プロキオンの経理担当5
「慣れるものなの?」
「小さいころから、そんな感じだったから、違和感はなかった。うちは特殊な環境だから、別に違和感を感じなかったんだよ」
「え、ああ」と言われて、そう言えば、居住スペースの下で父親が働いているのだから、そうなるか。
「お父さんと仲はいいの?」と聞いたら、
「いや、それなりかな」
「ふーん。もっと仲がいいのかと思ってた」
「なんで?」
「修業ができてるから」
「修業?」
「占い師としての心得。うちとは違うからね。うちは、家で占っているけれど、別にそばに居たわけじゃない。占いだって、きちんと教えてもらったわけじゃなくて、いつの間にかやっていた感じで」
「別にいいんじゃないか、それで。お姉さんの方も修行してないんだろ?」
「占い師を親がしていることを恥ずかしがっているような姉だよ」
「そうだったな」
「それに現在、そんな家から離脱したがっているしね」
「ああ、そう言えば、どうなった?」
「姉の事? いや、相変わらず不機嫌だよ」
「お前を引き取りたいって話の方」
「母がきっぱり断ってくれたみたい。そのほうがいいんだよ」
「そうだろうな。そのほうがいいかもな」
「よくわからないんだよね。会ったこともない人がいきなり引き取りたいって言う気持ちが。ただ、母が言うには、お父さんが亡くなった時も、似たようなことを言ってきたみたいで」
「ふーん、そのころから訳ありかもよ」
「どうして?」
「母親がお前を手放したいと言う話をしたのなら分かるけれど、断るぐらいなら違うんだろ」
「そんな話は出てないよ」
「だったら、おかしな話だろ。お前は、確か中学生?」と聞かれてうなずいた。
「そして、現在も高校生。そんな年の子を、わざわざ引き取りたいって言うのなら、理由があるんだろ」
「どういう意味?」
「前にあったんだ。医者の家の子供で、医学部受験に失敗して、二人失敗した時点で、外孫に継がせたいから養子縁組をしたいって言う話」
「それはいくらなんでも」
「医者じゃなければ、孫でもない。そんな感じの家系だったみたいだ」
「ひどいね」
「で、もめにもめて、大変で、とにかく強引に引き取って、英才教育。無事医学部に受かったは、いいけど」
「いいけど?」
「遊びほうけて、卒業するまでかなりかかったと言う話」
「ふーん」
「医者になるまでかなりかかって。で、跡取りは別の人を候補に立てたみたいだけれど」
「え、だったら」
「医者にならなかった子供も、何とか医者になった孫の方も、言うことを聞かない状態になっていたみたいだぞ。家庭崩壊」
「なるほど」
「だから、気を付けたほうがいいな」
「え、じゃあ、いとこも」
「さあな。事情を確かめたほうがいいんだと思うよ」
「そう」東条さんがこっちを見ていて、
「そう言えば、さっきの話に戻すけれど、東条さんって、父親に一から占いを教えてもらったんじゃなかったっけ?」
「お前が誤解しているようだから、説明しておくけれど、うちの親父は親切でもなんでもない男だ。一から教えてなんてことはしない。そばにつけさせて、占いを見せてきただけ。それはただ、後継者がほしかっただけのことだ」と冷たく言い放った。
「そばに居て、注意され続けただけ。いかに客を満足させて、何度も通わせるかという秘訣を教え込んできただけだ」
「すごく辛辣な言い草だね」
「実際そうだ」
「え、でも、占いを教えてくれたんでしょう?」
「お前は何か勘違いをしているようだ。親父が教えてくれたのは、占いを商売にするにはどうしたらいいか、そう言う秘訣だ。占いの仕方を教えてくれたわけじゃない」
「え?」
「客商売だから、そのコツを教えてくれただけ。占いの内容を深めるような、そんな部分なんて、教わってないぞ」
「は?」
「それを教えてくれたのは、お前も知っている、灰野さんとか、そういう本物の占い師の方だ」
「本物?」
「お前もここに出入りしているから、なんとなく見分けがつくんじゃないか? そのうちね」
「えっと、灰野さんが占い師として素晴らしいことは分かるよ」
「どうせ、お前に絡んだ女って、エミーだろ?」
「ああ、膳場さんがそういうことを言ってたよ」
「板野恵美子。エミー板野って言う名前で、やってるよ。ただ、占い師としては本物じゃない。客あしらいは、上手だから、それなりに客が付いている。そう言う占い師だ。本物の方は、客あしらいよりも、占いの方を重視するかもな」
「意味不明だな」
「お前の先生も同じだろ。占い師として霊感がどれぐらいかは、俺は知らないけれど、顧客のことを一番に考えて占っているタイプじゃないか」
「え?」
「そのほうがいいんだよ」
「えっと」
「テレビ局に出入りしているから、占いの話は、あそこではしないほうがいいから、今しているけれど、ゲストのことに関して、あれこれ言うのもダメだし、下の階で、プロキオンの占い師の力量なども言わないほうがいい」
「言えないでしょ。わたし、人の事を言えるレベルじゃないよ。まだ、見習いだし。名前だって、急遽、学園祭用につけてもらった程度なんだし」東条さんがこっちを見ていた。
「いや、ある意味、お前のほうが占い師としては上なんだろうな」
「え?」
「既にね」と言われて、
「どういう意味なの?」と聞いた。
「親父がいるところでは、これ以上はやめておくよ。でも、今に分かるさ。灰野さんとの違いもね」と考え込んでいた。




