9 別れと出会いの季節?
「よーっし! こっちだ!!!」
「いや、まずはこの瓦礫から片付ける方が早い!」
カーンッ、カーンッ……。 俺が白髪の男を倒してから2日後。
フーゼル村ではルルミアからその知らせを聞き戻ってきた村人達によって村の復旧作業が進んでおり、瓦礫の撤去や家屋の再建が急ピッチで行われている。
「それにしてもタイチ様! 今回の事は本当にありがとうございました!」
「全くですな村長! タイチ様こそまさに神が我らに遣わされた救世主に違いありません!!」
ハハハハッ!!! フーゼル村の村長であるへスタと数人の村人は、村の中央広場に置かれている丸太に腰かけている俺の前で嬉しそうに笑い声を上げる。
この2日間、ずっとこの調子だな……。
笑い声を聞きすぎて、流石に耳が痛くなってきた。
「それはもういい。報酬はきちんと貰ったし、その分の仕事だと思っているしな。あと、タイチ様って言うのは止めてくれ……」
「何を仰いますか!! あなたに敬称を付けず誰に付けよと言われるのですか!! タイチ様の事は子々孫々に至るまで語り継がせていただきますぞ!!」
……や、やめてくれ。
そんな仕打ち、引きこもりニートだった奴には耐えられない!!
はぁ……。俺はなおも口を開こうとするが、大きく笑い声を上げるへスタと村人達には何を言おうと無駄な事を悟ると、頭を抱えうなだれるのだった。
しばらくするとそんな俺の元に、復旧作業を手伝っていたエイラ達が戻ってきた。
「どうしたのですか、タイチ様??」
「……いや、な、何でもないんだ。それよりも、かなり時間を食ってしまったな。そろそろ、ここを出発すしようと思うんだけど……」
「え、もうですか?! もう少し皆さんのお手伝いをしたかったのですが……」
「俺達の旅の目的はエイラを暮らしていた地に届けることだ。それに俺は早く家に帰りたいんだよ……」
むーっ……。 エイラは俺の言葉に不服なのか、頬を膨らませ俺に何か言いたげな様子だった。
だが俺に対し口を開いたのはそのエイラではなく、後ろで俺達の会話を聞いていたルルミアの方だった。
「……分かりました! では、私もタイチ様にお供いたします!! 村長!! お許しをいただけますでしょうか??」
はぁ?! いやいや、何を言ってるんだ??
これ以上人が増えるのなんて御免だぞ??
「ふむ……。そうだな、お前がそう願うのなら私は止めはしない。それにタイチ様がお側におられるのなら心配ないしな!!」
ガハハハハ!! へスタは目の前で膝を付き頭を下げるルルミアの肩に手を乗せると、豪快に笑いながらその願いを受け入れた。
「いや、何勝手に話を決めてるんだ!! 俺は絶対連れて行かないぞ?!」
……な、なんだその顔は。
まずい……、あの顔はどこかで見たことがある気が……。
ゴクリッ……。 俺はへスタの言葉で立ち上がり笑みを浮かべ自分に近づいてくるルルミアの表情に、エイラが自分を連れ出す際に浮かべた表情が重なり、背筋に嫌な汗が噴き出るのを感じる。
しかしルルミアはそんな俺の元まで進んでくると、口に手を添え、俺の耳元に顔を近づけると小さな声で話始めた。
「いいんですか?? 私はタイチ様がアンデッドだってことを知ってるんですよ?? せっかく村長達には黙ってあげているのに、そんな事を仰るのなら喋っちゃいますよ??」
……はっ!! 何この子、俺を脅してる!!
「な、な、何を言ってるのかなルルミアさん?? そのことなら黙ってるって約束であの日に話が付いているだろ??」
「そうですけど、ただの口約束ですし……。タイチ様がアンデッドだって知ったら、報酬は取り上げられるかもしれませんね。いや、それどころか国中から討伐の対象として追われることになるかも……」
うっ……。 確かにルルミアの言う通りだ。
俺が特殊アンデッドだとバレると、面倒なことになることは目に見えている。
それどころかあの家も冒険者によって……。
ルルミアはそこまで言うと、再び笑みを浮かべながら俺の耳元から離れ、背中の後ろで手を組み俺を見つめる。
その後しばらく考えた後、俺はがっくりと肩を落とすと、一つしか残されていないであろう答えを口にした。
「……はぁ。分かった、分かったよ!! 連れて行けばいいんだろ、連れて行けば……」
「はい!! では、よろしくお願いしますねタイチ様!!」
「やったぁぁぁぁ!! ルルミアさんとこれからも一緒にいられるーー!!!」
ガシッ!!! 話を聞いていたエイラは勢いよくルルミアの体に抱き着き満面の笑みを浮かべた。
またその光景を眺めていた俺以外の者達からは、大きな笑い声が起きるのだった。
ガタンッ、ガタンッ。
次の日、俺達はフーゼル村から離れた小道の中を進んでいた。
それにしても、荷車がこんなに楽だとは思わなかったな。
少しお尻が痛いが、歩くよりはずっとマシだ。これならかなり早く旅を終えることが出来るかもしれない。
俺達が村を出発した今朝、へスタの計らいで襲撃により持ち主が死んでしまった荷車と馬一頭を譲ってもらった。
