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桃始笑 ~和色男子。~  作者: 島津 光樹
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九 鶸

    九 鶸


 僕と桃が入省してから二度目の試験で、からくり作りの腕を買われた真朱が入省してきた。僕、真朱がちょっと苦手。最初の印象が悪かったの…。


 警邏から戻って桃の所に行こうとしたら、僕よりずっと背の高い少年期の子に声を掛けられた。

「あ~、鶸ちゃん!オレ、今年入った真朱てゆ~の、ヨロシクね~。桃ならいないよ。さっき、山鳩様に連れて行かれたから。」

「あ…。そうなんだ…。教えてくれて、ありがと…。」

 なら先に日報を書いてしまおうと室内に入って机に向かったら、着いてきて向かいに腰を下ろした。

「な、何?」

「べっつに~。オレ、前代未聞の二人に興味があって来たから、観察したいだけ~。」

「……。」

 見られていると落ち着かない…。しかも手にした変な棒をずっと僕の前で振ってる。気が散って仕方なかったけど、なんとか書き終えた。すっと席を立ったら言われた。

「ん~。なんて言うか~、鶸ちゃんは普通だね。」

「フツー?」

「そ。少年期でありながら六省の試験に受かった前代未聞の二人って聞いてたから、どんなにすげ~奴等なのかな~って思ってたんだけど~。(手にした棒を指で回しながら)今測った限り、霊力は普通だし。足は遅くて鈍くさい。しかもここ、(と僕が書いた日報を指差して)誤字してる。」

「あっ…!」

「強いて言うなら、顔は可愛いよね~。だから、鶸“ちゃん”。今のところ、君の凄さは飛ぶ速さだけだね~。面白くないな~。だからオレ、桃を観察する事にする。アイツ、面白いし~。」

 そこまで言うと「じゃあね~」と手をひらひらさせて行ってしまった。

 …何!何っ?ちょっと失礼じゃない!?


 最初がこんなだったので、僕と真朱の仲は微妙。でも、僕が一方的にそう思っているだけで、真朱は僕の事なんとも思ってなさそう…。六省内において少年期の者は四人だけだから、必然的に一緒に過ごす事が多い。僕と違って桃は真朱と仲良しなのも、何気に面白くない。今日は真朱が皆におやつをご馳走するっていうから、義省の庭に集まった。

「じゃ~ん。これ、新しく作ったからくり。」

「おー!すげー!これは何が出来るんだ!?」

 真朱が謎の筐体に付いてる蓋を開けたら、中央に棒があった。何に使うのか皆目見当がつかない。

「ここに~、買って来たザラメを入れると~?」

 ガショガショ言いながら、からくりが動きだした。真朱が菜箸を手にしてかき回すと、雲みたいな物がどんどん大きくなった。

「ほい、完成!名付けて雲砂糖。食ってみ、お前ら。」

 早速、桃が口を開けて頬張る。

「――!すげー!なにこれ!?ふわふわしてる!美味いぞ、鶸も食べてみろよ!」

「あ、うん…。」

 桃が齧ったすぐ近くを口にする。

「…!ホントだ、ふわふわで甘い…。」

 それを聞いた半が手を伸ばした。むしり取って口にした。

「新食感…!有りだね…。」

「だろ~!これは売れると見た!早速、屋台の奴等に売り込みに行こうかな~。」

 フンフン鼻歌を歌って楽しそうだ。

「真朱はすげーな!」

 続きを食べながら、桃が目をキラキラさせて言う。

「ま~ね。オレの育った里はたたら製鉄が盛んだから、金属を加工していろんなからくりや装置を作ってっから。オレ、霊力はあんま無いけど、天才だから。」

「天才…?」

「そ、天から才能を与えられし者、の略。分かる?鶸ちゃん?」

 こういうトコ、ちょっとムッとする。

「うん…。」

 でも、この雲砂糖とかいうのは、美味しいかも。

「他にも作ったからくりがあんだけどさ~、ちょっとオレだと霊力が足りないみたいなんだよね~。だから~、桃やってくんね?また違うおやつが出来るからさ~。」

「お!やるやる!」

「そんじゃ~、これ。」

 ガラガラ引きずって持って来た。カパッとからくりの口を開けて、何かを放り込むと桃に向き直った。

「じゃ~、ここ持って~。」

「おう…」

「念じて~。」

「何を?」

「ん~。美味しくなぁれ、でいいかな?」

「わ、分かった…。「美味しくなぁれ!」」

 桃が目を瞑ってそう言った瞬間、からくりがボボン、ボンボン!と次々にすごい爆発音を立てた。

「うわっ!」

「何なにっ!?」

 吃驚してる僕達を置き去りにして、真朱は両手を叩いて楽しそうだ。

「わ~お!さすが、桃!高霊力!もういいよ!手を離して~。」

 そうして、からくりの口をあけたら、香ばしい匂いがした。

「ほい、すごい音したから、これは名付けてボン菓子。食べてみ。」

 アツアツを僕達の掌に載せてくる。口にいれたら、さっくさくだった。

「なんだ、これ!?すげー!!」

 桃が感心して食べてる。

「いろんな味に出来る。」

 真朱はそう言うと、小瓶を取り出して、僕達の手のひらにあるのにかけた。

「こっちは塩、こっちは砂糖。食感は同じでも味が違うとまた違う物になる。」

「ホントだ…。俺、塩味好きかも…」

 ポリポリしながら半が言う。

「僕は…お砂糖の方が好き、かな?」

「俺っちは、両方好き!」

 桃が屈託なく言った。

「うん。桃がいなければこれは出来なかったから、好きなだけ食べて~。んで、また実験に協力して~。」

「分かった!まかしとけ!」

「ヨロシクね~。あ~、あれだな!これの味付けについては甚さんに相談してみるもの有りだな~。」

「甚さんのご飯は何食べても美味しいからな!有りだよ、真朱!俺っち、醤油味も欲しい!」

「醤油味…。有りだね、採用!うん…」

 フンフン鼻歌を歌って、帳面に何やら書きつけている真朱は楽しそうだ。こういう時、僕と半は二人の会話に入れない感じ。僕達は、大人しくおやつを食べた。


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