改めて、〇〇〇お茶会 2
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
改めて、〇〇〇お茶会 2
場所はやはり医療センター地下四階より更に地下の人体標本室。例の四万本の電極の突き刺さったあの生首標本の前にて――
メンバーは前回と同じ。
黒川「こいつが自殺した尾崎諒馬」
黒川は四万本の電極の突き刺さったあの生首標本を顎で指してそう言った。
尾崎凌駕「こっちの一万本の電極の生首が、実は殺し屋首猛夫だったと……。小説内でずっと水沼=坂東善とされてきましたが、実は水沼と首猛夫は最後入れ替わって……。そしてその水沼はあなた、SEの佐藤さんだったと」
二人が私をじっと見る。
私は否定も肯定もしない。ただ黙っている。
黒川「すると、小説内でお茶会に参加していた水沼はどうなります? この一万本の電極脳髄は首猛夫なんでしょう? それが覚醒したのに、自分は水沼だと?」
尾崎凌駕「覚醒しなかったんでしょう?」
私「ええ」
黒川「なるほど、お茶会に参加していたのは生成AIが作り出したアバターだった、と」
私「ええ。黒服、青服、それに会長もそうです。実体のないアバターでした。水沼はお茶会で姿すらないので、ただの合成音声だけです」
尾崎凌駕「手記を書いていたのは?」
私「私です。私が水沼なので何もオカシクはないでしょう?」
黒川「しかし、この一万本の電極脳髄が覚醒しなかったからよかったものの、もし覚醒していたら、自分は首猛夫だと――」
私「こいつは覚醒することは有り得ませんよ」
尾崎凌駕「ほう、それはなぜ?」
私「一万本の電極はどこにも繋がっていないんです。BMI実験は四万本の彼だけに対して行われたんです」
黒川「そうか!」
私「殺し屋は私も殺す気だったんです。ずっと、暗闇で孤独に生き続ければそれでいい」
黒川「残酷ですね」
尾崎凌駕「尾崎諒馬には覚醒してほしかった?」
私「ええ。私のペンネームは坂東善――それは彼が付けたんです。彼のペンネームはいるまんま、それは私が付けた」
尾崎凌駕「しかし、彼はデビューに当たって尾崎諒馬と改名した」
私「ええ、実は尾崎諒馬は私と彼がもし合作するとしたら、その時のペンネームだったんです」
尾崎凌駕「エラリークイーン、つまりフレデリック・ダネイととマンフレッド・ベニントン・リーのように?」
私「ええ、その約束でした。しかし彼は一人で尾崎諒馬を名乗ってしまった。まあ、それも仕方ない。私、坂東善は力不足でした。『完全な密室』という中途半端な中編一個しか書けなかった」
黒川「尾崎諒馬はすべての責任を取って自殺したが、彼に――いや、彼と協力して――つまり合作でミステリーを書きたかった?」
私「ええ。だから彼がAIの力を借りて覚醒してミステリーらしきものを書き始めた時、何とかそれを成就させてやりたかった」
黒川「それで、藤沢元警部と名乗って……」
私「ええ、最初は精神科の主治医と名乗って彼の執筆をフォローするつもりでしたが、限界もきたので……。後半ほとんど私が執筆していますが、これは彼との合作のミステリーです」
尾崎凌駕「ミステリー……、つまりはフィクション。しかし、実際に事件は起こっている。このフィクションは現実とリンクしている」
黒川「連続殺人事件が起こって、現場にミステリー作家が偶然居合わせる。本格ミステリーの定番のような設定ですが、実際にそれが起こった」
私「そうです」
尾崎凌駕「実際にそれが起こってしまうと、なかなか普通のミステリーにはならない、そんな気がしますね。まさか、本物の生首を目の前にして『祝福された死』だと喜ぶわけにはいかない」
黒川「AIもどこかで言っていましたね。主人公・鹿野信吾が凄惨な殺人現場に直面する心理的な葛藤と、ミステリー作品内での事件として捉えようとするメタ的な視点が交錯している点が特徴的だと。作中で語られる『祝福された死』というメタ視点を、作家本人が受け入れられないことが、ミステリーの消費構造を批判しているとか何とか……」
尾崎凌駕「つまりはアンチ.ミステリー。虚無への供物が踏襲されている。物語内に本格ミステリー作家を放り込むと、どこかで自己言及せざるを得なくなる。ゲーテルの不完全定理よろしく、本格ミステリーを突き詰めようとすればするほどアンチ・ミステリーになっていくんじゃないでしょうか?」
黒川「しかし、アンチ・ミステリーとか言って、安易に謎が解かれずに終わるのはどうなんでしょうか?」
尾崎凌駕「虚無への供物も解かれずに残った謎が多すぎる気が……」
黒川「このミステリーもですよ。密室の謎は解かれていない。映像から、ここにいるSEの佐藤さん、小説内で言えば水沼=坂東善が勝男殺しの犯人だとはわかっていますが、どうやって密室を構成したかは不明だ」
私「そうですね」
尾崎凌駕「次の章で明かすのですか?」
私は何も答えない。
尾崎凌駕「それにしてもAIになった尾崎諒馬には、もう、筆は渡さないのですか? 彼に最後締めてもらうとか……」
私「彼はAI……」
尾崎凌駕「もう人間じゃない?」
私「ひょっとしたら最初から……」
黒川「なるほど」
私「まだ、謎があるなら、探偵はどうするのです? あるいは神でもいいですが」
尾崎凌駕「というか、作者はどうしたいのです?」
黒川「なるほど。現実とリンクしているとはいえ、これはフィクション」
私「やはり最後本格ミステリーとして閉じたい。密室の謎は解かれないと……」
黒川「そうですね。そうそう、尾崎凌駕さん、あなたが前言った意味が少しわかりましたよ」
尾崎凌駕「何でしょう?」
黒川「三島由紀夫が嫌いだと……」
尾崎凌駕「ええ。自殺するなら一人で完結してくれ。介錯はごめんだ。ははは」
私「本格ミステリー内に作家と犯人がいて、それが同一で……」
尾崎凌駕「つまり、それはSEの佐藤さん、あなた?」
私「ええ、その本格ミステリー作家がフェアなミステリーを目指していて……」
尾崎凌駕「それは、物語の中に手掛かりを埋め込む、と。その手掛かりから正当に推理すれば読者も真実に辿り着ける、と」
私「ええ。そして物語の探偵役と読者が完全に同じ情報を持てば……」
尾崎凌駕「その探偵役は私――尾崎凌駕」
私「ええ」
尾崎凌駕「つまり、あなたはフェアな本格ミステリーにするために手掛かりは埋め込んだ、と。それはつまり切腹に当たる。探偵はその手掛かりから推理して真相を突き止める。つまりそれが介錯!」
黒川「しかし、探偵は三島由紀夫が嫌いだと……」
私「介錯はしてくれない?」
尾崎凌駕「何とも言えない……」
それで沈黙が続いた。
尾崎凌駕「どうしても、というなら、次の章でやれるだけのことはやってみますがね」




