第六の属性
二人の緊張が解けた矢先に、何か仕掛けが動く音がしてさらに奥へと向かう通路が出現した。
「へえ、無理矢理ゴーレムの出現を止めたんだが、あれでもクリアとみなされたみたいだな」
「あのままゴーレムを倒し続けてたらどうなってたか。考えると少し怖いね」
「言われてみればそうだな」
二人は新たに現れた道を先に進もうとした時、ゴトリと小さな音がした。
音の方向は空だった宝箱である。
「あれ?宝箱の中に何かあるよ?」
二人が宝箱の中を改めて覗くと、そこには一本のナイフがあった。
「この部屋をクリアしたことで現れたのか」
大きな宝箱の中に、ちょこんと鎮座しているそれは、銀を基調とした鞘には大きなサファイアを筆頭に寒色系の宝石が数多と散りばめられ、上品な雰囲気を醸し出している。
「ええと、これは魔剣かな?」
「たぶんな」
エリザベスはそのナイフを取り出し、鞘の中身を確認しようとした。
「うーん、鞘から抜けないよ!」
力一杯引っ張っても、鞘にぴったりとくっついているかのようにびくともしない。
この魔剣を見た瞬間から、カントにはこうなることが目に見えていた。
「ああ、やっぱりか。エリザ、何か思い当たることはないか?」
「うーん。そういえば前にも同じようなことがあったね。そうよ!カントの腰にある「恥じらう乙女」!」
エリザベスはカントの腰にある炎の魔剣を指さした。
「うん。正解だけど、この魔剣、そんな名前があったのか?初耳だな」
「そう?名前ができたのは割と最近だけど、中央や学会雑誌ではこの名前で分からない人はいないみたいよ」
王国の機関たる王立魔術学園も王都エン・ナスタルに立地しているのだが、中央とは一体何なのか、カントはそんな話を聞いたことがない。
実のところ、魔剣の研究に関しては、ここ最近話題が絶えない。
というのも、恥じらう乙女の姿や性能が明らかになったことを筆頭に、魔剣に秘められた新たな固有魔法を発見するなど、カントが新しい発見を次々としたので、業界の学術論争は大いに紛糾していた。
これまでの定説が覆されたことで、学者たちが国を巻き込みながら熱い議論を交わしていたのであるが、カント自身はそんな状況になっていることをよく知らなかった。
「その話は後でゆっくり聞きたいな。それで話を戻すけど、この二本、デザインが凄く似てると思わないか?」
カントは、二つのナイフを並べてみせた。
恥じらう乙女が金を基調として暖色系の宝石で纏められているという差はあるものの、主たる大きな宝石の位置など基本的な意匠は全く同じと言って良いほど類似していた。
「確かにこれほど似ていてはこれが魔剣じゃないとは思えないね。カントなら同じように扱えるのかな」
「少し試してみようか」
カントがナイフを鞘から引き抜くと、エリザベスが力一杯引いても駄目だったことが嘘のように、あっさりとその刀身を露わにした。
「綺麗ね」
恥じらう乙女にも劣らぬ磨き抜かれた空色の刀身。
その美しさは二人を魅了した。
「この魔剣も俺を使用者として認めてくれたみたいだ」
魔剣を扱うことが出来る者は、魔剣を持つだけでその魔剣の性能が分かる。
いわゆる「魔剣が語る」という現象である。
「……ええと、何て言えばいいんだろう。この魔剣は氷属性の魔剣らしい」
「氷?ああ、つまり火属性ってこと?」
「いや、火じゃなくて氷なんだ……」
「ちょっとカントが何言ってるのかよくわからない」
「俺も何がどうなってるのかよくわからない」
「「……」」
魔法には火、水、木、金、土の五属性があり、物を凍らせるのは熱を司る火属性の領域であることは、学園の授業でも最初に習うようなごく基本的なことである。
それに、貴族の子供にとってそんなことは習わなくてもわかっているようなこの世界の常識である。
つまり、氷の固有魔法を持つ「氷の魔剣」は存在し得るとしても、それは火属性の魔剣と考えるのが、この世界の感覚で会った。
それなのに、この魔剣は己が氷属性の魔剣だと「語る」。
これが五大属性とは別の領域魔法が存在するということであれば、第六属性の発見として、二人も素直に受け止めることができたかもしれない。
しかし、それが氷属性では、元からある火属性と領域が被り、冗長的な存在となってしまう。
氷属性なんて何かの間違いだと思うのが自然であった。
「これも王都に帰ってから検証だな。考えてもどうにもならない気がする」
この旅が始まって検証事項がかなり増えたのではないかとカントは自覚する。
果たして王都でどの程度明らかになるだろうか。
「ええ、今は先に進もう」
この発見が後に現在の魔法体系自体を根本から見直すことになるのだが、今の二人はただただ混乱するばかりであった。




