クリスタルゴーレム
「硬そうだし、水で出来ているわけではなさそうだな。差詰め、結晶ゴーレムとでもいったところか」
「奴は洞窟の中か、そのごく近辺にしか出ないはずなんじゃがのう。本当に今日は不思議な日じゃ。あれは少々面倒じゃぞ。見ておれ」
里長は、結晶ゴーレムに急接近し、掌底を打ちつけた。
結晶ゴーレムは、この動きに反応して左手を前に出し、これを受け止めた。
(ガードしただと?)
他のゴーレムは防御姿勢を見せることは一切なかった。
そもそも、攻撃を避けようという意思が働いていないようである。
他方、このゴーレムは攻撃を受けとめようとする仕草を見せた。
このゴーレムが他種とは異質なものである証であった。
「どうじゃ?こいつは戦闘特化型じゃ。儂はもう少し速く動ける故、攻撃をこいつに当てることはできるのじゃが、打撃でダメージを与えられぬ」
カントが見る限り、里長はLv.2――即ち、この世界で上級鬼と呼ばれる存在である。
ウルアと言う例外はいたものの、腕力が強い鬼の中でも上位にいる者が物理攻撃でダメージを与えられない。
それは物理攻撃に対する完全耐性があるのと同義である。
(道理で魔法を使いたいと思うようになるわけだ)
「まあ、我々にも鬼道という手段があるがの。砲撃呪」
里長の掌から黄色い光の玉が飛び出し、結晶ゴーレムの腹部に当たった。
ゴーレムは後方へと吹っ飛ぶと、他のゴーレムの残骸によってできた山に激しく打ち付けられる。
これまでのゴーレムであれば、この時点で機能が停止するほどのダメージを受けているはずだが、結晶ゴーレムは何事も無かったかのように立ち上がった。
「砲撃呪の当たったところを見てみい」
「ひびが入ってるわ。効果があったということね」
アローラが言うとおり、ゴーレムの腹部には亀裂が入っていた。
次第にその亀裂は広がり、腹部表面の一部が崩れ落ちる。
「何だ、あれ」
「透明じゃない」
崩れ落ちた部分から覗かせていたのは土のように見えた。
「奴は土でできておる」
驚く二人の目が間違っていないことを里長は補足した。
「土って……、あいつはクリスタルで出来てるんじゃないんですかっ!?」
「それはお主が言い出したことじゃろう。我々は透明なのと呼んでおるからの」
完全な姿の結晶ゴーレムは、確かに後ろの景色が透けて見えていた。
それなのに、中にはただの土が詰まっている。
一体どういうことなのか分からず、カントは混乱した。
光学迷彩――カントは、元いた世界でこれに近い技術がそう呼ばれていたのを知っている。
カメラやディスプレイの技術を高度に応用して、その場に何もないように見せる技術である。
要は、表面で可視光を感知し、それを反対側で表示することで、その間に何もないように見せるというテクノロジーだ。
これをスーツに応用すれば事実上の透明人間になることが可能であることから、主に軍事利用を目的とした研究開発が進められている分野であった。
だが、カントのいた世界においては、静止している物体を完全に隠すだけでも困難で、動くもので実現するのは不可能にも近いレベルであると記憶している。
目の前にいるゴーレムは、そこにいることが容易にわかるので光学迷彩と呼べるものではない。
そうであっても、水晶のような質感を出した上で、反対側のものが透けて見えるようにしているということは同等の技術が使われているということを意味している。
(何がしたいんだろうな)
それがカントの率直な感想であった。
迷彩が目的でないとすれば、ゴーレムの表面は元の土のままでも戦闘に支障はない。
透明に見せている方法も、そうする理由もよくわからない上に、馬鹿みたいに頑丈に作られている戦闘用ゴーレム。
技術の無駄遣いを結集させたかのような人形である。
(お前の言ったとおり不思議なモンスターだったよ。ウルア)
カントは心の中でそう呟いた。




