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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第1編 魔剣との出会い
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授業初日③

 演習場所を特殊演習施設へと移すことになったため、カントたちは歩いて移動することになった。

 ペアとなったジェシカとはずっと沈黙が続いていた。


「なあ、俺はお前に話かけていいのか?」


 ようやくその沈黙を破り、カントはジェシカに話しかけた。


「当然でしょう?いつ駄目だと言ったのかしら?」


 不機嫌そうではあるものの、ジェシカはカントの質問に答えた。


「いや、「平民無勢がこの公爵令嬢であるジェシカ様に話しかけることなど許されません」とか言いそうだったからさ」


「さ、流石にそこまでは言いません。同じ学友ですから。話をしなければ演習にも支障が出かねませんし」


 「そこまでは」という部分が若干気にはなったが、なんとかコミュニケーションが取れることが確認でき、カントは一安心したのであった。


「それでも貴方にお前呼ばわりされるのは気に入らないわね。なんとかならないのかしら?」


 ジェシカに対しては、カントはあまり良い印象がないが、それでもいきなりお前と呼ぶのは確かに失礼であったとカントも思った。


「それじゃあ、ジェシカって呼んでいいか?」


「それじゃあ私もカントと呼ぶことにしますわ」


「ああ、それでいいよ」


 アイリスは、その様子を後ろから見ていて微笑んだ。

 一時的ではあるが、二人の溝は少し埋まったように見えたのであった。



  ※  ※  ※  ※  



(失敗したかもしれないわね)


 学園長であるアリッサは、カントたちの様子を見てそう思っていた。

 アリッサは、演習のペアを総合魔力順に振り分けただけであるが、これがいけなかった。

 まだ、授業初日であるというのに、カントとジェシカの間にはこれまでに何かがあったようである。

 二人はペアに指定されたというのに、一向に会話しようとしなかった。


 内心はらはらしながら二人を観察していると、ようやくカントがジェシカに話しかけた。

 アリッサは、やっと会話ができるようになってほっと胸を撫でおろした。


 一行は、特殊演習施設へと到着した。

 この施設は、上級魔法に対応した設計となっており、本来は上級魔法の演習で使用するのだが、今回は大事を取るべきだというアリッサの思い付きで急遽場所を変更したのである。


「さて、この施設には、魔法の的として向こう側に像が置いてあるの。かなり頑丈に作ってあるし、再生機能もあるからどんどん当てても大丈夫よ。生憎、同じサーベルが3本しかないから、ペアで交互に使うこと。カント・ジェシカペアはこのレーンを使ってちょうだい」


 さりげなく、カントを一番耐久力がある像が設置してあるレーンへと誘導する。

 これである程度は、不測の事態が起こっても大丈夫なはずである。


「ジェシカも魔力制御できなかったんだな」


 いよいよ的当てが始まると思っていたら、カントはそんなことを言い出した。


「なっ・・・」


 ジェシカは言葉を詰まらせる。


「最初見た時は、アイリスと違って魔法を使いこなせている印象があったんだけど、魔剣の力だったんだな」


 どうやらこの黒髪の少年は、以前ジェシカが魔剣の固有魔法を使うところを見たことがあるようだった。


「確かに完全ではありませんが、アイリスさんよりはできます!貴方は失礼な人ですね!」


 カントは思ったことを言っているだけのようであるが、ジェシカのプライドは傷つけられたようである。


「ごめん、ごめん」


 カントは詫びるが、再び二人の間には、険悪な空気が漂い始めた。

 

(やはりペアの相手はアイリスにしておくべきだった)


 アリッサは後悔した。


 ジェシカは、レーンの立ち位置に移動し、手に持った魔剣を鞘から抜いた。

 剣身は、演習用に貸し出したサーベルよりも細いフルーレ、それを構成するのは淡黄色の美しい輝きを放つ魔金属の一種、オリハルコンである。

 その魔剣は雷の閃光サンダー・ライトニングと呼ばれているものだ。

 魔法武器は、その使い手を選ぶというが、この剣はタイタニア家のごく限られた者しか扱うことができない代物である。

 現タイタニア領当主ヨハン・デューク・ド・タイタニアは、幼い頃より優秀ともてはやされていたが、成人となってもこの剣を扱うことができず、ずっと当主となれなかったことは、アリッサの記憶にも新しい。

 その娘のジェシカが、この剣を扱えることが判明したため、ヨハンは公爵としてタイタニア領を継ぐことが辛くも許されたが、それもつい最近のことである。


「サンダー・ボルト!」


 ジェシカは、目の前にある的の像めがけて、固有魔法を放った。

 それは、見事像に命中し、当たった場所には焦げ痕が残った。

 この魔剣の固有魔法はそれほど強力なものではない。

 しかし、それだけが魔剣の本領ではない。

 この場合、固有魔法を発動できているという事実こそが、魔剣に選ばれているということを証明するために重要なのである。


 当のジェシカは、僅か8歳にしてこの剣を扱えることがわかったという。

 類まれなる才能を持ち、それを一族に伝わる魔剣にも認められた。

 その期待を一身に浴び、彼女はそれに応えようとしているに違いない。

 彼女が感じている重圧は、アリッサが想像する以上のものがあるのかもしれない。


「おお、凄いな!」


 アリッサが、魔剣にまつわる思いを巡らせていると、ジェシカを褒めるカントの声が聞こえた。


「ま、まあね」


 ジェシカも褒められて満更でもない態度を示している。


「本当に凄い魔剣だな!それは!」


(そうじゃない)


 アリッサは心の中でそう突っ込んだ。

 ここで褒めるべきは剣ではなく、人である。

 案の定、嬉々としていたジェシカの表情は、落胆したものへと変わり、次第に赤くなり始めた。

 女心がわからない男だと言いたいところだが、10歳の少年にそれを言うのは酷というものであろう。


「凄くて当然よ。この、ま、け、ん、はね!」


 人間関係、特に男女の仲は寄せては引くさざ波のようである。

 アリッサは、そんなことをしみじみと実感していたのであった。


 


次回、「授業初日④」

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