狙われた公爵令嬢
寮の外に出て、鬼たちを追いかけようとすると、地べたに座りこんでいる二人の女子生徒がいた。
二人とも青い顔をしていたのでカントは声を掛けた。
「おい、大丈夫か?」
「……大丈夫です。さっき鬼の集団が来て囲まれてしまって」
きっと怖い思いをしたのだろう。
答えた女子生徒の手は震えていた。
座り込んでしまっているのは腰でも抜けてしまったということだろうか。
もう一人は放心状態であった。
「何かされたの?」
「魔剣はどこにあるんだと聞かれました。教えなければ殺すと……」
この学園に魔剣があるということ知っていたとしても、何処にあるかまではわからない。
広大な敷地を持つ学園内を隅々まで探すわけにもいかないため、情報を集めようとしたということであろう。
「それで教えたのか?」
「雷切刀は、卒業生が持っているのでこの学園にはないと答えました」
雷切刀の使用が認められた、前回の魔闘術大会の優勝者は、この前学園を卒業したため学園内にはいないらしい。
(良かった。学園内で大惨事という結末はなさそうで何よりだ)
カントは安心して胸を撫でおろしたが、話にはまだ続きがあった。
「でも、タイタニア公爵令嬢も魔剣を持っていますと……部屋の場所を教えました」
カントは教える必要はなかったのではないかと言いたかったが、今更この生徒たちを問い詰めても仕方がない。
ジェシカの身に危険が迫っていると判明し、二人はジェシカの部屋へと向かった。
ジェシカの部屋には、派閥の構成員とみられる何人かの生徒がいたが、いずれも顔面蒼白であった。
その様子から、ここにも鬼たちが来たことは明白であった。
部屋は荒らされた様子もなく、ケガ人も出ていないようであったが、部屋の窓ガラスが割れていた。
「鬼たちが来たんだろ?ジェシカはどこだ?」
「ジェシカ様なら、演習場で鍛錬中よ。魔剣もそこにあると教えてしまったわ」
カントの問いかけに、ナターシャは答えた。
鬼を見てショックを受けているのか、素直に受け答えをしてくれた。
「ジェシカは一人なのか?」
「ええ」
(無理に抵抗しなければいいんだが)
これまでの状況から、こちらから危害を加えようとしなければ鬼たちも何もしないようであるが、魔剣を奪われそうになればジェシカが抵抗しそうなことは容易に想像できた。
「カント、急ぎましょう!」
「おう、行くぞ!」
※ ※ ※ ※
「サンダー・メガボルト!」
ジェシカの声だけが虚しく響いた。
詠唱したものの魔法が発動する気配はない。
「なぜあの男にできて私には……」
タイタニア公爵家に伝わる魔剣雷の閃光――これまでずっと固有魔法が一つだけと信じられてきたこの魔剣は、つい最近ある少年によって新たな力を持つことがわかった。
その少年は公爵家の人間ではない。
しかも、貴族でもない平民の少年である。
ジェシカのプライドは大きく傷ついた。
ジェシカの父親であるタイタニア公爵も、この件について王から連絡があったらしく、ジェシカ同様威厳が損なわれたようである。
その怒りの矛先はジェシカに向けられた。
ジェシカのもとへと送りつけられたタイタニア公爵の手紙は、怒りに震えた文字で綴られ、ジェシカを叱責する言葉がいくつも並べられていた。
このまま、カントに負けたままでいるわけにはいかない。
ジェシカも、カントが使った固有魔法を使おうとするが、雷の閃光は全く反応してくれなかった。
二年ほど前にこの剣を初めて手にしたとき、剣はジェシカに自らの力を語りかけてきた。
「お前は、私を認めてくれてはいなかったのかしら?」
当然答えは返ってこない。
今までこの魔剣を友人のように信頼してきたというのに、今回のことで裏切られたような気分になっていた。
「お前がジェシカか?」
振り返ると六人の人影があった。
いずれも頭に角があり、一目で鬼とわかった。
鬼の一人は、ジェシカの剣に目をやった。
「それが魔剣だな?こちらに渡して貰おうか」
鬼は渡せと簡単に言うが、そんなことができるはずがない。
公爵家に伝わる魔剣を奪われたとあっては、父親から勘当されてしまってもおかしくない。
ジェシカは、一人で鬼六人を相手にするのは無理だと感じていたが、剣を奪われるわけにもいかず、死を覚悟して戦うことを選ばざるを得なかった。
「【アクセル】二重詠唱!【フィジカル・ストレングス】二重詠唱!【フィジック・インフォース】!【エアデプレス】二重詠唱!【サンダー・アーマー】!……」
魔法の戦闘において必要となる魔法を詠唱し、能力の強化を図る。
一気に片をつけなければ勝機は全くないからである。
次々と詠唱される強化魔法に、紫の肌の色をした鬼は笑みを浮かべた。
「こんな小娘がこれほどの魔法を使えるとは、少しは楽しめそうだな。俺が相手をしてやろう」




