群れの襲撃
「あいつらが初めて現れたのは確か青の月が夜を支配する頃じゃったから、半年ほど前のことじゃな。ある日、土でできた動く人形――お主らがゴーレムと呼ぶモンスターが、前触れもなくこの里に出よった」
青い月の支配する季節とは冬を指す。
月が四つあるこの世界の独特の言い回しである。
「前触れなく、ですか」
「じゃが、意外にも原因はすぐにわかった。そこにいる我が娘、チャキという名前なんじゃが、犯人はこやつじゃよ」
足元にいるその鬼の娘に視線を移すと、むにゃむにゃと口を動かした。
カントに気絶させられたチャキであったが、今は昼寝しているのと変わらないようだ。
「この子が何を?」
「チャキは普段村の近くで遊んでいるんじゃが、村の子たちと近隣を探検していたら洞窟を発見しての、その奥で宝箱を開けたら、周辺からゴーレムがわらわらと出てきたらしい」
「ああ、間違いなくこの子たちが原因ですね」
宝を持ち出そうとする賊を成敗するためのトラップが作動したというところだろうか。
(となると、その場所を調べてみないとな)
そんな所へ一人の鬼が駆け込んできた。
成年になる手前の若い男の鬼である。
「おばば、大変だ。奴らが大群で押し寄せてきやがった!ん、貴様らは何者だ?!」
「チャキが連れ込んでしまったんじゃがな、心配はいらぬ。どれどれ」
里長は、建物の外に出ると辺りを見回した。
カントとアローラもこれに続く。
「これが鬼の村か」
辺りには茅葺の家が何戸も立っていた。
気を失ったままこの里に運ばれたアローラは、この光景を目にするのが初めてということになる。
山奥で細々と暮らしているというイメージがあったが、百人以上住んでいそうな規模だ。
この大きさの里が今まで発見されなかったのは、地形によるところが大きいと思われた。
里には周囲に擁壁が設けられており、村への入口は一ヶ所のみとなっている。
その入口の向こうで蠢く何かが見えた。
ゴーレムの大群である。
入口では鬼の男たちがゴーレムを村に入れまいと必死に戦っていた。
「ふむ、今までこんなに大量に押し寄せることはなかったのじゃが……」
里長は、慌てることなくゆっくりと歩いて村の入口の方へと向かった。
カントたちは、初めて目にするゴーレムが多勢で襲ってきたという事態に直面し内心動揺していたが、里長は涼しい顔をしている。
目の前で、門番の男が槍をゴーレムの頭部に突き刺した。
すると、ゴーレムは動きを止め、その場に崩れ落ちる。
「儂も最初ゴーレムを見た時は恐怖を覚えたものじゃが、これが思いのほか弱くての。あれは頭か胴体の部分を破壊すれば簡単に倒せる」
あの土でできたゴーレムは動きが遅く、力も弱い。
鬼は例外なく人並み外れた身体能力を持っているため、ゴーレムが襲ってきても致命的な被害を受けることなく対処できたのであった。
「当初は村に入ってきてもそれほど気にせんかったのじゃが、ある晩寝込みを襲われての。ふと目を覚ますと至近距離にあいつがおって、咄嗟に全力で攻撃してしもうたのが運の尽きじゃ。我が家を含めて数戸が全壊、大きな被害を出してしもうた」
(確かに目覚めて目の前にいるのは怖いな。しかし、この村は案外平和なのかもしれん)
その一件以来、これ以上おばばが寝ぼけて村を壊しては困るということで、村の有志が集まって村の周りに擁壁を作り、若い衆が交替で入口を守るということになったらしい。
「しかし、今回は本当に数が多いのう。これでは壁も壊されてしまうやもしれん」
「よし、ここは俺の炎で」
「待って。こんなところで大規模な炎を出したらそれこそ大惨事よ」
カントは、炎の魔剣を使うようになってから特に火属性の魔法制御力の成長が著しい。
火属性の魔法を使えば、効率よくゴーレムを攻撃できるが、炎は攻撃範囲に留まらず、延焼というリスクがある。
森の中で使うには不向きな魔法であった。
「じゃあ凍らせるか。【フリーズ】二重詠唱!」
入口に押し寄せていたゴーレムの動きが止まった。
ゴーレムを構成する土の水分が凍り、体を固めたほか、地面の水分がゴーレムの足を地面に付けたまま凍結したことで足枷となったためである。
五つの魔法系統のうち、火属性は熱を司る系統だ。
熱を与えれば炎が出せるし、奪えばこのように凍らせることもできる。
森の中で火属性の魔法を使うなら、こちらの方が幾分勝手が良い。
固まったゴーレムを鬼たちが次々と破壊していった。
20170702誤字修正




