飲み比べ-我慢比べ-
注がれた大ジョッキ、ビールゴクゴクと飲み干す俺とバッカス氏。
「いい飲みっぷりじゃねえか。兄ちゃん」
「そっちもな」
「さぁジャンジャンやってくれ」
今度は一回り小さな中ジョッキがテーブルに置かれるビールではなく赤い液体。赤ワインがなみなみ注がれている。
容器が小さくった代わりにアルコール度数が上がっている。
いつの間にか俺達のテーブルを囲うようにギャラリーが出来て賭け事とはやし立てる声が聞こえる。
ワインもゴクゴクと飲み干す。ビールよりキツイ。
バッカス氏は平然している。堪えた様子はない。
「どうする?もう降参するか?」
「いや、まだ平気だ」
「ジャンジャンいこう」
ドン。一回り小さいグラスが置かれる。水のように透明飲んだことがない。
「これは・・・?」
「焼酎っていう異国の酒だ」
飲むとワインよりも喉が焼ける。果実というより穀物、芋っぽい風味がする。
飲み干すことは出来たが胸が熱い。一気に酩酊感が広がる。
「やるじゃねぇか!でもそろそろキツイんじゃないのか?」
「うぷっ、ま、まだいけるぜ」
「アーク、本当に大丈夫・・・?」
「十分検討したと思うんだがまだやるのか?」
イリアだけでなく店員さんもとい、マスターにも気を遣われる。まぁ、周りから見ても今ヤバイ状態になってるわけか。世界がちょっとグニャグニャしてる。このままだで勝ち目はない。何か解決策を探すために保有スキルの一覧を確認する。
熊パワー?駄目だ。力で酒は薙ぎ倒せない。狼の俊敏さもフクロウの目も同様だ。第六感?嫌な予感がビンビンになるだけだろ。悪食、悪食・・・?
藁にもすがる思いで悪食の説明を読み込む。どんな物を食べてもお腹を壊さない。食べられる。これはいけるか・・・?
駄目元で悪食起動。すると効果は瞬時に現れる。世界の揺れは収まり思考がどんどんクリアになってゆく。ビンゴ!
「イリア、大丈夫だから。任せてくれ」
「無理、しないでね」
「まぁ、そこまで言うなら続けるが・・・」
更に小さなグラス。今度は琥珀色の馴染みのある酒。ウィスキーだ。
口に含むとアルコールが感じられない。まるで水のようにサラサラと喉を通り胃に収まる。全く辛くない。
バッカス氏の様子を見ると逆に辛そうに見えなくもない。
「ギブアップするなら今の内だぜ?」
「お心遣いありがとう。じゃあ続けようか」
より小さなグラスがテーブルに置かれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「まだやるか?」
「お、俺の負けだ」
顔を真っ赤にしたバッカス氏が負けを認める。言い終えると椅子から転げ落ちそうになって慌てて受け止める。
周囲から喜び1割、悲鳴9割で叫び声が聞こえてくる。俺の倍率だろうか?どうやら俺は万馬券だったらしい。
「いやぁ、バッカスに勝つとは思わなかったぞ。しかしどんな仕掛けだったんだ?途中から人が変わったように飲み干してたが」
「不正はしてないです。まぁ企業秘密ってことで」
マスターに曖昧に返事をしてみる。本当に不正はしていないが・・・機転を効かせられたということにしてほしい。手持ちのスキルを精査していなかったら酔いつぶれていたのはこちらの方だ。酒豪を豪語するバッカス氏はその名に恥じない飲みっぷりをしていた。今回は相手が悪かったということだろう。
泥酔状態も良くないと思うのでバッカス氏にローヒール(下級回復魔法)をかけて介抱する。暫くすると効果を表れ目を覚ます。
「ん?・・・俺の負けか。いやぁいい飲みっぷりだったな」
「そっちもな。体調はどうだ?」
「すこぶる調子がいい。何かしてくれたのか?」
「具合が良くなったならそれでいい。酒に付き合ってくれたお礼だと思ってくれ」
「お前、余所者にしていいヤツだな。何かあったら俺に声かけろ。手伝ってやる」
「ありがたい。その時は頼む」
先程の挑発的な態度から一転し友好的に接してくれる。素直なやつなのかも知れない。だったらこちらも邪険に扱う理由はない。
それはそうとマスターの判定は結局どうなったんだ?北の民について情報が欲しいのだが。
「合格だ。北の民について話をしようじゃないか」
第一関門突破か。ヒヤヒヤさせられたが無事に糸口を掴めてイリアと笑いあった。




