50 まだまだ元気
定年退職して、二十年。
小森さんはなに不自由なく暮らしてきた。
五年ほど前、最愛の妻には先立たれたが、息子夫婦と同居しているので淋しくはない。また病気をすることもなく、体力には少なからず自信もあった。
だが最近。
嫁からたびたび言われるようになった。
「お義父さん、気をつけてくださいね。足腰が弱くなってるんですから」
心配してくれるのはありがたいが、自分のことぐらい己で管理できる。いらぬ世話というものだ。
小森さんは思うのだった。
――ひとつ元気なところを見せてやらねばな。
ある日の朝。
小森さんがリビングに入ると、九時を過ぎているのに、息子が新聞を読んでいる。
小森さんはおどろいて声をかけた。
「おい、会社はどうした?」
「父さん、今日は日曜日だよ」
「そうか……」
ときたま曜日がわからなくなる。
小森さんにとっては、なにしろ毎日が休日なのである。
「朝めし、早く食べたら。オレたち、とっくにすませたんだ」
「ああ」
小森さんはキッチンへと向かった。
玄関を通りかかったときだった。
そこにはサンダルをつっかけ、ゴミ袋をかかえた嫁が立っていた。
これからゴミ捨てに行くのであろう。
――そうだ!
小森さんは嫁に声をかけた。
「ワシが捨てに行くよ」
「ええ、でも……」
「えんりょせんでいいから」
小森さんはひったくるようにゴミ袋をうばうと、さっそくゴミステーションへと向かった。元気なところを見せてやろうというのだ。
嫁が奥に向かって声をかける。
「今、取ってきたばかりなのに。ねえ、今度はあなたが取りに行ってよね」
「オヤジのボケ、いよいよひどくなってきたな」
リビングからため息が聞こえた。
小森さんはゴミステーションにいた。
――一番乗りだな。
ガラ空きのスペースにゴミ袋を置いた。
今朝はこれで二度目だ。
ゴミの袋は一度目と同じものであったが……。