俺は馬は扱えないと断わったのだが、ルルミアが扱えるとのことで半ば強引に譲られたんだけどな……。
「それでルルミア。これからどこへ向かうんだっけ??」
俺は今朝のへスタの強引な手法を思い出し小さく苦笑いを浮かべると、自分の隣で手綱を握り馬を操っているルルミアに尋ねる。
「えっとですね、次の目的地はギュースト市です」
ギュースト市……。確かへスタとルルミアが討伐依頼のために行くはずだったこの辺りでは一番大きな街だったよな。
「ギュースト市はこの地域では最も栄えている街です。まずはそこで旅の道具や食料などを揃えた方がいいでしょうね。 それにタイチ様たちの身分証明書も発行しないといけませんし」
「身分証明書?? なんだそれ??」
ルルミアは俺の言葉に少し驚いたような表情を浮かべた後、片手で腰のポーチの中から丸められた一つの巻物を取り出し俺に手渡した。
恐らく俺がアンデッドだということを思い出したのだろう。
「……これが身分証明書か。名前と、これは血……か?」
「そうです。これは名を書かれている者、つまり私の血を登録しているので身分証明書の偽造は殆ど不可能。なので自分の身分を証明する際には必ず提出しなければならないんです」
「なるほど……。それでこれが無いと何か困ることがあるのか?」
ルルミアは中身を読み終えた後、俺が返した身分証明書を再びポーチの中へと戻すと、その質問に答えていく。
「当たり前ですよ! 身分証明書がなければ王国内の街での滞在期間も限られますし、何より街にも入れないことが多いんです!!」
「えっ!! それはマズいな……。てか、それなら俺ギュースト市にも入れないんじゃ……」
「いえ、今回は私がタイチ様の身元を保証するということで大丈夫だと思います。なのでまずはギュースト市に入れば身分局に行くことにしましょう」
うーん……。意外とこの世界も面倒くさいんだなぁ……。
いや、それだけ社会が発達していることか。
あ、でもそういうことなら……。
俺はルルミアの言葉であることに気づくと、後ろの荷車の中でルナと遊んでいるエイラに振り返った。
「なぁ、エイラ。お前も身分証明書を持っているのか??」
「わ、私ですか?? 私も以前は持っていたのですが、奴隷商に捕えられたときに奪われてしまいまして……」
そう言えば、エイラは奴隷商の捕まって奴隷にされてたんだったな……。
悪いことを聞いてしまった……。
奴隷だったころの事を思い出したのか、エイラの表情はみるみる暗くなり、その表情を見た俺も言葉に詰まり何も言えなくなった。
だがそのことに気づいたルルミアは、馬を止めるとエイラに振り返り優しく話始める。
「大丈夫よ。人攫いによる奴隷は法に違反しているし、正規の手続きでないエイラさんのことを奴隷商も奴隷として登録出来ていないはず。 身分証明書は身分局で手続きすれば再発行してもらえるわ」
「ほ、本当ルルミアさん?!」
「ええ! だから元気を出してねエイラさん!」
「はい!! ありがとうございます!!」
おぉ……、やっぱり女性同士の方がこういう時はいいんだな。
まるで年頃の娘を持つ父親になった気分だ……。
2人の会話を聞いていた俺は、一気に表情が晴れたエイラの顔に安堵の表情を浮かべる。
しかしその会話を聞いていたもう1匹のルナは、我慢できなくなったのか俺に声を発した
「タイチ様!! 私はいかがしましょうか?!」
ルナか……。まぁこいつは大丈夫だろ、猫だし……。
「……お前は、うん。まぁペットってことで大丈夫だろ」
「ぺ、ペット……。」
ガクッ……。ルナあまりの衝撃で、荷車へと倒れ込む。
それに気が付いたエイラが急ぎ側に駆け寄ろうとしたその時、再び馬を走らせていたルルミアが声を上げた。
「タ、タイチ様!! あれを見て下さい!!」
な、なんだ……??
あれは馬車か……? いや、そうだとしたらなんであんなにボロボロに……。
ルルミアが指差す先に俺が視線を向けると、そこには片側の車輪が外れ地面に倒れている馬車があった。
その前には馬の死骸もあり、何者かに襲撃されたであろうことが見て取れる。
かなり豪華な装飾がされているからな。大方金目当てで襲われたんだろうが……。
「タイチ様、いかがしますか? もしかしたらまだ誰かいるかもしれ……」
「ダメだルルミア! すぐにここを離れるんだ。あれを襲撃した奴らがまだ近くにいるかもしれないだろ」
「は、はい、分かりました!」
パンッ!! ルルミアは俺の言葉で急ぎ手綱を強く握ると、馬を一気に走らせる。
しかし、襲われた馬車の横を通り過ぎる際、荷車から眺めていたエイラが突然声を上げ、ルルミアに停車するよう求めたためルルミアは慌てて手綱を引き馬を停車させた。
「お、おいエイラ!! 一体急にどうしたんだ?!」
「あ、あの中にまだ人が……!!」
エイラはそう言い残すと荷車から降り、急いで馬車まで駆け寄るとその中から額から血を流している1人の男性を助け出したのだった。
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