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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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精霊宛ての手紙

すみません遅くなりました。


「「「わー、ありがとー」」」


「こちらこそ、ありがとう。御陰で予定してたよりも早く作業が終ったよ」


 樹の精霊だと言う、草餅から植物の芽が生えている様なビジュアルのモチモチの子達――特に名前とかは無いそうなので、草餅ちゃんと呼ぶことにしました――にお礼を言って、焼きたてのアップルパイとクロワッサンを紙袋に入れて渡します。すると草餅ちゃん達は、「こっちはお土産」とか「じゃあこっちは今食べる分」などと話し合い。嬉しそうにモチモチ動きながら、紙袋からクロワッサンとアップルパイを運び出し、皆で集まってモチモチと食べ始めます。


「お姉さんも、草餅ちゃん達を連れて来てくれてありがとう。その上手伝いまでしてもらって」


 お姉さんにも、草餅ちゃん達と同じようにアップルパイとクロワッサンを紙袋に入れて渡してお礼をします。


「まぁ、ありがとうございます。あぁ、この甘い香り久しぶ……あ、いえ。と、兎に角良い香りですね」


 紙袋を受け取った彼女は、その中からクロワッサンを1つ取り出して、モソモソと食べ始めました。彼女が美味しそうに食べているのを見て、思わず僕も1つ手に取って一口。


 普通よりバターを控えて、少し甘さ控えめの層多めで作った生地と、表面に薄っすらコーティングした飴の層が合わさって、サクサクのパリパリ。

 パイの方も、バター控えめの生地がサクサクで、齧り付くとパイの中からトロトロの中に時々リンゴ本来の食感が残ったフィリング溢れ出します。


「うん、良く焼けてる」


「そうですね。これは他じゃ手に入らない一品です」


 幸せそうな顔をして食事をしている皆を見ていると、自然と此方も笑顔になってきます。誰かが幸せなら僕も幸せ……とは言いませんが、やっぱり誰かが幸せそうだと、その気持ちはが伝わってきて、僕も少し温かい気持ちになります。


「あれ? そう言えば、他にもう1人手伝ってくれた人が居たよね?」


 首を捻って辺りを見回して見たものの、そこには鍋の灰汁を取ってくれていたおじさんは愚か、先程まで居た筈のエクレアさんやリディアもそこには居ませんでした。


 何処に行ったのだろう? と首を傾げていると、草餅ちゃんの1匹(?)がパイの欠片をもしゃもしゃしながら、フワフワと近寄ってきて「赤い髪の人が『この方はアホで、翼竜ワイバーンの子供と拳で語り合って怪我したとの事なので、医務室に連れて行って治療しています』だってー」と、教えてくれました。


 翼竜ワイバーンと拳で語り合うって、あのおじさんは本当に人間なんでしょうか?


「本当に? じゃあエクレアさん……金髪をポニーテールにしたお姉さんの事は知ってる?」


 リディアとおじさんの居場所は分かったので良いとして、次はエクレアさんです。クロワッサンが1つ欲しいと言っていた所までは、炊事場に居たのを確認して居たのですが。それ以降は、バゲットを焼いたり、ルヴァの実(果実全体が兎に角青くて甘みの強い果実)をジャムにしたり、スープや餡子を仕上げたりで結構忙しく動き回っていたので、彼女が何処へ行ったのかは分からないのです。


「それの人なら、お月様を食べながらあっちから出て行ったよー」


 先程の草餅ちゃんとは違う草餅ちゃんが、片手にクロワッサンの欠片を持って炊事場の裏口を指差します。

 草餅ちゃんの言う、お月様と言うのは恐らくクロワッサンの事でしょうから、エクレアさんであるのは間違い無い筈。


「外かぁ……毒のある物とか食べないと良いけど」


 季節は夏。この時期になると大森林の各所で、色とりどり多種多様な果実が実ります……ですが、その大半は毒持ち。

 夏のこの時期から秋に掛けて、毎年その毒持ち果実を口にした多くの人が、教会へ駆け込んできます……食中毒で。


「顔色が優れませんが、お加減でも悪いのですか?」


 少し震える僕の顔を覗きこんで心配そうにするお姉さん。


「うん……ちょっと昔の事を――」


 あれは酷い物でした。目の前で「毒なんて無いですよー」みたいな顔をして実っている果実を食べると、その数時間後には体調を崩すのですから。

 今回使った砂糖はそんな魔物も食べない果実などから糖分を『抽出』して作った物なのですが、アレをそのまま食べると、痺れて数日間目動けなくなったり、胃の中身を全部吐き出す事になったり……それはもう、酷い目に遭います。


