衝撃の事実(転)!
「凄い! 身体の竜が 竜が ほんの少しだけど 下に降りている。下に降りている!!」
シュリーちゃんが 突然驚いたように声を上げる。
「ルナマリア様が 黒い霧を吸い取ってくれたからです。間違い無いです。呪いの進行が 少しほんの少しだけど 妨げられている」
おそらく初めての事なのだろう。シュリーちゃんは興奮覚めやらぬ感じである。泣き止んで嬉しそうである。
「呪いの進行を遅らせる事が出来たのね」フローラがつぶやく。
『そうか。竜が昇ってしまうと シュリーちゃんは死ぬ。呪いの進行の目安だから 下に降りたのであれば 進行を遅らせる事に成功したって事か。なら 全部吸い取れば、、しかし あの量であれだけの力を使う。全部を吸い尽くすのは 不可能だろうね。それにシュリーちゃんの身体も耐えられそうに無い』
「ルナマリア様 本当にありがとうございます!本当にありがとうございます!」
シュリーちゃんは そう言うと私の手を握り締めて 何度も何度も頭下げる。
『よっぽど嬉しかったんだなぁ』
「そこでこれからも ルナマリア様に・・・」
シュリーちゃんはそう言って 急に言葉の続きを遮り 俯いて 黙ってしまった。
シュリーちゃんが言おうとした事は 私には何となくだが直ぐにわかった。
多分『これからも私に呪いを吸い取って欲しい』とお願いしたかったのだろう。だが私に何のメリットもない事が シュリーちゃんには直ぐにわかったのだろう。自分のために私にリスクを背負わせる事を心配したのだろう。優しいね。自分の方が辛いのに。。
シュリーちゃんの胸部には黒い竜が居る。目がこちらを見ている気がする。禍々しさで溢れている。
「シュリーちゃん 胸の竜を触らせてもらっても良い?」
「え!? いいのでしょうか?」
「うん!」
私は ゆっくりと竜の目を右手で触れる。
目を閉じて 呪いの深層に自分の思念を 入り込ませる様に 染み込んでいく様に。ゆっくりと。
『背中の竜は 意志ある呪神と繋がっているな。。直接のコントロールは不可能だ。だけど この感じ、、呪神にまで思念を送れそうな、、』
私は 呪いと呪神が繋がっている事を感じ取っていた。私の思念を呪神に送れそうな気はしたが 思念を送って シュリーちゃんに何かトラブルが起こる可能性を考え 思念を送らなかった。
だが 突然 脳内に直接声が聞こえた。
『ほぉー。神の1柱たる我と思念を共有する事が出来るとは 驚きだな』
『この威圧感。なるほど これが呪神エバーンスゾン様!!』
「呪神エバーンスゾン様でしょうか? 私は『ルナマリア ハウライト』初めて あなたと会話を致します。よろしくお願い致します」
私はなんとなく頭を下げる。
『ほぉー!! 呪神エバーンスゾン?? 我が 名乗った訳では無いがな。人族からは その様に呼ばれておる様だな。しかし 我と思念を共有するだけで無く 会話まで可能とは。本当に驚きだ』
「会話が可能って やっぱり凄い事なんですかね? ですがあなたが呪詛を飛ばした際 あなたの言葉を聞いた者がいるのですが。いつでも会話が可能なのでは無いのでしょうか?」
『我が言葉が 人族に聞こえるのは当然だ。それは神の1柱たる我の言葉。人族はそれを『神託』と呼ぶ。だが神の1柱たる我には 人族の言葉は届かぬ。人族の呼ぶ『願い 祈り』は勝手に行っているだけ。『拾う 拾わない』は 神次第だ。それは会話とは呼ばない。そもそも会話ですら無い!『願い 祈り』は我には届かぬ。我は全く拾わぬからな。だから会話とは対等に近しい者同士で初めて成り立つ行為。だからこそ驚きだ』
「なるほど。では会話が成り立っているという事は 私はあなたと対等に近しい者なのでしょうか?」
『わからぬ。この様な事は 永きに渡る時の中で 今迄1度も無かったからな。だが 存外そうなのかもしれんな』
「そうですか。ではこれは『願い 祈り』にあたるかと存じます。この呪いをご存知かと思います。解いて頂く訳にはいかないでしょうか?」
『ははは。我が 1度 呪詛を飛ばしたなら それは死ぬか 俺の慈悲を得るか どちらかでしか解呪されぬ。解呪したくば 我が前まで来い。我にその力を示せ。示した力に応じて 慈悲を恵んでやる』
