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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅱ 浄化の杖
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奇蹟の力①

「それはそうと、どうやって汚染を取り除いたのか、まだその答えを教えてもらってないぞ」


「あらここまで話を聞いても、まだわからないなんて。ヒントはね、魔金属は簡単に作れるって話よ」


「……簡単に魔金属を作れない俺にとって、それはヒントになってるのか?」


 カントがイライザの目を凝視すると、イライザは目を逸らした。


「仕方ないわねえ。それじゃあ貴方が私を開放してくれたら教えてあげるわ」


 イライザはにんまりと笑って、またぐびりとエールを飲み干した。

 カントの記憶が確かなら、もう十二杯目である。


「それじゃあ頑張って杖を抜かないとな。そういえば抽選どうなるかな。…………っておい、俺の印が消えてるんだが」


 カントが手の甲を確かめると、大聖堂で抽選登録の証として刻印された印は、今は見る影もなく、きれいさっぱり消えてしまっていた。

 確か店に入った時にはあったような気がするが、ここで食事をしている間に消えてしまったらしい。


「……私のも消えてるわ」


 アイリスの手の印もいつの間にか消えており、二人が抽選に漏れてしまったことを示していた。

 アイリスは、残念そうにため息をついた。


「あら、そんなに一番乗りになりたかったの?」


 イライザは、二人の様子を見てそんな疑問を投げかけた。


「一番最初が有利って聞いたから」


「それ、嘘よ」


 イライザは真顔でポロリと溢した。


「「何だって!?」」


(伝承がほぼ茶番だったし、宿屋のオヤジの情報を鵜呑みにしていたこと自体が間違いだったかもな)


「実は数年前の時点で浄化は完了してるのよね。だからそれなりの力さえあれば抜ける状態にあるのよ」


 この数年の間にも多くの人が杖を引き抜こうとしたが、抜けなかった。

 これは単に力が足りなかっただけらしい。


(なんか思ってたのと違った)


 物語によくある伝説の剣は、勇者を選んですぽりと抜けるものだ。

 カントの想像では、この杖もそんな感じでいつか抜けるものだと思い込んでいたのだが、杖を抜くために必要なものは「奇蹟の力(物理)」、要は馬鹿力であり、想像と現実とは大きく乖離していたのであった。


「貴方には、引き抜くとっておきの秘訣を教えてあげるわ」



  ※  ※  ※  ※  


 

 翌日、杖のある広場には多くの人々が集まっていた。


「これより杖の公開を行います」


 年配の神官がそう宣言する。

 普段、杖のカバーとして使われている石の箱や石像などは事前に撤去され、代わりに杖は布で覆われていた。

 神官が布を除去すると、そこには小さな金属の棒が現れた。

 除幕とともに露わとなった浄化の杖を目にすると、群衆からは歓声が上がった。


「イライザの奴、ちゃんと戻ったんだな」


「当たり前でしょ。戻らなかったらそれこそ大騒ぎよ」


 周りの人間とは違う感想を述べる二人の子供。

 その会話を気に留める者もいるはずがなく、儀式は例年どおり粛々と進められていった。


「さて、今年の栄えある先抜者せんばつしゃに選ばれたのは、この者である!」


 神官の紹介を経て、一人の男が杖の前へと歩み寄った。

 胸板は筋肉隆々で、腕は丸太のように太い。

 男はにこやかに笑っており、真っ白な歯が朝日に反射して輝いていた。


「イライザのいうとおり、ガチの力自慢大会だったんだな」


「あの人はなぜ上半身裸なのかしら。キモい以外の感想が見つからないわ」


 観衆の歓声とは別に、好意的ではない冷めた感想が漏れたのであった。


「【フィジカル・ストレングス】二重詠唱ダブレット!」


 筋肉男は、筋力強化魔法を唱えた。


「あの筋力で二重詠唱か。これは期待できるな」


 どこかからそんな声が聞こえてくる。

 神官と目を合わせた後、男は杖を握り、力一杯引っ張った。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」


 男の顔は真っ赤になり、全力で引き抜こうとしている様子が窺える。

 しかし、杖はびくともしない。

 男は手汗をかいたのか、そのうち手だけがずるりと滑って後ろに尻餅をついた。


「そこまで!」


 神官が引き抜きの失敗を宣言した。

 男は、汗でびっしょりとなった顔を歪めて悔しそうな表情を浮かべる。


「今年も駄目だったか」


「また来年だな」


 そんな落胆の声がぽつぽつと聞こえ、恒例の行事は終了した。


 この後は、並べば順番に杖に触れることができる。

 ただ杖に触れたいだけの信徒もいれば、全力で杖を引き抜こうとする者もいる。

 今年も例年どおり何万人もの人々が杖に触れて公開の期間が経過していく――この場にいる殆どの者がそう思っていた。




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