二十 桃
二十 桃
鶸の部屋の窓まで辿り着いたものの、鶸の様子が変だ。木戸を開けてくれないし、俺っちの話を聞いてくれない。「聞きたくないっ!」「やだっ!」と駄々っ子のように繰り返す。挙句にそれを俺っちのせいだ、と言い張る。
…なんで?ここまで鶸に拒絶された事は今まで無かった。ひどく傷つく。暫く言い合った後に、木戸の向こうで「もういい…」って言われた。こっちの話を聞いてもらえないまま、話をおしまいにするつもりか?そんなんぜってーやだっ!この気持ちを伝えないまま、終わらせてたまるかよっ!
「全然良くないっつーの!あ~っっ!もうっ!!埒が明かないっ!鶸、ちょっと向こう行ってて!」
それから、少し後ろに下がる。すーっと息を吸ってから、勢いよく木戸を蹴り飛ばした。鶸に当たってないといいけど…。ガコン!と音がして、木戸が室内に落っこちた。窓枠を掴んで室内に入る。こっちを振り向いて固まっている鶸がいた。笑った方が可愛い鶸がべそをかいてた。
「全く…。泣いてんじゃねーか…。ほら…、泣くな…。」
手拭いを出して、涙と鼻水を拭いてやった。それから、謝った。
「ごめんな…。お前とお揃いの砂金粒を失くさないように持ち歩きたくて指輪にくっつけちまったんだけど、勝手にそんなんされたら嫌だったよな?でも…、そんなに泣く程嫌がられるとは思わなかった…。ほんっとーに、ゴメン!」
それを聞いた鶸が吃驚して目を見開く。
「え…?指輪?何のこと?」
「え?勝手にくっつけられたのが嫌で、怒ったりしてたんじゃないのか?」
「ち、ちが…。も、桃が真朱に…」
真朱の名前を聞いた時にピンときた。
「あ~っ!なんだよ、真朱の奴!鶸にばらしたのか!どうせ、あれだろ?「ゴミみたいにくっつけて」とか言ったんだろ?器用な真朱と違って、俺っちは初めて作ったんだから、不格好でも仕方ないじゃん!職人に頼むって手もあったけど、大好きな奴には自分で作った指輪をあげたかったんだよっ!」
「え…?」
しまった!
「あ…。」
慌てて口を押える。全く…俺っちって奴は!何やってんだよ…!ちゃんと格好良くキメようと思ってたのにぃぃーー!!。
「も、桃って…、ぼ、僕が好きなの?」
鶸が俺っちの目を見て、震える声で聞いてくる。
「そ、そーだよっ!」
恥ずかしくなって怒鳴った。もう、どうにでもなれっ!
「…うそ…」
「嘘じゃねーしっ!」
「ほんとに…?」
「本当だってば!」
ムキになって言い返してしまった。こんな告白のされ方、逆ギレみたいで最低じゃん…。俺っちを怒らせたと思ったのか、鶸が俯いて言った。
「だ、だって…。僕…、これまで一度も桃に「好き」って言ってもらった事ない…。」
「そ、そんなワケ無…」と言いかけて、思い当たる。
「いや…、あるか…。その…、照れくさいと言うか…、その…。で…、でも、お前の「好き」と俺っちの「好き」が違ったら困ると思ったら…、言えなくてだな…。で、でもっ!俺っち「一蓮托生」ってお前にしか言った事ねーし!」
言ってるうちに恥ずかしくなって、またムキになってしまった。
「う、うん…。」
そう言うと鶸は黙ってしまった。その沈黙と自身の衝動に耐えられなくなって、鶸をぐいっと抱き寄せる。鶸はすっぽり俺っちの腕の中だ。耳元でそっと聞いてみる。
「お前こそ、本当に分かってんのか?俺っちの言う「好き」って…その…。…性欲込みだぞ。」
「セーヨク?」
きょとん、と見返してくる鶸が堪らなく可愛かった。
「あ~っ!も~!俺っちはお前とこーゆー事したいって、いっつも思ってんの!」
鶸の肩を掴んで一旦体を離してから、今度はぐいっと鶸の顎を掴んで上を向かせた。
「え?」
何が起こっているのかさっぱり分からないという顔をしている鶸の目に自身が映る。覚悟を決めろ、俺!と心をくくった。夢にまで見た鶸の唇に触れる直前は、心臓が爆発しそうで目を瞑った。
チュッ。
遂にやった!緊張のあまり、すぐに離れた。自分が想像していたよりもずっと鶸の唇が柔らかくって吃驚した。そんでもって、目を開けて、更に吃驚した。
目の前に――大きくなった鶸がいたからだ。
「…マジで?…やべー…」
言葉にならなかった。大きくなった鶸はどんな風になるんだろうと想像した事はあったが、自身の想像を遥かに超えて綺麗になっていたからだ。まだあどけない可愛さを残しつつ、綺麗に整った顔立ち。さらさらしてキラキラしている髪の毛。陶器みたいに白くてすべすべの肌にあるお日様みたいな目をまん丸にして、鶸がこっちを見ていた。