「なるほど。なるほど。わかりました。ですが あなたを倒せ。とは言わないのですね?」
『そうだ。我は神の1柱 人族で我を倒すのは不可能であろう。だが力を示した者には 慈悲を恵んでやる。嘘は無い。神の1柱であるからな。だが そなたなら 我と対等に戦う事も可能かもしれんな』
「なるほど。なるほど。力を示せば良いのですね。ちなみに その力とは一体?」
『力とは 純粋な力だ。他に無い。うん? なるほど。そなたは 確かに面白いな。はははは。珍しいな。楽しめそうだ。そなたが我が前に来れば わかる』
「では 私はあなたの前に立つ事を約束致します。必ず!その時を楽しみしておいて下さい。よろしくお願い致します」
私は再度なんとなく頭を下げる。
『はははは。わかった。永きに渡る時の中で 楽しみなど 久しぶりよ。では そなたは力を示さねばならん。我と会話出来る者よ 我が礼節を尽くそう。特別に我が眷属を何度か送ってやる。それを乗り越えて来い。その都度に 慈悲を恵んでやろう。そなたも楽しみにしておれ。我も楽しみにしておる』
そう言うと 呪神エバーンスゾン様の思念が消えた。
「はぁはぁ」
『眷属を送る? 慈悲とは?』
息が切れる。息が切れるなんて それこそ珍しい。この力を手にしてから 初めての事だ。力も随分と引き抜かれている感じがする。疲労感が凄い。
『あれが 呪神エバーンスゾン様。会話をするだけで これとは、、流石ですね。。』
「アルジンネード様 どうして アルジンネード様との会話は 全く疲れないのでしょうか?」
『お前は俺の寵愛を受けているからだろう』
「ところで エバーンスゾン様ってどんな神様なのでしょうか?」
『あいつは火の神龍でな。竜族は全部あいつの眷属だ。確か、、うん? でも何年か前に 悪さをやり過ぎて 1度ラバーダ様に叱責されて大人しくなってたはずだけどなぁ』
「ところで アルジンネード様は エバーンスゾン様の呪いを解呪出来無いのでしょうか?」
『無理だな。奴はこの世界の闇を司る神だ! 俺は戦いを司る神。領域が全く異なる。それに元々俺達の力は拮抗している』
「ふーん。。そうですか。残念」
「ルナマリア様 大丈夫でしたでしょうか?」
シュリーちゃんが心配そうな顔をして私に聞く。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ。呪神エバーンスゾン様と会話をしたの」
私は正直に話す。
「はい、、会話の内容を ルナマリア様のお言葉だけでしたが聞いていました。なんとなくですが、、わかります」
シュリーちゃんは困惑している。
「ルナマリア様。その、、私の呪いのために。呪神エバーンスゾンの前に立つおつもりなのでしょうか?」
「うん。結果的にはそうだね。。呪神エバーンスゾン様とも約束してしまったからね」
「す、すいません。ルナマリア様には何のメリットもありません。。ご迷惑をかけしたくなかったのに、、」
「シュリーちゃんは優しい! 乗り掛かった船だよ。出来るかどうかはわからないけど。やれる事はやってみるよ」
「私も手伝うわ!」
「私だってお手伝い出来る事がありましたら 何でもおっしゃって下さいね」
「み、皆様、、ありがとうございます」
「でも ルナマリア様はお強いです! 本当にお強い! 私なんか、、諦めていたのに。呪神エバーンスゾンの前に立つ事を約束なさるなんて」
「ひとまず シュリーちゃんの呪いは 私が定期的に黒い霧を吸い取っていく事で しばらくはコントロールが可能だと思うから。だけど呪神エバーンスゾン様の御力は凄い! 侮れない。やっぱり解呪出来無ければ 根本的な解決にはならない。私は呪神エバーンスゾン様の前に立つよ。必ず立つよ!約束もした。でも今のままでは駄目なので いろいろと準備を整えて力を蓄えてから タビーン火山に行く事を決心したよ」
『今のままでは 呪神エバーンスゾン様に交渉を行う事は難しい。もっともっと自分を鍛えていかないと』
「本当に、本当に、すいません。その時は 私も是非お供させて下さい。よろしくお願い致します」
シュリーちゃんは私に頭を下げた。やっぱりシュリーちゃんは優しい。