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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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お裁縫

今年ももう終わりですね。

 彼女の名前の事は気になりましたが、結局聞くタイミングを逃し聞けず終いのまま、あれよあれよと話しが進み夕食となってしまいました。

 まぁ、これからも聞く機会はあるだろうと割り切り、塩と香草を塗して焼かれたチキンに齧り付きます。


「おいしいー!」


「喜んで貰えて何より。そう言って貰えると作り甲斐があると言うものですな」


 夕食の準備は「何もせずに一晩の宿を借りるのはフィリスの使者としてのプライドが許しませぬ。それに、我々が持ってきた食材も持って帰るのは重いので出来れば使ってしまいたく…」と言う事で、馬車の護衛をして居た皆さんに加え、今日から出発の準備が整うまで教会で暮らすことになったエクレアさん。そして、本職は執事だと言うアッズさんが加わり手早く準備してくれました。


 エクレアさん以外の皆さんは、第七騎士団という部署に所属して居て仕事柄国外への遠征が多いので魔物の解体や、料理は割りと手馴れているそうです。


 メニューは、例のチキンに塩と香草を振りかけて豪快に焼いた物と、何時もの豆のスープ、後は野菜類を少々と、フィリス王国からの使者さん達が持っていた麦やらチーズやらを煮た麦粥です。

 チーズが夏の日差しにやられてか、ちょっと逝き掛けていたのが残念でしたが、それ以外はとても良い感じでした。明日の朝ご飯もきっと期待出来るでしょう。


 

 夕食を食べた後は、ハーシェポルトと共に、フィリスの使者の皆さんを客室に案内し、その流れで自分達も各自の部屋に戻ります。

 そして部屋に戻ったら、外から見えないように窓を閉め、裁縫作業をする為に魔法で光の珠を出します。練習不足で、個々の光の珠の光量は弱めですが、そこは数で補います。


「………あれ?」


 何故か先程から出しても出しても光の珠が増えません。

 何が原因かと周囲を見回すと、鉢植えに植えられ部屋のほぼ中央に鎮座しているルームランプ…もとい、光る鈴蘭が、光の珠を出す端から引き寄せ吸収していました。

 一応、吸収する度に鈴蘭の花が発する光量自体は増えているので問題は無いと言えば無いのですが…。


「まぁ、気にしても仕方ないか…さてと、先ずは材料を準備しないと」


 光る鈴蘭に関する思考の一切を放棄し、最早僕の常識が追いつかない存在になってしまった不思議植物の傍に『貯蔵庫』から裁縫道具と取り合えず有るだけ全部の生地を取り出し広げます。

 そして、こっそり回収しておいた無残にも破けて悲しい事になったサクの服を取り出し、丁寧に糸を解いてパーツごとに分解します。

 

「生地も良い物だったし、作りも丁寧だから解体するのはちょっと勿体無かったかな?」


 とは言っても、妖精の服など作るのは初めてなので出来るだけ資料が欲しかったのです。特に、背中から生える羽の部分はどうしたら良いのかが困り所でした。ですがこの度問題は解決…しませんでした、はい。

 

 サクの着ていた服は、背中の部分に羽を通す穴は開いていたものの、服を着る時に羽をその穴まで持っていくギミックが無かったのです。

 あの自分の体の3分の2程の大きさがある羽の問題をどうクリアーしていたのか。と言うかサクはどうやってこの服を着ていたのか。服を解体した手前非常に認め辛い事実なのですが、正直さっぱり分かりません。


「…まぁ、そういう仕組みが無いなら無いで元の服に倣って作った服と、工夫した服を作れば良いや…」


 取りあえずは、解体した服の生地を型にして複製品を1着作りましょう。流石に同じ生地はありませんが色合いや質感の似た生地はあったので何とかなる筈です。

 ミシンとかがないのはちょっと困り物ですが、幸いにしてサクは体が小さいので今回は手縫いで何とかしましょう。


「今後の為に何か考えないと…魔法を使えば何とかなるだろうけど、その為には先に魔法の練習をしないと…」


 色々とやる事が多いなぁ…。と、ちょっとグッタリしつつ作業を進めていきます。

 

