13、ベアーとヒューマンがチキンの仲間に加わった
ぴくぴくと気絶しているチンピラ。
俺はこいつの服装を見て、とある脅威を予想した。
さながらヒヨコ鑑別士である。
もしかすれば、このチンピラはとある組織に属していて、その命令で俺を襲ったのかもしれないというのが俺の予想だ。
ひとまず予想は予想。確定ではない。
しかし俺は、この予想を確信に変える術を持っている。
ヒヨコテイムだ。
元人間として人間をテイムするのは気が進まないが、この際はしょうがない。オケオケ。
「テイム!」
俺の口から噴射された青白いビームがチンピラに直撃。
ビビビっと体が揺れたのを確認すると、今度は口から水を噴射する。
口からビームやら水を噴射する俺だが、断じて化け物ではない。ヒヨコだ。
「ウォーター!」
「冷てえええええええええ!?」
よっしゃ。チンピラが起きた。
よしよし、これで後は尋問して洗いざらい吐いて貰うだけだ。
ジータが前に言ってた。
テイムとは服従を強制させる魔法だと。
ならばこのチンピラは、俺の頼みごとを断れないはず。
「起きた? 気分どう?」
「首と頬が痛いです」
「それはごめん」
「いえいえ」
よしよしよし。
効果はテキメンの様だ。
ヒヨコの言語でもオーケーのご様子。
俺が聞きたいのは、予想が当たっているかどうかだ。
それと、クユユを狙っているかどうか。
あの子はまだ幼い子ども。
事件に巻き込む訳にはいかない。
まあ俺は赤子なんですけど。
「お前はどうして俺を襲ってきたんだ。だれかの命令か?」
「はい、ロウフェン様とクリステルの野朗の命令です。あと、命令は襲えではない、捕獲して来いって命令です。そう言われました」
「そっか、あと、俺の飼い主にも危害を加えるつもりなのか、お前らは」
「隙が出来れば攫って来いって命令です。そうすれば、ヒヨコも竜も猫も、誰もロウフェン様とクリステルの野朗に、逆らえなくなるから」
やっべ。
俺の予想的中じゃん。
確かに今、ジータも俺もクユユの元に居ない。
いや、待て。
それだとしたら、何で前回、森に言った時にクユユを攫わなかった? キノコ狩りに行った時もクユユは無事だった。
「おい、それだったら何で前回の時、俺の飼い主を攫わなかったんだ」
「あくまで隙が出来たら、前回の時はすぐにお前らが戻ってきました。だから無理でした。だが今回は、足止めは成功してます。俺のやる事は、『足止め』……あわよくば『捕獲』ですから」
まじかい。
確かに森に来てからの時間は結構経っている。
それだとしたら、確実にまずい。
「おい! お前らの頭はどこに居る!」
「俺も知らねぇです。下っ端なもんで。だが、猫の方がやばい。奴はにおいを覚えている、そうクリステルの野朗が言ってました」
「そうかい分かった。サンキュー、って猫ってなんだ?」
そういえばこのチンピラ。
さっきも猫って言ってたな。
いったいなんなんだ?
「猫って、誰の事だよ」
「魔物、チャーハンです。あいつがいつも邪魔するって、クリステルの野朗がぼやいてました」
「え? チャーハン?」
チャーハンってあいつか?
クユユの元使役獣だったよな?
なんでだよ、あいつ死んだ筈だろ。
そこで、俺はジータの言葉を思い出した。
(この世に強い未練を残して死没した生物が、制約を持って現世に具現化した物 )
いまいち意味が分からんが、ようは蘇るって事だろ? 死から。それを魔物って呼ぶらしい。
チンピラはチャーハンを魔物って言ってた。そうか、それってそういう事になるのか。
だったらチャーハンは何してるんだ。
なんでクユユに会ってやらない。
いや、今はそんな事どうでもいい。
クユユ。クユユが危ない。
あの子、ちょっとアホっ気あるし。
ひゃあああとか言ってすぐに攫われそう。
「分かった、ありがとうチンピラ。じゃあな!」
「お達者で!」
俺はチンピラに礼を言ってその場を後にする。
向かうはクシナの元へだ。クシナには悪いがインコ探索は中止だ。
そう思ってそそくさクシナの元へ辿り着くと、俺たちを襲ってたベアー達がクシナに跪いていた。
どういうことだってばよ。
「どういうことだってばよ」
「どうもこうも、訳はこのクマ達から聞けばいいじゃない。そのほうが早いよ」
クシナがそう言った直後、頭を伏せていたクマ達の視線は俺に向けられる。いや、怖いし。正直言ってやめてほしい。
蛇に睨まれたヒヨコとはまさにこのこと。
俺が動けないでいると、一匹のでかいクマが俺の前に歩いてくる。
「何ですか?」
「我は熊王族の長、シルジアだ。聞けばお主が人間による絶対服従を看破し、我らを解放してくれたようだな」
「いや、まあ、うん」
「故に感謝を言い渡す! 我らは人間が扱う魔法に操られていた、そこから解放してくれたお主らに我らは何を言い渡せば良い……感謝だ!」
そうか、テイムとはそういう魔法なのか。
飼い主をぶっ飛ばせばテイムが解除されることも……あるのか?
