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娼年赤ずきんは暗殺者   作者: ナナシノネエム
第二章 とある少年の物語
12/19

娼年メイドは暗殺者

「あっ……」


 獣人のヴォルグは、その様子を見て呆気(あっけ)に取られていた。

 確かに、自分だってこの商会の会長を殺すことは考えてはいた。だが、まさか、こんなにもあっさりと、その怨敵がこの世から退場するなんて、思ってもいなかったのだ。


 そうしている間にも、吹き出す血の勢いはだいぶ弱まり、人間だった肉の(かたまり)は徐々に熱を失い始める。


「まったく。外の連中は何をやっているんだ? 部外者を侵入させるなんて、クソが……」


 少年メイドは乱れて顔に掛かった髪をかき上げながら、口悪く不満を漏らした。


 小声とはいえ、昼間とは全然違う口調の少年メイド。

 あまりの豹変ぶりに、昼間の少年と同一人物なのか疑わしく思えてくる。


「お前……本当にミトなのか?」

「……そんなやり取りをするほど、私たちは特別親しい仲ではなかったはずですが?」


 受け答えの際に、ミトの口調が丁寧(ていねい)語に戻った。しかし、それは心に壁のあるが(ゆえ)の敬語だ。

 少年メイドは目に見えて分かるほど邪険な態度で、辛辣(しんらつ)な言葉をヴォルグに言い放つ。


「今さら貴方にできることなど、何もありません。さっさとお帰りください。それとも、出口まで案内が必要でしょうか?」

「なんで、お前がこんなことを……」


 少年メイドは(さげす)むような、あるいは(あき)れるような冷たい視線で獣人ヴォルグを見つめた。


「私が暗殺者だからに決まっているでしょう? そんなことも察しがつかないのですか? その頭に、ちゃんと脳みそは言ってますか?」

「ば、バカにするな!」

「貴方がもう少し慎重な性格なら……リンスさん、でしたっけ? 明日にはその恋人と一緒に、故郷へ帰ることもできたでしょうに」

「ハアッ!?」


 ヴォルグは驚きの声を上げた。


「簡単に説明いたしますと、今夜レジスタンス組織がこの商会を襲い、奴隷たちをみんな開放する予定だったのです」

「な!?」


 そんなの、聞いてない。

 言ってくれれば協力したのに――レイノルズ商会襲撃のチャンスに乗り遅れたヴォルグは、そのことを惜しく思った。


「な、なら昼間に! そう言ってくれればよかったじゃねえか!?」

「貴方が信用できる保証が、どこにありましたか? 例えば、私たちを売って恋人だけ確実に取り戻す……そう考えないという保証が、どこにありましたか?」

「俺は! そんなことはしない!」

「だから、それが信用できないと……言うだけ時間の無駄ですね」


 そしてミトは眉間を押さえる。単細胞なヴォルグとの会話に嫌気が差しているようだった。


「第一、貴方からしても、私が貴方のことを報告している可能性だってあったでしょうに……」

「ハッ、それはねえな。こう見えて、他人を嗅ぐ鼻には自信があるんだ!」


 それは『人を見る目には自信がある』の獣人版だろうか? 妙に自信満々なヴォルグに、ミトは再び深いため息を()いた。


「とにかく、貴方は今からでも外に出てください。あとは私たちが――」


 ちょうどそのタイミングで、カーンカーンと警鐘が鳴る。

 ミトはジトッと懐疑的な目でヴォルグを(にら)んだ。


「……まさか、ここに来るまでに、誰かから目撃されていませんよね?」

「いや、何人かは仕方なかった。でも大丈夫だ。ちゃんと処理したぜ?」


 就寝中の従業員たちが騒ぎ出す。戦える者はすでに武器を取り、侵入者を探し始めているだろう。


「……ちゃんと?」

「ああ、ちゃんとふん(じば)って……」

「あーハイハイ。もう結構です。要するに、貴方のせいで騒ぎになったわけですね――オレの苦労を、台無しにしやがって!!」


 少年メイドはフリルのカチューシャを床に叩きつけながら叫んだ。


「ああもう! お前はさっさと行け! あとはオレ達がなんとかするから!」

「いや、ミト。俺も協力させてもらうぜ? 誰かが戦っているのに、俺だけ待つなんて、できねえや」


 我儘を言うヴォルグに、イライラした様子のミト。だが、口論する時間さえも、今は惜しい。


「クソッ! じゃあ、死なないように付いて来い。とりあえず、仲間と合流する!」

「おう、そう来なくっちゃな! 了解だ!」

「言っとくが、お前がピンチになっても、俺は助けないからな!」


 わざわざ警告してくれる少年メイド。

 ミトのその言葉に、ヴォルグはフッと笑った。


「なんだよ?」

「やっぱお前、良い奴だな。俺の鼻に狂いはなかったぜ……改めて、よろしくな、相棒!」

「勝手に相棒扱いするんじゃねえ!」


 ミトが不機嫌に言い放つと、ドアを開き、会長の死体が残る部屋を出る。

 それに続いて、ヴォルグも部屋を飛び出した。




 5/11追記)

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