14 完璧な処刑
幼いころ父親を失った。
それも我が家で、私の目の前で殺害された。父は私を守ろうと、強盗に立ち向かい殺されたのだ。
犯人の男の顔は、今でも鮮明に覚えている。左の頬に大きなキズのある男だった。
私の証言で、男はまもなく警察に逮捕された。
ところが裁判で無罪となる。
罪をつぐなうべき男、ヤツには完璧に作られたアリバイがあった。さらに確たる証拠もなかった。
幼い子供の目撃証言。
それだけでは、男を有罪に導くことはできなかったのである。
男は町から姿を消した。
父の死後。
母はパートのかけもちをして、毎日早朝から夜遅くまで働きづくめだった。そして私を大学まで行かせてくれた。
その苦労はおそらく、なみたいていなものではなかったはずだ。
その母は……。
私が就職し、社会に出たのを見届けると、安心したように天国へと旅立った。父が生きていれば、過労なんかで死ぬことはなかっただろう。
父を殺された。
そして母も殺された。
このときだった。
私が犯人に復讐することを決意したのは。
司法によって裁かれぬなら、私の手によって裁いてやる。
私が犯人を処刑してやるのだ。
あれから十五年。
一日たりとも、男の顔を忘れたことはない。
男の行方について、いくつもの探偵会社を使って捜し続けた。にもかかわらず……生きているのか、その手がかりさえもつかめなかった。
と、そんなある日。
予期せず私の前に、とつぜん男の方から姿を現わした。忘れもしない左頬にある大きなキズ。
それからも……。
週に一度、男は私の前に現われた。
さいわいにも私のことに気づいていない。むしろ、この私を信頼しきっている。
今の私には家庭も地位もある。それらを失わず決行するには、完璧な処刑でなければならない。
だが、私には自信があった。
処刑すると決めた日が来た。
全身麻酔により眠った男は、今、私の勤める病院の手術台の上で横たわっている。胃にできた潰瘍を取り除くために……。
医療事故はおうおうにして起こるものだ。
たとえ患者が死んだとしても、医者が殺人罪に問われることはない。
メスが男の腹を切り裂いてゆく。




