6:凱旋
――戦いを終えた翌日。
俺は森の片隅に、今までギルドの連中に殺されてきた魔物たちの墓を作った。
俺のために脱走しようとしてベルトにやられた者はもちろん、過労死させられた者や、不当な暴力で亡くなった者も含め、全ての仲間たちを弔う。
最後にその中心に、亡き両親の墓も作った。
石を積み上げただけの簡素なものだが、黒髪の人間は墓を建てることすら許されてこなかったからな……。
「父さんに母さん、それにみんな、ギルドの連中はぶっ殺したよ。あの世でちゃんと見ててくれたか?」
『フッ、きっと喜んでいるだろう。……雄のシルバーウルフたちもな』
寂しげに笑うリーダーのシル。
――もちろん忘れたりしないさ。群れを守るために散っていった戦士たちの墓も、ちゃんと作っておいた。
彼らの奮闘があったからこそ、俺はシルたちと出会うことが出来たんだからな。
「……にしてもよかったのか、シル。みんなで守ってきたっていう大切な森の一部が焼けてしまったんだが……」
そう。最初はギルド連中が森に辿り着く前に勝負を仕掛けるという策もあった。
俺が彼らの前に立ち、口八丁でどうにか注目を集めている間に、大回りしたシルたちに背後から襲ってもらうという策でな。
だが、それに対してシルたちは首を横に振った。
“それではエレンの身が危ないだろう。たとえ森が焼けてもいいから、犠牲者を出さずに敵を倒したい”と言って。
『うむ、そのことならば気にするな。安全に勝利するためならば森なんて焼けてしまって構わない』
「ってよくないだろ!? ここはおまえたちの大切な居場所なのにっ!」
『別にいいのだ。……今やわたしたちの居場所は、おまえの側なのだからな』
「っ、シル……!」
――こんなにありがたい言葉をもらったのは生まれて初めてだ……!
本当に銀狼たちと出会えてよかった。思わず涙ぐみそうになってしまう。
「……ありがとうな、シル。さて、湿っぽいのはこの辺にしようか」
『うむ!』
元気に応えるシルを撫で、俺は後ろを振り返った。
そこにはシルバーウルフたちを始めとし、俺のためにギルドを脱走してきてくれたみんなや、新たに仲間になった魔物たちがいた。
『きっー! 見せつけてんじゃないわよっ、エレンと最初に仲良くなったのは私たちなんだからね!』
サラマンダーのサラが炎をボーボー出しながら叫ぶ。
そこにスライムのラミィが『まぁまぁ、嫉妬しない嫉妬しない~!』とほんわか嗜めた。
『し、嫉妬じゃないわよバカッ! ……それで、これからどうするの? 魔術師のベルトが負けたと知ったら、もっと強い軍勢がやってきそうなものだけど……』
「たしかにな。この地の領主からしたら俺たちの存在は危なすぎる」
魔術師、それは人間社会において絶対的な強者である。
一万人に一人しか素養を持つ者は現れないものの、その力たるや数十匹分の魔物にすら匹敵する。
今回は奇襲によってベルトの心を乱し、接近戦に持ち込んだからこそ勝てたが、もしもヤツが後方から炎弾を放ちまくることだけに集中していたら負けていたはずだ。
戦争においてあれほど有用な人材はいないだろう。
――そんな存在をぶっ殺した連中が領内にいたら、領主様は眠れやしないはずだ。
「あちこちのテイマーギルドに声をかけたり、王都に連絡して騎士団を派遣してくる可能性もある。そうなれば俺たちはおしまいだ」
だが、
「――それはあくまで、“俺たちが人類の敵だったら”って話だろう?」
そう言って俺は、懐から銀色の指輪を取り出した。
これはベルトが身に付けていた『ギルドマスターの証』だ。
ギルドの長となった者は、領主から与えられた指輪を受け継いでいくのが恒例となっている。
『ちょっ、まさかエレン、アナタ……!?』
全てを察したのか、サラマンダーのサラが大きく目を見開いた。
俺はニッと笑いながら、指輪を右手に身に付ける――!
