読者への挑戦状の前に
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
読者への挑戦状の前に
「動機については尾崎諒馬本人が書く、と。それであとは名探偵が密室トリックを解明すれば――」神が探偵を見る。
いや、そのつもりはありません。
探偵は笑って否定する。
「しかし、それでは名探偵の役割が――」
いや、エラリー・クイーンのことを考えていたんですよ。
本格ミステリーと言えばエラリー・クイーン……
「エラリー・クイーンと言えば読者への挑戦状――ですか?」
ええ、何処かにAIとの会話であったでしょう?
読者への挑戦状を挿入するのは、
名探偵のエラリー・クイーンなのか?
作者のエラリー・クイーンなのか?
このミステリーの「読者への挑戦状」は誰が挿入するべきなのか?
名探偵の尾崎凌駕なのか?
作者の尾崎諒馬なのか?
「ふーむ。似ていますが名前が違う。で、どっちなんです?」
作者の尾崎諒馬はアンチ・ミステリーに気触れるいますからね。虚無への供物にも挑戦状はない。
「すると、挿入するのはあなた――名探偵尾崎凌駕?」
ええ
「すると、本格ミステリーとしてフェァに書いた、事件を解く手掛かりはすべて埋め込んだ、とかは言えない? 作者ではないので――」
ええ、ですから――
神であるあなたの許可が欲しいのですよ。
私、名探偵尾崎凌駕はこの事件――
少なくとも密室トリック、叙述トリックの謎は解いた!
読者にも解けるようにすべての手掛かりを神から証言として引き出した、と!
事件の映像をすべて見て、真相を知っている神が、失顔症でも真相を見破れる手掛かりを私に示したのなら、私と同じ――謂わば失顔症である読者も真相を見破れるはずだ!
本当にそう思うのなら!
「なるほど!」神は笑った。「では、ここで読者への挑戦状の挿入を許可します! 作者ではなく、名探偵のあなた――尾崎凌駕が挑戦状を挿入することを神である私が許可します!」
では、読者への挑戦状の前に事件をごく簡単に整理しましょう。
姉良美の自宅で尾崎諒馬=鹿野信吾が彼女を階段から突き落とす。
弟の勝男がその首を切断し別荘に持参する。
別荘の母屋二階で勝男が妻良美に瀉血処理を施術する。
勝男が妻良美の心臓を抉り、更に首を撥ねる。
持参した姉良美の生首は母屋二階のベッドの妻良美の遺体の首の位置に置く。
勝男が妻良美の生首を持って離れに籠城する。
尾崎諒馬=鹿野信吾は離れの外で待機、窓の施錠を確認。坂東善=水沼は母屋に戻っていて、尾崎諒馬=鹿野信吾は一人で数分待っていた。
その数分間に神の視点を持つ黒川が離れ玄関ドアのドアチェーンを確認。中にまだ生きている勝男も確認。
尾崎諒馬=鹿野信吾と坂東善=水沼がドアチェーンを確認。
中を覗くと……
ウェディングドレスの上に生首が……
しかし、犯人は尾崎諒馬=鹿野信吾!
それは映像で明らか!
生首……
首は生きている……
しかし基礎は浅かった!