「ううん。何でも無い」


 ブンブンと首を振って、嫌な思い出を振り払います。そして、気分を切り替えて、目の前で心配そうな顔をしているお姉さんに質問します。


「そう言えば、お姉さんはどんな用で教会に?」


 成り行きで手伝って貰っていたので失念していましたが、彼女は一体どの様な用件でここを訪れたのでしょうか? 感じからすると、魔物に襲われたとかそんな感じでは無さそうなので、時間的には少し早めですが、お泊りの人でしょうか?


 そんな事をふと思って質問すると、お姉さんはハッっとした顔をして「そうでした!」と、食べかけのパンを紙袋へ戻します。そして、紙袋をテーブルに置くと、何処からとも無く立派な封蝋が為された1通の封筒を取り出しました。


「手紙?」


「はい、メディシア王国のお姫様が10年程前に、私達精霊宛に出した手紙です」


 きっとそのお姫様とやらがまだ幼い頃に出した手紙なのでしょう。立派な封蝋が為された高そうな封筒には、可愛らしい文字で『せいれいさまへ』と記されていました。


「という事は、お姉さんはやっぱり精霊なの?」


「はい。私は風の精霊です」


「あー。やっぱり」


 ですよねー。普通の人は地面から微妙に浮いて移動などしませんし、微風を纏って至りもしませんから。


「でも何でこの手紙を僕に? 僕は精霊じゃないよ?」


 そう聞くと、彼女は「ええ、分かっています。ですが千歳ちゃんは人間と言うよりも精霊に近い存在ですから」と、封筒を開いて少しボロになった手紙を取り出して僕へ差し出しました。

 彼女の言葉に内心ショックを覚えつつも、差し出された手紙を受け取って読んでみると、


 せいれいさまへ。

 おねがいです。どうかいもうとに、おそとのせかいのおはなしをきかせてあげてください。

 

 と言う文面から始まり、妹さんの事や病気の事。そして、どうして精霊に手紙を出したのか等々。色々の事が、たどたどしい文字で書かれていました。


 あまり要領を得ない内容が多かったので、確かな事は分かりませんでしたが。どうやら手紙の差出人である彼女は、原因不明の病のせいで外に出られない妹さんの為に、せめて自分達が出来る事として、お兄さんと一緒に、妹さんに外の世界の事を話して聞かせてくれる様にお願いする手紙を精霊に宛てて出した事。


「この手紙が出されてから10年。私達は手紙の差出人の願いのままに彼女に外の世界の事を話し手来まし、そして沢山の精霊が彼女を治そうと苦心して来ましたが、私達では彼女の願い以上の事をして上げる事は出来ませんでした……そして、次は千歳ちゃんの番。出来る事なら彼女に外の世界を与えてあげて下さい」


 とは言いますが、"羽衣"や"鈴"そして"ペンダント"何かを持って居ない今の僕に出来る事と言えば、精々家事全般と後はおまじない程度の事。渡すのならリディアの方がまだ現実的でしょう。


「渡すのなら僕よりもリディアじゃないかな? リディアなら病気の事にも詳しいし、お薬の事だって詳しいからもしかしたら病気の事だって」

 

 すると彼女は僕の言葉を遮って首を横に振りました。


「今まで、大陸中の名立たる医師や神官が彼女を治そうと尽力して来ましたが、薬は愚か回復魔法ですら焼け石に水にすらならない状態でして……私も何種類かこっそり彼女に飲ませて、回復魔法も出来る範囲で試してみたのですが、効果の方は芳しく無く……」


「……」


 薬は病状に合わせて種類を選択しないといけない反面、回復魔法は使い手によっては大体の病気に効果を持つと言います。それがダメだったとなると、もう本格的に打つ手無しでは無いでしょうか? そんな希望が無い病と戦い続ける彼女はどんな気持ちで……あぁ、だから彼女達はこんな手紙を出した訳ですか。