違うな。
飼い主をテイムしたことで、支配権が俺に移ったのだろう。
そして俺はこのクマ達を服従させる気は一切ない。だから、開放されたのか。
そうあれこれ考えていると、クマ達がベアベア騒ぎ始めた。
「確かピヨちゃんという名前だったな。礼がしたい。どうかこの不甲斐ない我らに礼をさせてくれ」
「お前らがそれでいいならいいんだけどよ。俺達ってお前らの仲間、数匹殺しちまってんだぞ? 怒るべきだろそこ」
「だから言った、不甲斐ない我らと。その原因は、人間に操られてしまった我らのこの弱さと、ピヨちゃん達に襲い掛かった我らの責任だ。恩人に罪を擦り付けるような真似はしない」
「そうですぜピヨちゃんの旦那!」
「ベアアアアアアアアアア!」
「ベアアアアアアアアアア!」
「ベアアアアアアアアアア!」
そう言って再びベアベア叫びだすクマ達。
俺が困っていると、クシナがひょいっと俺をつまみあげて耳打ちして来た。
「礼がしたいって言ってる相手を無碍にするのもアレでしょ? 何かしたいって言うならさせてあげればいいじゃない、ピヨちゃんにデメリットは無い訳だし」
「それもそうか、なら、頼みたい事があるんだ」
俺がピヨっと強めに鳴くと、ベアベアうるさいクマ達が静かになり、視線が俺へと集まった。
頼みたいのは一つ、手助けだ。
「お前らを操ってた人間の大将が、俺の飼い主を襲おうとしてるんだ。俺はそれを阻止したい、その手助けがしてほしい」
「なんと、我らだけでは飽き足らず同種にまで手を出すとは野蛮な人間だ。して我らは何をしたらいい?」
「その大将って奴がどこに居るのか分からない。探して欲しいんだ」
「聞いたか野朗共! 恩人の飼い主に危険が迫ってる! 汚い人間を探し出せええええええええええ!」
「ベアアアアアアアアアアアア!」
「ベアアアアアアアアアアアア!」
「ベアアアアアアアアアアアア!」
雄叫びを上げながらクマ達は森の中に姿を消した。
俺はその内の一匹、長と言ったシルジアを呼び止める。
「待ってくれシルジア、お前は残って欲しい」
「むむむ? どうしてだ?」
「シルジアはクシナと一緒にインコを探してくれ」
「了解した」
そう、これはクシナの頼みをないがしろにした俺の責任。
その責任をシルジアに擦り付ける形になってしまうが、今は俺が泥を被ろうとも関係ない。クユユが危ないんだ。なりふりかまっていられない。
ただ、クシナは納得がいかないみたいだ。
それもそうか。
「ねぇピヨちゃん、いったいどうしたの? 私との約束を破るなんて」
「本当にごめん、クシナ。さっき言ったとおり、俺の飼い主のクユユって奴の身に危険がせまってる」
「へぇ、随分と飼い主思いの使役獣じゃない」
クシナが怪訝な表情で俺の目を見つめてくる。
いや、ホントごめん。
倍にして返しますから。
そうだ、インコを一緒に探すという約束を破ってしまったのは俺が悪い。クシナが不機嫌になるのも無理は無い。
そう思っていたのだが、クシナはふと相好を崩した。
「ふふふ、そういうの私、嫌いじゃないわ。約束はお互いの頼みを聞くって条件で成立したわよね?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「ピヨちゃんの頼みはコレって事で、私の頼みは後回しにしたげる」
「いいのか?」
「うん、いいわよ。このクシナ・レイ。全力を持って、あなたの飼い主であるクユユって子を守ってあげますです」
「悪い、恩にきる」
俺は手(手羽先)で、クシナは指先で握手する。
クシナには借りができたな、絶対に返すよ。
その握手に、クマのシルジアが合わせてきた。
「双方、意見が合致したようだな。我もそれに加えて貰おうか」
デコピンの化け物クシナと、大量のクマが仲間に加わった。
これでクユユを守れそうだ。