。
オレは窓を開けてやる。
若い女の幽霊が「お邪魔します。少しだけ、あたしの悩みを聞いてくれますか?」なんて、艶っぽい腰をクネクネと振って入ってくる。
――恨みごとなんかも聞いてあげようかな。
想像がふくらむ。
夏は冷えたビールで乾杯。
冬はコタツでミカンを食べて、彼女が皮をむいてくれたりして……。
――あー、たまんねえなあ。
風呂に入れば彼女がやってきて、「背中を流しましょうね」なんて。
――流して、流してー。
ここまでくると妄想だな。
でも楽しいな。
「幽霊さん、出てらっしゃい。いつでもお待ちしておりますよー」
オレは叫んだ。
するとである。
家具がビリビリと振動を始め、空気がヒンヤリと冷たくなった。
――げえっ!
オレは二歩も三歩もあとずさっていた。
部屋の隅に女の幽霊がいる。
両手をダラリと前に下げ、幽霊おなじみのポーズで立っている。
でも、ババアの幽霊だ。
ちっとも楽しくない。
翌日。
オレは部屋を引き払った。




