52 それぞれの人生
六十歳のオレは、超時空移動装置を使って三十年前のオレのところへ行った。
「九十歳のオレが、いつもオレのところに来て文句を言うんだ。オマエが結婚しなかったんで淋しい人生だったとな。みんな、三十歳のオマエのせいだ。オマエが結婚せんからだ」
六十歳のオレは、三十歳のオレに文句を言ってやった。
「そんなこと、オレに言われたって」
三十歳のオレとしてもこまる。結婚したくてもできないのだから。
「それにだ。オマエが金を貯めなかったんで、今のオレには貯金がない。おまけに年金も少ない」
「うるせえなあ。給料が少ないんだからしかたねえだろ。これでも一生懸命がんばってるんだよ」
三十歳のオレはバイトの身である。就職活動を怠らずやっているのだが、なかなかまともな仕事に就けずにいるのだ。
「オマエが結婚しなきゃあ、オレはいつまでも九十歳のオレに責め立てられる。なあ、早くしてくれよ」
「じゃあ、今からあんたがすればいいだろ」
「こんな六十歳の爺さんと、女が結婚してくれるわけないだろ」
「たしかにな」
「だから三十歳のオマエが、今のうちに結婚しろと言ってるんだ」
「そういうが、今はオレの人生だ。オレがどう生きたって勝手だろ!」
「そうなのだがな」
六十歳のオレには、三十歳のオレの気持ちがよくわかる。過去に歩んできた道なのだから……。
「とにかく頼むよ」
最後にこう言い残し、六十歳のオレは三十年後へと帰っていった。
――なんでオレが、こんなに文句を言われなきゃならんのだ。
三十歳のオレは無性に腹が立ってきて、三十年前のオレに文句を言いたくなった。ことの始まりは、オレが生を受けた三十年前にあるのだから……。
三十歳のオレは、超時空移動装置を使って三十年前のオレのところへ行った。
そこはオフクロの腹の中だった。
目の前に生命になったばかりのオレがいる。
――ふむ。
オレは文句が言えなかった。
こんな純真無垢な子に、文句を言うのはしのびないし、文句を言ってもどうしようもない。
それにだ。
ことの始まりはそもそもオヤジにある。
――うん?
オフクロの声が聞こえる。
「しょうがないわねえ。あなたのお父さん、また三十年前に行ってるのよ。三十年前の自分に文句があるからって」




