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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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服の事 2

すみません、だいぶ遅れてしまいました。

 ――コンコン


「はい?」


 騎士さんが医務室の扉をノックします。すると、短い返事と共に小さく扉が開き、そこからリディアが顔を覗かせました。


「あら、千歳にメイドさん」


 僕達を見て、少し驚いたような顔をするリディア。


「おはようリディア」


「おはようございますシスター」


「ええ、おはよう。それと……えーと」


 昨日は留守だったリディアは、騎士さんの名前が分からずに困っていると、騎士さんは一礼してリディアに用件を告げます。


「おはようございますリディア様。朝早くから申し訳ない、此方から女性のものと思しき悲鳴が聞こえましたもので、僭越ながら様子見に来ました」


「あ、あー……はい、悲鳴ですね。そう言えば聞こえた気がしないでもありませんね……」


 途端。リディアは、冷や汗を掻いて激しく目を泳がせます。そして、「ちょ、ちょっと待って下さいね」と言って、バタン、と勢い良く扉を閉めました。

 どうしたんだろう? と、思って3人で顔を見合わせると、医務室の中からドタドタと騒がしく誰かが動く音や、「シルバ、服! 取り敢えず彼女に服を!」とか「一応昨日の夜に探してみたが、彼女が着られる様な服は無かったぞ」とか、声が漏れるのが聞こえて来ました。


「「「…………」」」


 よくよく見てみると、扉の縁に昨日までは無かった指の痕の様な物が8本クッキリと刻まれていました。……これは一体?

 そんな物を発見してしまい、色々考えながら無言で待つこと十数秒。ギィィィ―という不穏な音と共に医務室の扉が開き、リディア姿を現しました。


「すみませんが、そこの貴方は少しの間部屋の外で待っていて頂きたいのですが……」


 リディアがそう言うと、医務室から聞こえてきていた会話を聞いて事情を察していたであろう騎士さんは、静かに頷きました。


「良いの騎士さん? 悲鳴の原因を調べるんじゃないの?」


 すると、騎士さんは困ったような顔をして肩を竦めました。


「一応、愛する妻と娘が居る父親の身として、若い娘さんのあられもない姿を見るのはアウトだと思うわけさ。それに誰の悲鳴だったのかは何となく分かったからね。ま、俺は仲間と合流して朝食作りでもしているよ、期待しててくれな」


「どうも申し訳ありません」


 苦笑して言う騎士さんに、リディアは申し訳無さそうな顔をして小さく頭を下げます。

 すると、騎士さんは少し慌てて、頭を下げるリディアを両手で制しました。


「いえ、此方こそご迷惑お掛けしました。では、失礼します」


 一礼して炊事場の方へ歩いて行く騎士さんを見送り、リディアに「さ、どうぞ」と言われて医務室に入っていきます。

 

 医務室には、心なしか元気の無い感じの、シルバとエクレアさん。そして、昨日とは違うハンカチを身に纏ったサクが居ました。


「おはよう、シルバにエクレアさん……何だか元気がないね、風邪か何か?」


 そう聞くと、目を細めて何かの薬が入っているだろう薬瓶を傾けていたエクレアさんが、瓶から出てきた丸薬をヒョイっと口に放り込んで言います。

 アレは胃薬ですね……昨日のチーズでしょうか? 僕達は平気でも、旅慣れていないらしく、体力の落ちていたであろうエクレアさんはダメだったのでしょう。


「風邪ではありませんが、腹の調子が……。それと、ちょっと色々ありまして」


「うむ……今日は朝からついて無くかったんだ。俺も彼女も」


 グッタリと影を含んだ顔で俯いていたシルバも、エクレアさんに賛同する様に首を上げて言います。すると、リディアが「チッ」と小さく舌打ちし、2人が揃って口を噤みました。

 何だか、今日はリディアが荒んでいますね……何かあったのでしょうか? そう思い、メイドさんと顔を見合わせますが、荒み気味のリディアに色々聞くのはちょっと憚られて、お互いに肩をすくめるだけ。

 当のリディアはと言えば、「ふぅ」と溜息を1つ吐いて此方を此方を振り返りました。


「で、2人は彼女のに会いに来たんですよね?」


「「(こくこく)」」


 僕達に出来るのは、ただ黙って頷く事だけです。とても、「悲鳴の事が気になって見に来た」などと言える様な雰囲気ではありませでした。


「本当に! 嬉しいなぁ、誰かがお見舞いに来てくれる何て何年振りやろ? 行商人何てしてると、誰かがお見舞いに来てくれる機会何て中々ないからなぁ」


 ベッドの上で立ち上がり、嬉しそうに言うサクを見てメイドさんの顔が僅かに引き攣ります。

 ですよねー、だってメイドさんは元々サクに会いに来たのでは無くて、野次馬しに来たのです。それが、あんなに嬉しそうな顔をされたら良心的な何かも傷むでしょう。


「どうしたん? お腹の調子でも悪いん?」


「い、いいえ、大丈夫ですよ。……あ、そうでした! お見舞いの品も用意したんですよ、ね……ね!!」


 サクに心配されて、かなり焦るメイドさん。良心痛んでますねー……。

 メイドさんに促されて、服の入った巾着袋をサクに渡します。


「これ下着と服……良かったらどうぞ」


 いざ渡すとなると、どうにも緊張してしまします。

 お菓子やら料理やらは前世でも誕生日やクリスマス、バレンタインやホワイトデーみたいなイベントがある度に色々な人にプレゼントしていたのですが、

 服は依頼されて製作する以外では、自分で作った物を誰かに渡すと言う事は滅多にありませんでしたから。というか、どのタイミングで服をプレゼントする事があるというのでしょうか?

 

「ありがとう! 正直このまま過ごしてたら、危うく新しい世界の扉開くところやったわ」


 巾着袋を受け取り、その巾着袋を嬉しそうに抱きかかえるサク。きっと、お見舞いというの事態が嬉しいのでしょう。


 ……昨晩から今朝に掛けて、彼女の心境にどの様な変化があったというのでしょうか?

 気にはなりますが、知ってしまったとしたらきっと碌な事にならないでしょう事は分かりきっているので敢えては聞きませんけど。


「うわー! 凄いなぁ、コレウチが着てた服と同じ形やん! それにコッチのは見たこと無いデザインや、凄いなぁ綺麗やなぁ。それに、替えの下着まで! 正直どうしようか困ってたんや」


 袋から取り出した服を体に宛がいながら、サクはベッドの上でくるくると回ります。


「なぁ、本当にコレ貰って良いん?」


「うん、その為に作ったんだから!」


「ありがとうなぁ」


 薄っすらと涙を浮かべて笑うサク。ここまで喜んでくれると、頑張って服を作った甲斐があるというものです。



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