エレベーターの中で
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
エレベーターの中で
まただ……
記憶の混濁……
読者への挑戦状から二週間……
この空白は何だ?
早く真相を……
原稿を書き上げて……
アップしないと……
しかし、今はエレベーターの中……
以前あったB2ボタンは、やはりない……
もう一度、人体標本室へ行きたいのだが……
「さあ、部屋に戻りましょうか?」
振り向くと白衣の人……
閉ざされたエレベーターの中……
謂わば、ここは密室だ!
密室の中に二人……
一人は被害者で……
もう一人は……
「残念ですが地下二階へはいけませんよ」
なぜ?
いや、それより……
早く、続きを書かないと……。あのミステリーの真相を……
白衣の人は黙っている。
あなたも読んだんでしょう? 読者への挑戦状は読んだんでしょう?
白衣の人は静かに口を開いた。
「密室なんてあまり興味はないですが、ドアチェーンを外から操作するなんて程度のことは、色々手段はあるでしょう? 実際、不完全な密室なわけですし、回答は何通りも、それこそ読者の数ほどあるんじゃないですか?」
いや、そんな……
「だって、犯人は最終的に離れを燃やしてしまったんでしょう? 殺人現場が本当に密室だったかなんて、わからないじゃないですか?」
酷い……
「それに叙述トリックだって、結局ほとんど妄想だった、ってことなんじゃないですか? このミステリーは嘘に塗れているわけですから」
違う!
離れは密室だった!
叙述トリックも妄想だったとか、そんな話じゃない!
エレベーターという密室の中に二人……
一人が被害者なら……
もう一人は……
犯人……
手に牛刀があった!
血が迸り……
生首が転がる……
生首になった白衣の人が、床で笑っている……
* * *
いけない……
こんなことを書くから読者に信用されないのだ!
リアルタイムで執筆はできない!
どんなにそれが真実だと宣言したところで、書いているのは記憶に過ぎない!
そこに妄想や……
が、……がん……、願望が忍び込む……
願望……
そう、私は白衣の人に殺意を持った!
離れは密室だった!
密室を構成したのだ!
それが不完全だったとしても!
チープで、稚拙だったとしても!
「さあ、部屋に戻りましょう」白衣の人が言う。
私は大人しく従う。
「すべてはフィクション。その方がいいんじゃないですか? そうでなければ、あなたは犯罪者になってしまいますよ」
いや、私は犯罪者だ!
太宰治と同じだ!
「現実とリンクしてると主張したところで――、ああ、そうだ、あの言葉! 中井英夫があの人に言ったというあの言葉!」
世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだ
「それも実際は違うでしょう? 世界中の悪意を一身に背負ったような探偵小説を……」
違う! そうじゃないのだ!
「でも、ネットで検索すると出てきますよ。その人が確かにそうインタビューで……」
違うのだ! そうじゃないのだ……
でも……
仕方ない……
そういう病院の鉄格子のどちらが内側か……
私が内側にいるのはわかっている……
仕方ない……
つまりは……
太陽が眩しかったのだ……




