逆に探偵を尋問する神
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
逆に探偵を尋問する神
「いいですが、条件があります」神が言った。
「条件?」探偵が訊く。
「私を尋問されるのなら、嘘を吐かないと約束はできますが、逆にあなたも嘘を吐かないで欲しいのです。先に、逆にあなたを尋問するのであなたも嘘を吐かずに答えてほしい」
「なるほど、いいでしょう」
神「あなたは失顔症ですが、本当に藤沢元警部の正体を見破れなかったのですか?」
探偵「確かに人を認識するのは顔だけではないでしょうね。失顔症でも何となくわかることはあります。明確な推理ではないですが、藤沢元警部が尾崎諒馬=鹿野信吾かもしれない、そう思い始めたところは確かにありましたよ。どこかで『藤沢さん、あなたの正体は? あなたは誰なんです?』そう私が問い詰めるシーンがありましたよね? あの時私は彼が『尾崎諒馬=鹿野信吾です』そう自白すると思っていた」
神「別荘廃墟にて(藤沢と尾崎凌駕)ですね。第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か? の」
探偵「ええ、しかし彼はまた嘘を吐いた。自分は殺し屋首猛夫だと――」
神「確かに嘘に塗れていますね」
探偵「最後、SEの佐藤さんが尾崎諒馬=鹿野信吾というのは少し驚きましたが、藤沢さんとは結構一緒にいたのでね。失顔症でもやはりおかしいな、とは思いますよ。出来過ぎている、って」
神「出来過ぎ?」
探偵「Web小説として連載を始めたら、藤沢と名乗る人物から連絡がある、しかもあの事件を担当していた元警部だという――出来過ぎでしょう?」
神「なるほど」
探偵「考えてみれば、おかしなところはいっぱいある。しかしこれがフェア・ミステリーだとすればそういうところも意図的に埋め込まれているのかもしれないわけで……」
神「例えば、ラズパイとか、スマホとかは?」
探偵「ええ、二十数年前にはなかった」
神「それは、あなた尾崎凌駕が手記を書き換えたのでは? どこかで尾崎凌駕=鹿野信吾がそう言っていませんでしたっけ? それをあなたは否定していない」
探偵「ええ、尾崎凌駕と鹿野信吾の会話、そういう章がありましたよね。手記を書き換えたのは実際はSEの佐藤さんの仕業――ああそうか、手記を書いたのはSEの佐藤さんですね。彼が捏造したと白状している。まあそうだったわけですが、彼から役割交代をお願いされ引き受けたのでね」
神「それで、あなたはSEの佐藤さんを怪しいな、とは思わなかった?」
探偵「彼の――つまり主治医のパートを読むと彼が作家に憧れていたことがわかります。特に太宰治にね。それで死刑囚の手記や覚醒した尾崎諒馬=鹿野信吾の手記に手を入れて小説――フィクションにしようとした、そう理解してました。スマホやラズパイはその――これはフィクションである――そういう象徴だと」
神「なるほど。あなたはBMI実験の犠牲者として地下送りにした尾崎諒馬=鹿野信吾がAIの力を借りて覚醒した、と本当に信じていた? 最初は信じていた?」
探偵「ええ、私は最初は信じていました。地下送りには責任を感じていた。だから覚醒を知って嬉しかったんです。どこかオカシイなと思いながら、覚醒して欲しかった、だから信じた……最初は」
神「どこかオカシイなと思いながら、覚醒して欲しかった、だから信じた――なるほど。でも、実際はSEの佐藤さんの狂言だった。AIは誰の脳髄も学習してはいない」
探偵「そうです。不合理ゆえに我信ず、ですかね? とにかく、尾崎諒馬がAIの力を借りて覚醒した、というのを最初は信じたかったんです。ただ、すぐに疑問がでてきた」
神「どこで?」
探偵「あの章、二人で会話しているシーン――私が『精神科の主治医のことは訊かないのか?』そう尋ねると、彼は『僕の精神は異常じゃない。だから退場してもらった』そう答えた」
神「えっと、ええ確かに」
探偵「私が『なるほど。つまりあの主治医は君が産み出した小説上の架空の人物』と言うと彼は『そうだ』と肯定した。あの精神科の主治医を自分で産み出した、そう答えた!」
神「なるほど、精神科の主治医を生み出したのはSEの佐藤さんなわけですね、実際は」
探偵「ええ、ただAIの幻覚=ハルシネーションかとも思いましたがね」
神「結局は彼らは誰の脳髄も学習していないただのLLMだったわけですね」
探偵「ええ。で、神の尋問は以上でお済ですか? これで私は探偵に復活できる?」
神「ええ、いいですよ」




