12 赤い糸
ブラインドタッチの指が、意思に反してピクピクと動いた。キイボードに目を落すと、赤い糸が左手の小指に結ばれている。
私は目で、糸の先をたどるように追った。
――なんで?
赤い糸は大森の右の小指につながっていた。
――どうしてあの人なの?
大森は三年先に入社した先輩社員。女にモテるとウソぶいている、自信家でイヤなヤツだ。
――よりによって、なんで?
赤い糸――運命の糸は、私と大森をしっかり結びつけている。
彼と結ばれる運命なのか。
――あんなヤツ、絶対におことわりだわ。
さいわい大森の方は、まだ赤い糸に気づいてないようで、隣席の者と何やら打ち合わせをしている。
――今のうちに……。
私は引き出しからハサミを取り出した。
小指が再びピクリとする。
大森が手を動かしたのだろう。
勘違いをされてはこまる。こっちは、まったくその気がないのだ。
大森が気づく前にと、いそいで運命の赤い糸を切ろうとした。
が、どうしても切れそうにない。
事務用の小さなハサミでは無理なのだろうか。
あきらめかけたときだった。
赤い糸が薄らいでゆく。そして、ついには完全に消えてくれた。
――助かった……。
ホッとして、赤い糸の消えた小指をなでた。
おそらく二人の運命は、それほど強い結びつきではなかったのだろう。
それでも、いつまた赤い糸が現れないともかぎらない。
私はまだ心配だった。
その日の会社帰り。
私はホームセンターに立ち寄った。
――これなら切れるはず。
針金でも切れそうな大きな布バサミを手に、会計をしようとレジカウンターに並んだ。
と、そのとき。
いきなり左手の小指がピクリと動いた。
――えっ?
そこには恐れていた赤い糸が現れていた。
あわてて糸の先を目で追う。
そこにはやはり大森がいた。
ハサミを見られないよう、私はとっさに体の陰に隠した。
大森も私に気づいた。おどろいた表情を見せて、持っていたものをあわてて後ろ手に隠す。
――失礼しちゃうわね。
私は見逃さなかった。
大森が隠した手の中のモノ――庭木の枝を切る巨大なハサミを……。




