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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅱ 浄化の杖
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間幕 事後工作

 聖地ティシオネア――ここは交易の主要都市となっており、普段から多くの人が訪れるが、赤の満月が近づく頃、巡礼や観光などで一段と賑わいが増す。

 昨日伝説の杖がついに引き抜かれたとあって、杖が引き抜かれた中央広場は、深夜にも関わらず多くの人でごった返していた。


 そんな街の中心地から少し離れた建物の物陰に、一つの人影があった。

 巡礼用の白い衣に身を包んでおり、これだけであれば普通の巡礼客の少女に見えたはずだが、顔には仮面を着けており、怪しい雰囲気を醸し出していた。


「そろそろね」


 少女は周囲を見回して人がいないことを確認すると、背中に翼を発現させて天使としての姿を顕現した。

 足先が地面から離れ、小さな体はふわりと宙に浮く。

 翼は肩幅よりも狭く、背中に収まっていた。


「前から羽が見えた方がいいか」


 人は目にしないと信じない。

 少女は上官から聞いたその言葉を思い出し、背中の翼のサイズを一回り大きくすると、さらにそれを横に広げた。

 肩幅の倍ほどになったそれを自分の目で確認した後、ゆっくりと周りの建物の屋根と同じ高さまで上昇すると、神器イルレイジアがあった街の広場まで一気に飛び立った。

 音もなく、移動速度は音速を超える。

 このため、人間には天使が突然上空に現れたように感じられるはずである。


 少女は、頭上に光輪を出して自分の存在を下にいる人間にアピールすると、皆が空を見上げるのを待った。

 そのうち空を指さす者が、何人か現れ、大勢の人が空を見上げるようになった。


 地上から見上げると見えなくてもいいものまで見えてしまうのではないかと、少女は巡礼用の衣を選んだことを今になって少し後悔した。

 少女はこのように大勢の人前に顕現する任務は初めてであり、舞い上がってしまって事前に気が付かなかったのだと冷静に分析するが、時すでに遅し。

 今更ここで引き返すわけにもいかない。

 祝福の力によって声を増幅させて張り上げると、少女の声は、街中に響きわたった。


「私は、忠実なる神の使徒。杖は天へと戻された。今をもって、神はこの地での約束を果たされたことを宣言する。この地で制限した水と食べ物は、以後自由に口にしてよい」


 地上の者が平伏している間に、少女はその場から素早く立ち去った。



  ※  ※  ※  ※  



「ありがとう。期待どおりだったわ」


 人気のない場所に降り立った仮面の天使に声を掛けるもう一人の女の姿があった。


「私には、王都でも安全宣言を出す仕事が残っているわ。すぐに終わるだろうけど。貴女はこれからどうするの?」


 感情が垣間見えない平坦な口調であった。


「また旅をするわ。天界には戻りたくないもの。ところであの子のことだけど、この世界の人間じゃないでしょう?」


「詳しいことは言わないけど、確かにそのとおりね。」


 話すことができないことは分かってると、女は無言のまま手を振った。


「少なくともこの世界で貴女を人前で解放できたのは彼ぐらいのものよ」


「へえ?アンダーには沢山いるような言い方ね。あの子には感謝してるわ」


「そうそう、この地を旅立つ前に、イルレイジア、貴女に彼のことで一つ頼みたいことがあるのよ。実はね――」




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