130 庭の生き物
三月末のこと。
それまでの職場が異動となり、オレは転勤先の新たな職場の近くに住まいを借りた。
そこは一軒家で、玄関そばにコンクリート敷きの駐車場があり、もう一台停められる予備としてか、その奥に畳二つ分くらいの空き地があった。
ただそこは草が伸び放題となっていて、この家はしばらく誰も住んでいないことがわかった。
引っ越した翌日。
駐車場に車を停めたときである。
車の二メートルほど前方、奥の草むらから何物かがひょっこり顔を出し、それからすぐに引っ込んで消えた。
見たのは一瞬だったが、その顔には丸っぽく尖った口があり、そいつは大きな亀の頭のように見えた。
――なんでこんなところに亀が?
オレは車を降りて、そいつが消えたあたりを確かめるようにのぞいて見た。すると茂った草の間に直径十センチぐらいの穴があった。
どうやらそれが棲み処のようで、そいつはその穴の中に隠れていると思われた。
穴の中は暗くて見えず、それなりの深さがあるようだ。
――口が尖っていたな。
手を差し入れたら噛まれるかもしれない。
オレは用心のため、庭の隅に立てかけてあった竹ボウキを取ってきて、細い柄の方を穴の中に突っ込んでみた。
竹ボウキの柄が二十センチほど入って、何かしら固い物にぶつかって止まった。
何の反応もない。
そこで今度は柄の先で、チョンチョンと固い物を突いてみた。
バキッ!
竹の割れる音がした。
驚いて竹ボウキを引き抜くと、柄の先五センチほどが見事に喰いちぎられていた。
かなり強力な歯と顎を持っているようだ。
竹ボウキを一噛みで喰いちぎる亀などいるのだろうか? たとえいたとしても、そこらにいる普通の亀ではないことは容易に想像できる。
オレは急いで近くにあったコンクリートブロックでもって穴をふさぎ、とりあえずそいつが穴から出てこれないようにした。
素人がこれ以上かまうのは危険である。
それからすぐに大家に連絡を入れ、オレは目の前で起こったことを伝えた。
翌日。
大家が依頼した害獣駆除の業者がやってきて、草の生えた空き地の土が掘り返された。
その途中。
土の中から猫や鳩などの小動物の大量の骨と、幼い子供の人骨一体分が見つかった。
あとで大家が教えてくれたことだが、その子供の骨は以前、この付近に住んでいて、あるとき行方不明になった子供のものだったらしい。
で、肝心のあいつはどこへ消えたのか……。
オレが見たあの生き物は、残念ながら今もなお発見されていない。




