15 傘
「オレ、五時からバイトが入ってるんで、そろそろ行くわ」
孝一はスマホで時間を見てから立ち上がった。
「ああ。じゃあ、またな」
昇が座ったまま手を振って見送る。
孝一と昇は、同じ大学に通う気の合う同級生。
二人とも週に三日ほどコンビニでアルバイトをしていたが、時間のあるときはお互いのアパートに行き合い、今日のようにゲームやおしゃべりなどをして過ごすことが多かった。
孝一は玄関のドアを開け、外廊下に出たところで空を見あげた。
雨が降っている。
「くそー、雨が降ってやがる」
コンビニまで急ぎ足で歩いても十分はかかる。おそらく行き着くまでに、服もズボンもビショ濡れになってしまうだろう。
孝一の声が聞こえたのだろう。昇が玄関までやってきて、大きな黒い傘を差し出した。
「これ、持ってけよ」
「いいのか?」
「ああ、遠慮すんな。オレ、今日はバイトがないんでな」
「すまんな。傘、明日には返しに来るんで」
孝一はありがたく傘を受け取ると、街中にあるバイト先のコンビニへと向かった。
――アイツの傘らしいな。
何事も気にしない昇の顔が思い浮かぶ。
傘は骨が一本折れており、ちょっといびつな形になっていたのだ。
バイトを終えての帰り。
「あっ!」
孝一は声をあげて立ちどまった。
コンビニを出てすぐ、ビルの合間を吹き抜ける強い風に体をおられたのだ。
雨がもろに顔に当たる。
傘は反対方向に裏返っていた。布の半分ほどがめくれており、骨の何本かはねじれ曲がっている。
「くそー」
傘を元の状態にしようと試みた。
だが、すぐにあきらめる。手の施しようがないまでになっていたのだ。
孝一は壊れた傘を手に、雨に濡れながら自分のアパートまで走って帰った。
翌朝。
――おかしいなあ。
孝一は先ほどから傘を探していた。
一週間ほど前にも雨が降った。そのとき使ったのだから、ないはずはないのである。ところが、どうしても見つからない。
どこかに置き忘れて失くしたのだろう。
買ったばかりの新品だったので、なおさら失くしたことに腹が立った。
が、ないものはしょうがない。
孝一は探すことをあきらめ、壊れた傘を持って昇の住むアパートへ向かった。
「すまん」
昇に傘を見せてわびた。
「気にすんなよ」
昇は少しも気にしていないようで、屈託のない笑顔でそう言ってくれた。
持つべきはやはり友である。
「申しわけない。代わりにオレの傘を持ってこようと思ったんだけど、最近どうも失くしたみたいで」
「気にすんなって。どうせボロ傘なんだから」
「で、この壊れた傘、どうする?」
「オマエに返すよ」
「返すって?」
「それ、この前の雨のとき、オマエのところにあったの、ちょっと借りて帰っていたんでな」
「なぬっ!」




