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娼年赤ずきんは暗殺者   作者: ナナシノネエム
第二章 とある少年の物語
13/19

眠りの囁き

 死体が残る会長の寝室を後にした二人は、レジスタンスの仲間と合流するため奴隷たち……もとい、獣人を始めとする亜人たちが捕らえられている宿舎へと向かった。

 その際、戦闘はなるべく避け、不要な流血沙汰は(ひか)える。


 とはいえ、いくら気を付けていようと、この状況では一切誰とも遭遇(そうぐう)しないなんて無理な話だ。

 しかし、ミトは武装した敵と鉢合わせた場合でも――可能な限り相手を傷つけず、そして自身もほぼ無傷なまま無力化し続けていた。


 少年メイドの主な武器は投げナイフ。ただし、それには(しび)れ薬が()られている。

 だが、それだけでなく、彼は魔術も使えるようだった。


 むしろヴォルグが見る限りだと、ミト少年は相手を無力化するために催眠魔術を好んで使用している。


 今がまさにそうだ。仰向けに倒された巨漢の上に(またが)る少年メイド。

 彼は小柄な体躯で巨漢を押さえつけると、その胸ぐらを(つか)んで、まるで接吻(くちづけ)するような距離まで互いの顔を近づけた。


「――眠れ」


 たった一言。相手の目を見つめる少年が(ささや)くように詠唱すると、屈強な男がまるで糸が切れた操り人形のように抵抗を止める。

 そして、しばらくすると、男はそのままいびきをかき始めた。


 あまりにも鮮やかな手並み。

 その男を手玉に取る手際は、(はた)から見ていて……妙に(なま)めかしくすらあった。


「はい、終わりです」

「な、なあ。ちょっといいか?」


 先に(しび)れ薬を食らって倒れた警備員を衣類で縛り上げながら、獣人のヴォルグが(たず)ねた。


「どうしましたか? 静かに終わらせた心算(つもり)でしたが……何か問題でも?」

「いや、誰にも気づかれてねえよ、たぶん。そうじゃなくてさ……なんで、そんなに顔を近づけるんだ?」


 緊迫した場面のはずなのに、ビジュアル的には……そう、キス魔の美少女メイドが無理やり唇を奪ったような光景。そんなだったので、恋愛に初心(うぶ)なヴォルグはちょっとだけドキドキしていた。

 もしかすると、男を誘惑する小悪魔とか淫魔(サキュバス)ってやつは、こんな感じなのかもしれない。


「別に。ただ、催眠魔術は得意ではないので、こうしたのほうが確実だからです」


 居心地が微妙な獣人とは対照的に、少年メイドはさも当然のことのように答えた。


「……苦手なのに、催眠魔術?」

麻痺(まひ)毒は確実とは言えませんからね。かと言って、下手に濃度を上げれば死んでしまう可能性もありますし」

「まあ、そりゃそうだな」


 ヴォルグは使わなかったが、狩人仲間には毒を使う者もいた。ミトの言うことにも、なんとなく心当たりがある。


「そもそもナイフだって、相手を傷つけてしまいますから、なるべく使いたくないのです」

「へぇ……なんか、意外だな」


 ナイフを太もものホルスターにしまう少年から目を()らしながら、ヴォルグは言った。

 目を()らした理由はヴォルグ自身にも説明できないが……(めく)れたロングスカートから(のぞ)く少年の白い生足を見るべきでないと、何故(なぜ)だか思ってしまった(ゆえ)である。

 なお、今後は心の平穏のため、そっち方面の話題はスルーすることにした。


「意外って……私だって、快楽殺人鬼ではないんですよ?」

「そうじゃなくて。ほら、レジスタンスってさ、もっと非情な殺人テロ集団って聞いていたが……」

「これでも一応は“正義”を自称する組織ですから。一般人には被害を出さず、メアリス教の悪事を晒し、正当性を主張する……そのために、わざわざこんな七面倒臭(しちめんどうくさ)真似(まね)をしているのです」

「はぇ~」


 ヴォルグの、なんとも気の抜ける返事。

 だが、続けて少年メイドは、ヤレヤレといった態度で続けた。


「――と、ボスは申しておりました。まあ、正直なところ、あまり意味ないと思いますけどね。結局何をしたって、上級聖民は批判するんですよ。」


 実際、世間では『非情な殺人テロ集団』なんて言われているようであるし、レジスタンス面々の涙ぐましい努力に意味は無かったみたいだ。


「レジスタンスも、けっこう大変なんだな……ところでさ、なんで敬語に戻ってんだ?」

「……唐突ですね?」

「しょうがねえだろ。気になるんだからさ」


 いつの間にかミト少年がよそよそしい態度に戻っていた。一見するとどうでもいいことだが、ヴォルグにとっては調子を狂わされるという意味で大問題だった。


「申し訳ありません。()()()の前で、はしたないところを……」

「いや、もう本性知ってるし。そんな馬鹿丁寧(ていねい)な言葉遣いは要らねえよ」

「……そうか。じゃあ言い直す」


 少年メイドはにっこりと営業スマイルを浮かべ、そして言った。


「――オレが敬語で喋るのは、お前に相棒扱いされるのが心底不快だからだよ♪」


 要約すると、心理的に距離を置きたいという意味である。


「って、ヒデェな!?」

「さ、こんなくだらないことを話している暇はありません。速く進みましょう」


 言うや否や、暗い廊下を音も無く駆け出す少年メイド。

 あわよくばヴォルグを置いてけぼりにしよう……そう言わんばかりのスピードであった。


「あっ! ちょっと! 待てよ!!」


 続いてヴォルグも、森の狩人らしい静かで速やかな動きで少年メイドを追った。




 第一話を修正。原文をR-18版として再投稿いたしました。

 この際いっそのこと、ノクターンでも活動を始めようかと思ってたりなかったり。

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