第14部:おいさっきからセクハラしかしてねーぞ
「そういや、そんなことがあったっけか」
そこで冴木が口を挟む。
「冴木先輩は、その辺は知ってるんですか?」
「いいや。俺はただ、嵯峨根と駄弁ってただけだからな。何がどうやってどうなったかなんて、知らんさ」
「今とそんなに変わらないんですね」
「そりゃぁ、な。俺としても、大して興味をそそられるようなモノでもなかったし、ほら、アレだ、訊くだけ野暮ってヤツだったんだ、きっと」
何でもないかのように言う冴木は、しかしそこで神妙な顔つきになり、
「あの頃は、嵯峨根も楽しそうだったんだけどな」
「……は?」
ふいに言われたその言葉に、今度は私が眉をひそめた。
「俺はただ眺めてただけだったが、あの時は、もっと素直だったっつーか、その辺が分かりやすかった気がする」
「ただの、若気の至りってやつじゃないのか?」
言ってる私にも、自覚が無かったから断定はできないが。
「お前まだそう年食ってないだろ……いや、そうじゃなくて……何て言ったらいいんだろうな」
「自分でも分からないのかよ」
「いや……こう、喉元まで出かかってるんだが……」
うんうんと唸りそうな微妙な表情を数秒ほどした後、思い直したようにへらへらとした笑みに戻り、
「まあ、いいか」
「いいのかよ」
「俺自身が分からないんだから、どうでもいいさ」
それよりも、と冴木は言う。
「あの連中は、子孫繁栄と下半身の話にしか興味が無いのか? 俺たちの話なんか、わざわざ引っ張り出して」
「まぁ、そういうのが好きな年頃なんじゃないですかね」
「年頃って、お前……」
そこまで違わないだろう、いやむしろ状況的には率先して混ざってた方だろうが。
「別に、冴木さんだって、エロとか嫌いじゃないでしょう?」
「無論、大好きだが」
そしてそこを全力肯定するのか、冴木。
「それなのに、恋バナは嫌だと?」
「妄想で終わらせておけって話だよ。体だけだろうが、心も一緒に添い遂げるだろうが、俺自身には、現実でそういう願望はないし、他人にしたって興味は無い。だから、そんな話をいちいちしたがる連中の気が知れない」
「…………」
そこは違うだろう、と私は思った。
「……まぁ、そんなところかね」
言いながら、しかしそれはただ話に合わせただけの、真っ赤な嘘の話だ。
そもそも、恋で騒ぐ連中の誰もかれもが、そういったことに興味津々なわけではないだろう。
おそらく、彼ら――もしくは彼女ら――は、白熱させられる、誰でも共感しうるホットな話題を欲しているだけなのだ。誰かと話したい、わいわい騒ぎたい、そのための理由、目的諸々のために何かしらの話題が必要であって、その中で魅力的に見えたのが、単純な恋物語というだけの話であったという事実に過ぎない。
これが政治家評論家の類であれば小難しい国際情勢になったり、今を輝くビジネスマンであれば昨今の市場になったりするのかもしれない。
そこまで興味は無い。
誰々が付き合ったからといって、世界が変わるわけでもない。
ただ目立って見えたから、その話をしただけ。
単純な、本当に単純な、感情の揺れ動きの問題だ。
なのに。
「…………」
私は、何も言わなかった。
それを指摘することをせずに、ただ、恋バナが好きだの嫌いだのでもエロいのは大好きだの胸だの尻だのと目の前で顔を顰め言い争う二人の言い争いを聞き流していた。
「――で、嵯峨根はどう思う?」
「そこで私に振るなよ。というか何について意見求めてるんだお前は」
「尻がいいか胸がいいか、どちらもない側からの意見をもらえれば、と」
「うるせえ余計お世話だ」
振り下ろしたレジュメの束が、スパァァァァァンと小気味いい音を立てる。
やめだやめだ。
このバカといる時には、やはりバカ話が丁度いい。




