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ハイラム・カイル

初カキコ…ども…

「ハイラム、母さん、ただいま」

 緑のケピ帽を被り、シャープスライフルを左肩に担いでいる男は、疲労感が少しだけ混じった笑顔でハイラムの頭を撫でた。

「パパ、お帰りなさい」

「大きくなったな。何歳になったんだっけ?」

「5さい!」

 ハイラムは父親に抱き着き、満面の笑みを浮かべる。

「……見ないうちに大きくなったな。」

 父親の大きな手が再びハイラムの頭を撫でる。さっきよりも長く、力強く。

――あれが1863年。10年経った今も、パパの手の感触を、パパの笑顔を、血まみれで帰ってきたシャープスライフルを忘れられない。忘れたくもない。


***


「ハイラム、お父さんが帰ってきたわよ……」

「パパはどこ?なんで隠れているの?」

 母親はハイラムに抱き着き、悲しげな笑みを浮かべる。

「前よりも大きくなった姿を、あの人にも見せて上げたかった……」

 母親が手をハイラムの上に乗せる。今までで一番長く、力強く。

 僕はその時7歳の子供だったが、子供ながらにどういうことか理解した――パパは死んだ。僕たちを遺して。

 帰ってきたのは死体ではなく、父親が使っていた緑のケピ帽と、血が付着したシャープスライフル。

 なぜか郵便で父親の遺品と1枚の手紙が届けられた。

 差出人の名前は”Dixie”というらしいが、たぶん偽名だ。Dixieというのは南部の人間、つまり南軍を指す言葉だ。送り主は北軍に属していた父親の敵であるはずの南軍の人間なのだろう。

 父親の戦友が持ってくるなら、よくある話だし理解できる。だが、父親の遺品はどういうわけか郵便で、しかも南軍の兵士から届いた。この南軍兵は一体何を思ってこんな事をしたのだろうか?

 ――これが1865年のこと。この年、南軍の将軍は降伏。4年間にわたってこの国を荒らしまわった『内戦』は終結した。パパは『内戦』の最終局面で死んだらしい。


***


 1866年、僕が8歳のとき。僕たち母子は大都会ニューオールバニにいた。

父親が戦死した後、生活は次第に厳しくなり、都市で仕事を見つけるために移住したのだ。

 ストリートチルドレンとしての生活が始まったのはこの頃から。街中で同じような境遇の子供たちと遊んだりご飯を食べたりと、貧乏ではあるが楽しい生活を送っていた。ママと会う時間が減ったのは寂しかったけれども。

 ママはどんな仕事をしているのか教えてくれなかったが、15歳になった今なら予想はつく――売春婦だ。なぜなら梅毒で死んだからだ。

 結局、僕は孤児になった。残されたのは記憶と、緑のケピ帽と、血がついたシャープスライフルのみ。


***


 ダグラス市の近くまでは列車で来た。もっと正確に言うと、連れてこられた。11歳のときだ。

 いわゆる『孤児列車』というやつだ。ニューオールバニのような東部の都市にいる孤児たちを西部地域の農場に連れて行って里親に育てさせる、という制度だ。 

その制度でダグラス市近郊の農場に預けられたわけだが、ストリートチルドレンをしているよりも酷い環境だった。

 農場主はアルコール依存症の中年親父。奴隷に近い扱いで、虐待は当たり前。孤児列車で預けられた子供を使い捨ての道具程度にしか思っていない正真正銘のクズ野郎だ。どうしてアイツは悪魔の角や羽、尻尾を持っていないのか不思議に思うことが何度もあった

 僕がいまだに捕まっていないのはあいつが本物の悪魔だったからではないのだろうか?

――結局、僕は農園主を殺した。このまま農園主の所にいたら、いつか殺されてしまうと思ったからだ。500m先から放った弾丸があいつの頭を真っ赤に染め上げた。今思うと、僕は最初から殺し屋に向いていたのかもしれない。

 農園主を射殺したとき、僕は「始まった……僕の人生が始まった」と呟いていた。罪悪感が無かったというと噓になるが、仕方がなかったのだ。それに、撃った瞬間、胸がすうっと晴れるような心地よい気分になったのを覚えている。

 これが12歳のとき。 


***


 農園主を射殺したあとはダグラス市のカドー通りに逃げ込んだ。そこで『家族』と出会った。

カドー通りのストリートチルドレン。彼ら彼女らは農園から逃げてきた僕を快く受け入れてくれた。僕が来たばかりの頃はまだ年上の家族が何人かいて、面倒を見てくれていたが、2年ほどでみんな死んでしまった。処刑、アルコール中毒、病気、栄養失調……ゴロツキに殺された家族も。

――結局、14歳になったころには僕が最年長になっていた。


***


――装弾よし、照尺よし。

「すぅー、はぁー」

 深呼吸して全神経を銃身に向ける。荒野を撫でていた風が止まる。引き金を引く。「パァン」という音とともに弾丸をターゲットの頭にねじ込む。

癖なのか、仕事が終わるたびに「仕事完了」と呟いている。この独り言によって、人殺しの罪悪感から逃れている。

 「報酬だ。受け取れ」

 雇い主が報酬をテーブルに置いた。

 今回の報酬は10ドル。これで半年はどうにかなるだろう。

「ありがとうございます。それでは」

 依頼主に礼をして、その足で商店をハシゴする。

「えーと、パン、トウモロコシ、塩漬け肉、布……誕生日の子のために何か買ってあげなきゃ」

 家族を、何年か前の僕と同じ境遇の子たち、理不尽が降りかかってきても抵抗する術を持たない子供たちを守るためには力と金が必要だ。

だからこそ、僕は殺し屋としての道を選んだ。

 幸いにも、僕には狙撃の才能があったらしく、今回の狙撃では600m先からターゲットの頭を撃ち抜いた。

 子供たちのために、殺さなきゃ。あの子たちが地獄に堕ちないように、僕が地獄に行かなきゃ。僕が殺しをしなければ、家族は死んで、地獄に堕ちてしまう。


***


 買い物を終えて『家』に帰ってきた。使われていない半地下の倉庫に住み着いているだけだが。

「今日って誰かの誕生日だっけ?」

 買ってきた物を袋から出していると、『家族』の一人であるカミルが聞いてきた。

「今日はクリフの……カミル?どうかした?」

 男の子が不思議がって首を傾げている。言っていることが良く分からないとでも言いたげな様子だ。

「クリフってもう死んだよね?半年前に」

 聞いた瞬間、手に持っていたリンゴを落としてしまった。地面にぽとりと落ちたリンゴは少し転がって動きを止めた。

「ハイラムお兄ちゃん?」

 カミルに呼ばれたことでやっと我に返ることができた。

「ご、ごめんね。うっかりしてたみたい」

「お兄ちゃん、怖い顔してたよ。だいじょうぶ?」 

「ごめんね。疲れてたみたい……」

 そう言ってカミルの頭を撫でた。

 ハイラムの心情を読み取ったからなのか、カミルが抱き着いてきた。その瞬間、父親や母親のことをふと思い出し、撫でていた手を止めてしまった。

「お兄ちゃん?」

 そう呼ばれて、夢のようなものから目を覚ました。

「大丈夫。心配しないで」

 再びカミルの頭を撫でた。さっきよりも長く、力強く。


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色がついた星の数だけ、幸運が訪れると思います。知らんけど。

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