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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅰ 前半戦
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前回優勝者

 闘技場では、男女が熱戦を繰り広げていた。

 アイリスは、父親のアイザックがそろそろ会場に到着する頃だと席を立った。

 生憎、ヒッグスとマーヤも試合準備で席を外しているため、カントはジェシカと肩を並べて座る羽目になっていた。


「あの二人のどちらかがカントの次の対戦者よ。男の人の方がデクトール。前回の優勝者ね」


「ということは騎士長の称号持ちか。気の毒に」


 羨望の眼差しでデクトールを眺めるジェシカとは対照的に、カントは哀れみの目で彼を見つめていた。


「気の毒ってどういう意味かしら。優勝者に対して失礼よ」


 この騎士大会は参加人数や出場選手のレベルもそれなりのものであり、勝ち残ることは、単純に何か功績を上げて称号を得ることよりも難しい。

 従って、この大会での優勝は貴族の間でも誉れ高き栄光なのである。

 どういう思考回路があれば、カントがそんな結論に至るのか、ジェシカは理解できず呆れた顔をして見せた。


 騎士長は騎士大会優勝者のみに与えられる名誉称号である。

 成年、未成年を問わず騎士大会への出場義務がある。

 しかも名誉称号は、譲渡できないため、カントからしてみれば大会への出場を永久に課される呪いのような称号であった。


 余談ではあるがカントも王から出場義務が課されている。

 それに有効期限がないことに本人はまだ気が付いていなかった。


「あいつが優勝候補ってことは、次の試合で勝てたら俺も優勝候補になれるな」


「その自信は、何処から湧いてくるのかしら……ところで、カントはいつ騎士になったの?」


 このことについては、ジェシカも前から気になっていたようだが、二人きりで話す機会を得てようやく聞けた形だ。


「つい最近だな。功績を上げたのは入学の少し前」


「私もそれくらいできたら……」


 ジェシカはぼそぼそと呟いたが、戦闘の衝撃音でかき消された。


「女の方もかなり強い気がするな。魔法の使い方に無駄がないというか……。防御強化系の魔法を使ってるようだけど仕掛けが全然わからない」


「確かにそうね。ええとイライザ・ティシオン……聞いたことはないわね」


「無名でもかなり実戦慣れしてるみたいだな」


 魔法のオン・オフが速すぎるのか、どのような魔法をどういった方法で展開しているのか見ているだけではよく分からない。

 呪文を唱えている素振りがないことから、少なくとも呪文以外の方法で魔法を発動させていることは把握できた。


 二人の戦いは一見互角に見えるが、魔力消費に大きな差がある。

 魔力の枯渇によりデクトールに強烈な一撃が入ったようだ。

 試合継続不可能とみなされ、試合終了のゴングが鳴った。


「優勝候補がここで敗退か。大番狂わせだな。それにしてもあのイライザとかいう選手の魔法の感じ、前に何か似たようなものがあった気がするんだけど何だったか……」


「次の試合の対策になればと思ったんだけど、よくわからないままだったわね」


「へえ、俺を気遣ってくれてたのか。珍しいこともあるもんだ」


 それを聞いて頭に血が上ったのか、ジェシカの顔が赤くなった。


(こいつ、顔に出やすいから本当にからかいがいあるよな)


「貴方を倒すのは、この私。それまでに負けてもらっては困りますから」


「俺を倒す?毒でも盛るつもりかよ」


 カントはカラカラと笑いながら冗談交じりにからかってみせる。


「……そんなことするはずないでしょう」


 一方のジェシカはそれを冗談と受け止めなかったようで、表情が般若の面のようになる。


(流石に言い過ぎたな)


「おっと、そろそろ時間だな。次の試合の準備に行ってくる」


 カントは立ち上がり、逃げるようにその場を立ち去った。


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