首はいずこに……
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
首はいずこに……
「首は今、どこにいるんでしょうね?」私は黒川に訊いた。
「首は生きてここにいますよ」黒川が笑った。
「生きている首――生首……」私がお決まりの文言で締める。
場所は医療センターの地下四階よりも更に地下の人体標本室――
「死んでますよね」生首の液浸標本をガラス越しに指でつつきながら黒川が笑った。
「首は生きてはいませんね」私も笑って返す。
「まあ、冗談はさておき……」黒川は右手を見せる。
「右手の小指触ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
黒川の右手の小指は本物だった。
「不思議ですか?」
「ええ」私は正直に言う。
「これもトリックなんでしょうか?」黒川は嬉しそうだ。
「できれば説明願えませんか?」私は正直にお願いする。
本当に彼の小指の存在は不思議だった。
「この夢の国では再生医療が進んでいましてね。イモリの遺伝子を使った人体実験で――」
「ここは現実の世界です。胡麻化さないでください」
「逆に訊きます。何故? 私の右手の小指があるのが不思議なんですか?」
「二十数年前には確かになかった。逆、二十数年前に小指があって、今無いのならわかりますが……」
「ということは?」
「あなたはあの黒川ではない?」
「ほう、あの黒川とは?」
「この『求めよ~』の少し前に書いた――」
「そもそも」黒川が遮る。「私の本名は黒川ではないですしね」
「そうですね。あのミステリーの最後の方、殺し屋の行方と最後尾崎凌駕に物申す、で、『名前は――そうだな、黒川でいいですよ』あなたがそう言ったからあなたは黒川になっただけで――」
「そうですね」
「それで、あなたを黒川という名前にして、この『求めよ~』の二十数年前別荘にて 一 を書いた」
「それはどういう判断ですか?」
「やはり顔です。私はあなたの名前は知らないですが、顔は憶えています。二十数年経ちますが……」
「ある企業の本社のエンジニア」
「ええ」
「で、小指の件はどう推理します?」黒川が笑った。
「ひょっとして双子ですか?」
「ピンポン!」
「私が二十数年前会ったのは青――」
「ええ、青山とでもしときましょうか? 実際は同じ苗字ですが――要するにあのミステリーでいえば、黒服と青服です。小指がない方が青服です」
「なるほど、氷解しました」
「二十数年前、私とも会ってたんですがね。あの別荘で」
「毎回小指を確認したわけではないので」
「そうですね」
「で、今日はどういう?」
「あのアンチ・ミステリーを二人で何とかしてミステリー、それも本格ミステリーにしませんか? そういう提案」
「あなたがやはり探偵役を?」私が訊くと、
「というか、私は現場にいたのでね」
「真相を知っている?」
「いや、まだ完全には……」
しばらく沈黙が続く。
「わかりました。私も真相が知りたい。まずは――」私は黒川の顔を覗き込む。「殺し屋首猛夫について教えてください。同僚だったのでしょう?」




