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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅱ 浄化の杖
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イライザの追憶①


「かんぱーい!」


「「……」」


 イライザが連れてきたのは人気のない場所ではなく、何故か飲食店だった。

 中央広場より人が少ないのは事実だが、ここも多くの客が利用していて賑やかだ。


「ぷはー!やっぱりモブ麦のエールは最高ね。貴方たちが子供でまだ一緒に飲めないのが残念だわ」


 イライザは、あっという間にジョッキを空けてお代わりの注文をした。


「さて、お前の目的は何だ?何故俺たちの前に現れた。あとこの場所を選んだ理由も聞きたいところだな」


 カントはイライザが話を進めようとしないので痺れを切らし、疑問を投げかけた。


「質問が多いのね」


 イライザは微笑んだ。


「まず、この店に来た理由だけど、このエールが飲みたかったからよ。普段はモブ麦が食べられないから、これが飲めるのはこの時期だけで、今日が解禁日なの」


 聖典では、神との約束でモブ麦を食べてはならないとされており、モブ麦から作られるエールもその例外ではない。

 だが、この聖地ティシオネアでは、例外的にこの期間だけモブ麦を口にすることが許されているのである。


「質問に答えるために、順を追って説明していくわね。察しがついてるかもしれないけど私が浄化の杖なの。正確に言うと、杖に宿っている人格と言ったところかしら」


「そうなのか!俺は、杖の使用者かと思ってたんだが、そんなことがあるんだな」


「本当の名前は、癒しの杖イルレイジアなんだけど、何故か正しい名前は歴史に残らなかったわね。昔、私がここに初めて訪れた時、この街は荒廃した小さな村だったわ」


 イライザは、昔の話を語り始めた。



  ※  ※  ※  ※  



 当てのない旅をしていた私は、ある日寂れた村に辿り着いた。


「今日はここに泊まるとするか」


 人の形をしていて人ではない私は、不眠不休に近い形で移動することもできるのだが、人間としての旅に拘っていた。

 都合のいいことに、村には無人の教会があった。

 教会は外も中もかなり傷んでいた。

 この村の者は信仰を捨ててしまったようである。

 むやみに住人と接触しなくていいので、私にとっては都合が良かった。


 ボロ布に包まって横になっていると、入口の扉が開く音がした。

 一応利用者がいたようである。

 小さな誤算に私は内心舌打ちをしながら、警戒しつつ入ってきた者の方へと注意を向けた。

 それはやせ細った少女であった。


「ひっ」


 少女は私の存在に驚き、二歩後ろへと後退した。


「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんだけど。この教会が空き家のようだったから、今晩はここに泊まろうと思っていたの。貴女はここの村の人?」


 私は、社交的な笑顔を見せつつも、少女を注意深く観察した。

 少女はただ痩せているだけではなく、妙に顔色が悪い。

 何か患っているのではないかと思われた。


「私はティシオン。この村に住んでいる者です。貴女は?」


「私の名前は、ええと……イル……イライザでいいわ」


 本当の名を教えない方がいいと考え、咄嗟に嘘をついた。

 ティシオンは偽名と気が付いたようだが、どうせ今だけの付き合いである。

 信用されまいがどうでもいい。

 

 ただ、ティシオンの体調のことが気になったので、聞いてみることにした。


「貴女顔色が悪いわよ。大丈夫?」


 すると、ティシオンはこの村には呪いの病があり、私も早めに立ち去るべきだと警告した。

 この村の者は、皆若くして亡くなっているようで、周囲の地域からも見捨てられているようだ。

 話を聞いているうちに、一つ思い当たる節があった。

 この村もとんだ不幸に巻き込まれたのだと同情するが、助けてやる義理もない。

 ティシオンは、救済を求めて神に祈っているようだが、私はそういうのが一番嫌いだ。


「仮に人間よりも高位なる存在があったとして、それに人間が助けてくださいと祈れば助けてくれるのかしら?」


 私は、ティシオンに意地悪な質問をしてみた。

 多くの人間は苦しい時に、神に助けを求める。

 求めに応じて逐一救済するような神がいれば、それこそ立場が逆ではないか。

 だから私はこのような御都合主義を嫌悪していたのだ。

 ティシオンも私の意図を少しは理解したようで、絶句していたのだが、思わぬ答えが返ってきた。


「私は好きで祈ってるだけなんです」


 この少女が、信仰心を昇華させてこの発言をしたとは思えないが、私は見返りを求めない発言に感心した。

 多くの人間は、よこしまな妄想を抱き、見返りを前提とした一方的な思いを寄せたり、見返りがないからと信仰を捨てたりする。

 その末に、私は多くの文明が滅ぼされるのを、天使の道具として見てきた。

 私が人類に介在するのはそんな場面ばかりだったことから、人間はそのようなものだという思い込みがあったのかもしれない。

 だが、ティシオンの言葉を聞いて少し考えが変わった。

 時には好意で手を差し伸べるべき人間がいても良いのではないかと。


 神が人間を完全に滅ぼさないのは、何かを期待しているからなのかもしれない。

 根拠はないが、ふと、そう思ったのだった。


20170424タイトル変更、一部修正

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