127 猫の腹痛
一年ほど前にあった奇妙なことを語ろう。
その日の夕方。
ニャアーニャアーと、飼猫のかん高い鳴き声が庭の方から聞こえてきた。
野良猫でも入ってきたのかと無視していたが、その鳴き声があまりにうるさく、しかもそれがしつこく続くので、私はしかたなく様子を見にいった。
飼猫は地面に横たわり、手足を突っ張るように伸ばして、ひどく苦しそうに鳴いていた。
よく見れば腹がパンパンに膨れている。
おそらく何か大きなものを丸呑みしたのだろう。そしてそれは、まだ腹の中で生きているのか、猫の腹がモゴモゴと動いている。
さらには……。
――何だこれ?
私は猫の尻の穴から、蛇の尻尾のようなものが出ていることに気がついた。
その向きからすると……。
これは猫が蛇を食ったのではなく、蛇の方が猫の尻から侵入したのだと思われた。
私は猫の尻の穴から出ている尻尾を掴むと、それを抜いてやろうと引っ張った。
だが本体が尻の奥で引っ掛かっているのか、猫が暴れて痛がるだけで、肝心なものはいっこうに出てこない。
――これはもう動物病院に連れていくしかないかも……。
そう思い始めたときである。
猫の口から白い泡がブクブクと出てきた。そしてそれと同時に、どす黒い色をした何かが泡と一緒に口から飛び出した。
丸い身体に長い尻尾。
それは蛇などではなかった。私が見たことのない生き物で、すごいスピードで地面を駆け、それから塀を伝って登り、隣家の敷地に逃げ去っていった。
あっという間だった。
そこで飼猫を見ると、あの生き物が出たことで腹痛が収まったのか、今まで苦しんでいたことがウソのようにケロッとした顔をしていた。
そのあと隣家の者に知らせるべきか迷った。
が、結局。
その生き物が隣家の敷地に逃げ込んだことは話さなかった。どうせ信じてもらえないだろうし、私の頭がおかしいと思われるだろう。
その後も誰にも話していない。
だから話すのは、あなたにこうして語った今日が初めてである。