「ですので、彼女が笑顔になってくれるのなら、せめて外の世界の話だけでもと、この手紙を受け取った精霊は皆彼女を見舞って来た訳です」


 きっと、手紙の差出人たる彼女達は、病で臥せるお姫様に病気と戦う為に夢をあげたかったのです――まさか、10年と言う期間闘病生活が続くとは思わずに。

 彼女の心はきっと、彼女の心を支える夢にと、それを阻む現実によって、酷く磨耗している事でしょう。


「僕にはお姫様の病気を治してあげる事も出来ないし、大した話も出来ないかも知れない」


 僕の作れる薬と言えば、胃薬や咳止め何かの常備薬程度の物ですし、回復魔法も手荒れを治せる程度です。残念ながらそんな僕では彼女の病気を如何にか出来そうありません。


「それでも良いなら、僕もお姫様の心を支える手助けをしてあげたい」

 

 彼女の力にすらなれないこんな僕が、お城の外に出られない彼女に広い世界の話をするのは、もしかしたら残酷な事なのかもしれません。

 ですが、手紙が出されて10年の月日が経った今も尚、それが彼女の心を支えていると言うのならば、僕は出来うる限り力を尽くして彼女に外の世界を与えましょう。


「よかった……彼女に会ってくれるのですね」


「頑張ってはみるけど、実際に会えるかは分からないよ? 何せ相手は一国のお姫様だから」


 嬉しそうに呟くお姉さんには申し訳ないのですが、事はそう簡単ではありません。


 元より、リディアの強い要望でメディフィアに立ち寄る予定が有ったので、お城のお膝元までは何の問題も無く辿り着ける筈ですが、お城に行くとなると話は別です。

 お城と言うのは、その国の統治者である王様が住む場所。となると、入城の審査や警備等もそれなりに厳しい筈です。そんなお城に、僕の様な何処の馬の骨とも知れない一般庶民が簡単に入れて貰える訳もありません。

 仮に、何らかの方法でお城に入れたとしても、病気で寝込んでいるお姫様に会えるかと言えば、恐らく答えはNO。色々な理由で面会などさせて貰える訳がありません。


「その事ならご心配は要りません。メディシアのお城は、まだ戦が絶えなかった時代に建造された建物で、もしもの事態を想定した非常用の隠し通路が城の各所に設けられていますので。

 今となっては、その大半が用を成さなくなって久しいのですが、数年前に1つ掘り起こしましたので、その通路を使って下さい」


 そう言って、お姉さんは手品の様に何処からとも無く簡単な地図が書かれた紙を取り出して、僕に手渡しました。

 受け取った地図を良く見てみると、『メディシア城』と書かれた円――恐らく城壁でしょう――の外側にある花畑と書かれたエリアにあるにある『1本樹』と書かれたすぐ隣に『城内の教会へ』と書かれた点線と、その他に2本の点線がメディシア城と書かれた円の内側へ続いていました。


「この通路を通れば城内の教会へ出られますので、月が出た夜にこの通路を通って城内へ侵入してください」


「どうして月の出た夜なの? 真っ暗な方が潜入し易くない?」


 ふと疑問意思って質問します。スニーキングミッションなら、月の出ていない真っ暗な夜の方が良いと思うのですけど。


「潜入では無く侵入です。手紙の差出人であるお姫様は、月の出ている夜なら必ずお城の敷地内にある教会の礼拝堂で女神リスティアに祈りを捧げていますので。彼女に会って、その手紙を渡せば、病気のお姫様に面会させて貰える筈です」


「それじゃあ、潜入用の道具を用意する必要は無いって事?」


「隠し通路に辿り着くまでは、巡回の兵に見つからない様に注意を払わなければいけませんが、隠し通路まで辿りつけば、その後は花畑に住んでいる精霊が礼拝堂の真下まで案内してくれますので、無理に忍び込む必要は無いかと」


 頭の中で潜入に使う道具をリストアップし始めていたので、ちょっぴり拍子抜けです。

 でも、潜入の最中に見つかって、鉄格子が素敵なワンルームにご招待――何て展開になる可能性が無くなったのは良かったです。……いえ、別に見つかる積りは有りませんでしたが。

リアルが少々忙しいので、次回更新も遅れるかもしれません。……えぇ、調子に買った、野菜や花の芽が予想以上に出てしまいまして。誰ですか、ビーツの種とか買い込んだヤツ。真夏のボルシチとか食べる気しないんですけど……。

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