「筋書きはこうだ! ベルト様率いる俺たちテイマーギルドは銀狼たちに挑んだが、俺以外の者は敗れてしまった。
しかしベルト様は最期に、養子である俺に『ギルドを頼む』と言ってギルドマスターの指輪を渡してくれた。
こうして父の遺志を受け継いだ俺は、仲間たちへの想いを胸にシルバーウルフたちを屈服させて、街へと戻るのだった……ってなぁ!」
――要するに、立場を奪ってしまえばいいのだ……ッ!
黒髪の者は嫌われているが、ギルドマスターになってはいけないというルールはない。
ただ今まで、黒髪の者なんかにギルドを引き継がせるような者がいなかっただけだ。
ならば俺の『お父さん』であるベルトを最初の一人にしてやろう……! 地獄の底で喜べよ。
そしてシルバーウルフたちもギルド所有の魔物ということにしてやれば、もう誰にも手出しは出来ないだろう。
「ついでに、森を確保せよという領主の依頼も達成した。金も手に入って一石二鳥だな」
森に建てた墓場については、領主にこう話してやろう。
――『ベルト様がこう言ってました。自分たちの最後の仕事の証として、どうかここに墓を建ててくれ』と。
そうなれば簡単に手出しなんて出来ないだろう。
森は広大なのだからその一角を使うくらいは許してくれるはずだし、街のみんなも手を合わせてくれるかもしれない。
……そこに眠っているのが、おまえたちの虐げてきた魔物の群れと、俺の両親だとも知らずにな。
『わぁお……! エレン――いえ、これからはご主人様と呼ぶべきかしら? なんというか一皮むけたわねぇ。ギルドにいた頃は、もっと気弱な感じだったのに……』
驚いた表情で呟くサラ。他の魔物たちもビックリしている感じだ。
まぁ、流石にちょっと腹黒い策だったかなーと思うが、
「嫌いになったか、俺のこと?」
『フッ――むしろ逆よッ! いいわねぇ、やるようになったじゃないのご主人様ッ! それで、地位とお金を手に入れたら次はどうする気!?』
「ハッ、決まっているだろう。人間たちに捕まった魔物を次々に買い取り、虐げられる立場から解放していく!」
働きによっては金だけじゃなく、土地だって手に入るかもしれない。そうなれば心の傷付いた魔物たちの静養地を作れる。
覚悟はできた。彼らのために人間社会で成り上がろう。
黒髪の者と差別されようが、笑顔で尽くしてやろうじゃないか。
――ただし今までとは違う。
無理やりに働かされるのではなく、俺は魔物たちと自分自身のために動くと決めた。
俺は両手を広げると、信頼する仲間たちに語りかける。
「なぁみんな。いつか大量の魔物たちが仲間になったら、クーデターを起こしてやろうぜ。そして手に入れるんだよ、俺たちのための理想の国家を……!」
『私たちのための、国を……ッ!?』
目を輝かせる魔物たち。
生まれた時からずっとヒトに脅かされてきた彼らにとって、それはとてつもなく魅力的な言葉だったのだろう。
誰にも虐げられない理想の世界を夢見て、誰もが恍惚とした顔をする。
俺はフッと笑いながら、そんな彼らに向かって腕を突き出した。
「さぁ魔物たちよ、凱旋だッ! 堂々と街に帰ってやろうじゃないか! 野望と希望を胸に秘めてなぁーーッ!」
『オォオオオオオオオオオオオオオーーーーッ!』
仲間たちの咆哮が森に轟く。
かくしてこの日、俺はテイマーギルドの長となった。
しかし彼らを調教する気など毛頭ない。
――俺自身もまた、国を奪い尽くすと決めた『魔物』なんだからなぁ……ッ!
『更新早くしろ』『ホント更新早くしろ』『止まるじゃねぇぞ』『毎秒更新しろ』
と思って頂けた方は、最後に『ブックマーク登録』をして、このページの下にある評価欄から評価ポイントを入れて頂けると、「出版社からの注目度」が上がります! 特に、まだ評価ポイントを入れていない方は、よろしくお願い致します!!!
↓みんなの元気を分けてくれ!!!