 久しぶりの服作りは思いの他楽しく、気が付けばサクが元々着ていた服の複製アレンジ品と、数着の上下の下着が完成していました。

 複製アレンジ品は、元々の服と同じ様な材料が無い部分を大胆に変更し、他の部分もソレに合わせて変更しました。下着…特にブラは、羽の邪魔にならない様に少し工夫した自信作です。


「ふっふっふ…今何時だろう?…外見るの怖いなぁ」


 一体どれ位の時間が経ったのでしょうか、まだ辺りが暗い事を考えると朝…では無いでしょうが、考えるのが怖くなったので再び服作りの方に意識を向けます。


 1着目は、サクが元々着ていたワンピースタイプの服を複製アレンジした品を作りましたが、2着目は物理的に羽を通して着られる構造の服を作らなくてはならないので流石に難しい所。


 普段着として着る服を想定しているので、扇情的になってしまうデザインではダメで、かといってそれ以外だと上手い事羽の問題をクリアーできる気もしないのです。

 何せ体の3分の2程もある大きな羽、しかも負傷中です。あまり無理が掛かるような着方をする服は渡したくはありませんから。


 うーん、となるとやはり羽の通る部分は空ける事は大前提となってしまいます。

 床に広げた生地を弄りながら、あれでもダメコレでもダメとと考えていると、ヴェールに使う様な薄くて透明感のある生地と花の柄のレースの生地が目に付きました。

 

「うん、決めた。どう頑張っても出ちゃう背中は、ヴェールかレースで隠して何とかしよう」


 パッと思いついた案を基点に、白くて無地のさわり心地の良い生地を何種類か裁断し、首にリボンを結ぶようなデザインのホルターネックのビスチェに、ワンピースを合わせた様な基礎を作り。そのままだと少し露出が多すぎるので、ガバッと開いた胸元をレースの生地で塞ぎ、背中の部分と肩の部分を羽の出る部分をレースの生地を使ってギリギリまで隠します。

 そして後は見栄えが良くなるように所々にリボンやらフリルを付けて、服の裾やスカートに透明感のある生地を縫い付け、最後に、拾った宝石っぽい石を魔法で加工し、これまた拾った何だか良く分からない銀っぽい金属を女神様に貰った魔法の1つ『精製』を使い精製し、その後チビチビと魔法を使って精製します。


 魔法の出力がまだ低い為に結構な時間を取られてしまいましたが、コレで首元のリボン等を止める留め具が完成しました。幸いだったのはサクがの体が小さく、加工する石と金属がとても小さかった事でしょう。

 人間に合わせたサイズの物を原石の状態から加工しろと言われたら一体どれだけの時間が掛かる事やら…。


 何はともあれ、努力の甲斐あって2着目は無事に完成しました。ちょっとばかり頑張りすぎて普段着という最初のコンセプトから外れてしまった感は否めませんが、何はともあれ完成です。

 今が真夜中で無ければ、ちょっとばかり飛んだり跳ねたりして喜びを表現して居たところですが、流石にもう体力の限界なのでベッドに向かおうと顔を上げると、鈴蘭の花の部分が本体を離れて、フワフワとまるで海に居るクラゲの様に花弁を動かしながら部屋のあちこちに浮かんでいました。


「………」


 何か作業の途中から「何か明るいなー」とは思っていましたが、まさかこんな事になって居るなんて…なんと言うファンタジー…。

 きっと疲れているのでしょう。そうですよね、だって徹夜ですもん。


「………うん、寝よう」 


 一先ず今見た物の事は忘れて、完成した服と出しっぱなしになっている道具や生地を『貯蔵庫』に仕舞い、その他の材料を部屋の隅に置いてある宝箱(拾い集めた宝石っぽい石や何かの鱗や羽、そして鉱石っぽい何かが入れてある木箱です)に入れてベッドに横になります。

 起きられるでしょうか…朝ご飯が食べられるか心配です。そう思いながら意識はスーッと眠りの中に落ちていきました。


 意識が薄れていく中、花がクラゲの様な緩やかな動きでフワフワと植物本体に戻っていくのを見たような気がしますが、きっとコレも気のせいでしょう。僕は何も見ていません、夢です。

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