episode21
「どうしたんですか、蘭先輩?」
レッスンスタジオの裏口。人気のないその場所に、あかりの声が柔らかく響いた。
蘭はその声に反応するより先に、目の前の少女の表情を見て、瞬時に理解した。
(……あかり、あんたが……)
「バレちゃったんですね。梨々香先輩とのこと。恋愛禁止の事務所さんに」
あかりは微笑む。
どこか心配そうに見せかけて、その奥には確かに確信めいた色があった。
蘭は、言葉を詰まらせたまま、睨むようにあかりを見つめた。
「どうして……」
「なんで密告したのかって?」
あかりは胸元に手を置いて、演技のような溜息をついた。
「私、本当に蘭先輩の夢を応援しようと思ったんです。
なのに蘭先輩は事務所との約束を破って交際をしている。
それって蘭先輩は本当に夢と真剣に向き合っているんでしょうか?
だから……少しだけ、私なりに先輩の夢のお手伝いをしたんです」
「……ふざけないで」
蘭の声は震えていた。
怒りとも悲しみとも言えない感情が、胸を締めつけていた。
「先輩、悩んでますよね、夢と、梨々香先輩の間で
なのにあの人、きっともう蘭先輩のこと、ちゃんと見てない
部活も、生徒会も、完璧にこなさないといけない彼女にとって、恋愛って後回しだと思いませんか?」
その言葉が、蘭の胸に刺さる。
それが事実かもしれないと思ってしまう自分が、心の中でさえ否定できない自分が情けなかった。
「でもね、私は違う。私は、先輩の弱いところも、迷ってるところも、ちゃんと見てます。……そばにいたいって思ってる」
あかりは一歩、蘭に近づいた。
「それに誰に自分たちの関係を話したって構わないって言ったのは蘭先輩ですよ?
忘れたんですか?夏祭りのこと」
その声は、どこまでも優しかった。まるで全てを許すように。
蘭はその場で返事をしなかった。けれど――
心の中でひどく冷たい風が吹いた気がして、胸の奥で梨々香の顔を、何度も思い浮かべた。




